女性活躍推進法の施行から7年が経過し多くの企業が女性の活躍の場を広げ、働き方改革などを進めてきた。そんな中、働く女性の健康課題に視点をとらえ支援しているのがバイエルだ。具体的な取り組みについて、木戸口結子執行役員に木村恵子「AERA」編集長が聞いた。

木戸口 結子さん Yuko Kidoguchi
バイエルホールディング株式会社 執行役員・広報本部長
20年以上、製薬産業に従事し、2020年から現職。14年、女性の健康教育推進プロジェクト「かがやきスクール」を企画。企業や専門家などとともに、女性の活躍推進を支える健康支援策や医療政策の提言・啓発活動に携わる。

法や制度は見直されるが
健康問題は置き去りに

木村 御社では2015年に、「働く女性の健康増進のためのプロジェクト」をスタートさせたと伺いました。どのようなきっかけだったのでしょう。

木戸口 当時、女性の活躍推進が日本経済の成長戦略のひとつとして掲げられ、法整備や制度の充実化が図られました。とはいえ、活躍の資本となる女性の健康面への配慮が置き去りなのでは、という問題意識を持ったのです。そこで、女性の健康増進の重要性に対する意識向上や、健康増進を支援する制度の実現を目標として立ち上げたのが当プロジェクトです。

木村 具体的な取り組みについて教えてください。

木戸口 16年と18年に、日本医療政策機構(HGPI)に協力し「働く女性の健康増進に関する調査(※1)」を実施しました。その結果、婦人科系疾患を抱える働く女性の年間の医療費支出と生産性損失を合計すると、少なくとも6.37兆円(※1)にのぼることが分かったのです。

木村 6.37兆円とは、衝撃的な数字ですね。

木戸口 そうなんです。この研究調査では、乳がん・子宮頸がん・子宮内膜症・月経随伴症状に伴う経済損失を評価しています。月経随伴症状は、がんなど他の疾患と比較すると軽微なものと思うかもしれません。しかし、多くの女性が毎月直面する問題であり、苦痛による生産性の低下、労働損失を伴うものです。

木村 確かに。若い女性社員の月経トラブルや、女性管理職の更年期症状など、女性のキャリア形成期は、健康を損なう時期と重なる傾向があります。症状がつらいため、キャリアアップを思いとどまるという話を取材でよく耳にしました。働く女性の健康増進について、課題はどこにあるのでしょうか。

木戸口 ヘルスリテラシーの低さが、課題のひとつです。たとえば、定期的な婦人科受診について同じ調査では、「健康なので行く必要がない」「自分の症状は重大な病気ではないと思った」といった理由で、受診しない女性が多く見られました。ヘルスリテラシーを向上させるために、受診すべき症状に関する情報提供や、婦人科の治療内容の理解促進などが必要だと考えています。また、企業が定期的な婦人科受診を社員へ促すことも有効です。

 ※1 「働く女性の健康増進に関する調査」(2016)および(2018) - 日本医療政策機構(Health and Global Policy Institute)

重要なのは婦人科受診を
習慣づけること

木戸口さん
木戸口結子さん

木村 婦人科受診を習慣づけることや、婦人科のかかりつけ医を持つことが重要だということですね。

木戸口 はい。政府や企業への働きかけや調査で分かったのは、社会で活躍する女性の多くが、自分の体や健康についての知識が不十分だったことです。健康維持、あるいは妊娠・出産への備えができていないのです。これは学生時代に、自身の体や健康について学ぶ機会が十分に提供されなかったことが原因のひとつと考え、14年に「かがやきスクール」をスタートさせました。

木村 どのような学びの場なのでしょう。

木戸口 高校生を対象とした、婦人科医による出張授業です。プログラムは、月経トラブル・がん・性感染症・避妊・妊娠適齢期、性の多様性など多岐にわたります。オンライン授業も含め、これまで210校以上の高校生男女約6万人が受講しています。

木村 生徒は、どのような反応を?

木戸口 アンケートをとったところ、受講前に、「婦人科への受診経験がある」と回答した女子生徒はわずか6%でした。しかし受講後は、「すでに受診した」「つらい症状や悩みがあれば婦人科を受診しようと思う」を合わせると約80%に受診意向が認められ、授業による認識の変化がうかがえます。また男子生徒から、「授業を受けてよかった」「女性に優しくしようと思った」といった感想も多く、男女ともに理解する意義を実感します。保護者の参観も歓迎しているんですよ。

木村 私にも小学5年生の娘がいます。性や健康にまつわるさまざまな情報がネット上に氾濫しているので、親として困ることも多いんです。専門家が正しい知識と情報を教えてくれる場があったら、とてもありがたいと思いますね。

木戸口 弊社は21年から、北欧で広く普及している「ユースクリニック」を参考として、若い世代が心身の悩みを話せる相談窓口の普及に向けた提言活動も、プロジェクトを通じて行っています。ぜひ日本でも広がることを期待しています。

LGBT+の課題とも向き合い
多様性が尊重される社会へ

木村さん
木村恵子編集長

木村 御社はLGBT+の課題にも取り組んでいるそうですね。

木戸口 「かがやきスクール」の授業内容にも含まれています。その他、LGBT+の課題に取り組む認定NPO法人「虹色ダイバーシティ」を寄付を通じて支援しています。昨年から3年間、虹色ダイバーシティと協働して、ジェンダー平等の啓発を推進。LGBT+の方へのインタビュー動画「LGBTQと医療」を制作し、医療機関、学校、企業の研修などに活用いただくことを想定しています。

木村 幅広い活動をされていますね。今後の展望をお聞かせください。

木戸口 ヘルスリテラシーを向上させ、誰もが自分の健康とライフプランを主体的にコントロールすることが大切です。そのため、必要に応じて専門家へアクセスできる環境づくりに、引き続き取り組みます。また、SRHR(性と生殖に関する健康と権利)の推進、ジェンダー平等で多様性が尊重される社会の醸成にも注力してまいります。

ドイツで創業150年以上歴史あるライフサイエンス企業

 バイエルは「Health for All, Hunger for None (すべての人に健康を、飢餓をゼロに)」をビジョンとして掲げ、ヘルスケアと農業関連事業を中核とするドイツ発祥のライフサイエンス企業。150年以上の歴史を持ち、現在、世界83カ国で10億人以上の人々に製品とサービスを提供している。健康と食糧という人々の最も基本的なニーズにイノベーションで応え、SDGs達成に向けたサステナビリティへの取り組みにも注力する。

木村恵子の編集後記

木戸口さんは物腰がやわらかで、ポジティブな雰囲気をまとう方。どの世代の女性も働きやすくなるように、社会全体を変えたいという気概を感じました。働く女性が体調不良を抱えると、気軽に周囲に相談できず、「我慢する」「無理をする」といった風潮が日本にはあると思います。そこに真正面から向き合い、キャリア女性のみならず高校生にまで働きかける豊かな発想とパワフルな行動力。女性の働き方や人生がステップアップしていく希望を感じました。

問い合わせ先:バイエルホールディング株式会社 https://www.bayer.jp/ja/

文/内藤綾子 撮影/吉場正和
『AERA』 2023年1月30日号(1月23日発売)掲載 特別広告企画より転載