「呼吸を変える 呼吸を意識することで、からだの変化に気づく」
ストレス社会を生きる多忙なビジネスパーソンに新たな気づきを与える連載「モードコントロールのススメ」。初回のテーマは「呼吸を変える」。
ほとんどの生物にとって欠かせない運動である呼吸。しかし、われわれが日常生活で意識する機会はそれほど多くないだろう。
まずは息を吸ってから吐くまでの時間をストップウオッチで測ってみて欲しい。一般成人では平均4~5秒のサイクルだといわれている。ざっとかけ算すると、1日の呼吸回数は2万回ほどになる。2万回も行うものを、自分の思うようにコントロールできたら、さまざまな良い効果が生まれるのではないか。
その仮説を検証すべく、2人の識者に呼吸の変え方を取材した。
ゆっくり呼吸でストレス軽減
2020年に刊行され全米で77万部と大ヒットし、日本を含め40カ国以上で翻訳された本『Breath』の著者、ジェームズ・ネスター氏に話を聞いた。ジェームズ氏はサンフランシスコを拠点にする作家・ジャーナリストで、この本を書くにあたり約10年かけてアメリカ、スウェーデン、ラトビア、ブラジルなど世界中の呼吸の達人へ取材を重ねた。また、自身のウェブサイト(www.mrjamesnestor.com/breath)では、自らが体験した呼吸法を更新しつづけており、呼吸に関するスペシャリストといえる。
「現代のオフィスワーカーの約8割は、”継続的・部分的注意力”と呼ばれる問題に悩まされています」とジェームズ氏は切り出した。
オンライン会議をしながらメモをとり、同時にデスクトップに届いたメールを見て、SlackやTeamsなどのメッセージにも反応し、ツイッターなどSNSまでチェックする。これを延々と繰り返す。特定のタスクに完全に集中することがない、このような状態を継続的・部分的集中力というそうだ。
集中できず気が散っている状態では、呼吸はとても浅く、そして不規則になる。
「人によっては30秒以上も息をしない状態が仕事中に起きています。これらは『電子メール無呼吸症候群(Email Apnea)』という名前で呼ばれており、無意識のうちに発生しているため、睡眠時無呼吸症候群(SAS)のように心身の不調の一因と考えられます」
SASが高血圧や神経障害、自己免疫障害などの原因になるのは知られているが、Email Apneaも同様の症状を引き起こす可能性があるという。
「多くの人がコンピューターを使って長時間仕事をするようになってから、まだ20~30年程度しか経っていません。人間の長い歴史から考えれば、体がまだ順応していないと言えるのではないでしょうか。座ったまま長時間モニターを見ることで視力が悪くなる、肥満の問題が出てくる、そして呼吸の問題が出てくる。いずれも不思議なことではありません」と話す。
一方、意識的に呼吸を変えることができれば、驚くべき効果も期待できるともジェームズ氏は話す。オススメするのは鼻からゆっくりと呼吸する方法だ。
「オフィスでも簡単にできる方法としては、鼻から2回、スーッ、スーッとゆっくり息を吸って、1回深く吐くことを推奨します。これを何回か続けていると、体がリラックスして軽く感じられるはずです。もしくは1から4までゆっくり数字を数えながら息を吸って、同じカウントで息を吐くのもいいでしょう。もちろん思いついたときでもいいのですが、30分とか1時間のアラームをかけて、意識的に繰り返し実践するのがよいですね」
「呼吸はボートをこぐようなものです。鼻から空気を吸うことだけが重要なのではなく、息をしっかり吐くことも重要なのです。ゆっくりした呼吸を続けて、呼吸の数を減らすように変わることができれば、さまざまなストレスが軽減され、身体が変化することに気づくでしょう」
「呼吸を変える 呼吸をととのえ、パフォーマンスを改善」
「腹筋を使っておなかの動きを感じながら、意識してしっかり息を吐いていきましょう―」
11月上旬、横浜市のセミナールームに集まった約30人の女性が、やや緊張した表情で呼吸法に取り組んでいる。講師はヨガインストラクターの沖知子さん。この日のセミナーでは呼吸を三つのステップにまとめたエッセンスを紹介した。
沖さんが示したのは「調身」「調息」「調心」の3ステップ。それぞれ「姿勢を正す」「呼吸を整える」「瞑想(めいそう)する」ことを意味しているという。
「きちんとした呼吸をすることは、ヨガにおいてとても大切なステップの一つです。どうしても独特のポーズが注目されがちですが、正しい呼吸法を理解しなければ、先に進むことはできません」と沖さんは話す。
特に強調したのは、前段のジェームズ氏でのインタビューでもあった「呼吸を意識する」ことだ。例えば、深くて長い呼吸をすれば気持ちを落ち着かせることにもつながるが、実際にやってみるとかえって息が切れてしまう人も多い。あえて長い呼吸を試してみるなど、普段から意識しておくことが大切だという。
今回のセミナー受講者は、ミス・インターナショナル日本代表の最終選考に残った候補者たち。2日後にある日本代表選出大会を前に、それぞれが緊張した表情を隠せないまま、この日を迎えていた。
そんな中で行われたセミナー。沖さんの指導で姿勢を正し、呼吸を整えたうえで、最後に瞑想の時間を迎えたころには、参加者の多くが柔らかい表情で笑顔を浮かべていた。
「意識的な呼吸を心掛けることができれば、感情をコントロールすることもできるようになります。それは、スポーツや勉強、仕事など、日常の様々なシーンで最大のパフォーマンスを発揮することにもつながるのです」
***
今回は呼吸を意識することから、からだの変化に気づき、身体をコントロールするきっかけをつかむことを識者から学んだ。次回は「身体を動かす」がテーマ。運動が導く効果やうまく日常生活に運動をとり入れるコツを学ぶ。