【エキスパートから学ぶ】習慣化コンサルタント 古川武士さん【前編】「本質」がわかれば「習慣化」で毎日は変わる

写真・図版
目次
  1. 「早起き」がウェルビーイングにつながる
  2. 「習慣化」できる理由とできない理由

毎日の生活を、今よりもちょっとだけいいものにしたい――誰もが持つそんな願いをかなえるためには、どんな方法があるのでしょうか。

様々な分野のエキスパートにヒントやコツを教えてもらうインタビュー連載。今回登場していただくのは、「習慣化」の視点からその人の人生や生き方をアドバイスするコーチングを行っている習慣化コンサルタントの古川武士さん。

マンネリ化した日常に変化を起こすちょっとしたコツから新しい人生の踏み出し方まで、ウェルビーイングを視野に入れて聞きました。

古川武士(ふるかわ・たけし)さん

習慣化コンサルタント
習慣化コンサルティング株式会社 代表取締役

古川武士

約5万人のビジネスパーソンの育成と10,000人以上の個人コンサルティングの経験から「続ける習慣」が最も重要なテーマと考え、日本で唯一の習慣化をテーマにしたコンサルティング会社を設立。個人や企業の目標達成、生活改善、行動定着を支援。オリジナルの習慣化理論・技術を基に、セミナーや講演、コーチングやコンサルティングなど習慣化のノウハウを提供している。

著書は習慣化だけで24冊、累計100万部を超え、海外でも広く翻訳され読まれている。代表作に『30日で人生を変える「続ける習慣」』『新しい自分に生まれ変わる「やめる習慣」』『高密度仕事術』など。

「早起き」がウェルビーイングにつながる

――今、注目が集まっているウェルビーイングですが、古川さんはどういうものだと捉えていますか。

ウェルビーイングとは、心理的にも肉体的にも充実していること、さらにその充足感を表したものだと思うんです。

この「充足している」または「心が満たされている」という状態を作ること。じつはこれこそが、私が「習慣化」のコーチングをやっている最大の目的です。

人生をいかに豊かに生きるか。それがいちばん最初に目的論としてあって、そのための手段として「習慣化」がある、というのが基本的な考え方です。

ウェルビーイングを実現する充足感を考えるうえで大切なのは、日々の生活に目を向けることです。日々の生活のなかでやっていることや生活リズムによって、充足感は大きく上がったり下がったりするからです。

例えば朝、自分が決めた時間に早く起きることができて、散歩やウォーキングができた。そして早めに出社して、朝から計画を立てて仕事がスタートできた。こういう日は、間違いなく大きな充足感に満たされると思います。

一方で、朝ぎりぎりに起きて、駅までダッシュして汗だくになって電車に乗って、会社に着いたら人から言われるままに仕事がスタート。行き当たりばったりで進めて、気づいたらもうこんな時間だ、となってしまった一日では、充足感が全然違いますよね。

日々の充足感が高い毎日を生きるのか、逆に充足感が低い毎日を生きるのか。それによって、その人の人生がまったく違ったものになるはずです。

――古川さんは「習慣化」のコーチングをされています。ウェルビーイングな毎日を実現するためには、どんな習慣を身に付ければいいのでしょうか。

身に付けるべき習慣かどうかは、私は「日々の充実感」を軸に判断していけばいいと思っています。

例えばお酒。健康のことを考えると飲み過ぎがよくないのは事実ですが、決してすべてが悪ではありません。

例えば、好きな人にとってのお酒は、おいしくて自分にとっていいとか、周りの人たちとの人脈ができるとか、その人にとってのウェルビーイングにつながるという側面もあると思うんですよね。

よくいわれる「早起き」もそうです。早起きは絶対的に良くて、夜更かしは絶対にダメなのかというと、必ずしもそうとは限りません。

いろんな人たちとの交流は、夜に行われることって結構多いですよね。意見交換とか、刺激を受けるコミュニティーの仲間たちとの交流とか、そういうものが自分にとってすごく貴重だと捉えているのであれば、その人にとっての早起きは睡眠不足につながりかねない「よくない習慣」なのかもしれません。

「どういうことを習慣化すればいいですか?」「これは健康にいいから習慣化するべきですか?」というような質問は、確かによくいただきます。

私がおすすめしたいのは「ウェルビーイングが高まる、すなわち自分の充足感が高くなる生活って何だろう」ということを、まずは一度しっかりと考えてみること。そのうえで日々の中の小さなこと、小さな選択を変えてみれば、日々の充実感はまったく違ってくるはずです。

例えば夜、食べ過ぎてしまったとします。「ああ、食べ過ぎてしまった」というふうに落ち込んでしまいがちですが、そこで「食べ過ぎたのはしょうがない。じゃあその代わりにスクワットをやろう」というふうにちょっとした選択で行動を変えるだけで、気持ちや充実感は取り戻すことが可能なのです。

「習慣化」できる理由とできない理由

――ちょっとしたこと、小さなことでいいんですね。

ポジティブ心理学に「幸福の公式」というのがあります。

幸福は、

  • 「規定値」(捉え方や考え方)
  • 「生活状態」(事実や出来事)
  • 「自発的活動」(自己コントロールや規律・自由選択)

という3要素の合計だという考え方です。

写真・図版

注目すべきは、その3要素の割合です。「規定値」が40%、「生活状態」が10%、「自発的活動」が50%といわれています。つまり、幸せの半分は自発的・主体的な活動ができているかどうかで決まる、というのです。

ポイントは「何を習慣化するか」よりも「自分で決めたことができたかどうか」ということ。本当に小さなことでいいんです。大切なのは、周りから言われて「やらされている」のではなく、自分で決めて実行したという「やっている」という感覚。同じ環境の中で同じ仕事をしたとしても、自ら能動的にやっているのか、それともやらされているのかで、ウェルビーイングにつながる充足感はまったく違います。

習慣化で前向きな生活を送りたいけど、何から始めたらいいのかわからないという人には、私は「早起き」「運動」「片付け」をおすすめしています。これを「習慣化の三種の神器」と呼んでいます。

これらがなぜいいのかということも、先ほどの「やっている感」で説明ができます。

例えば早起き。「自分で選択した時間に、自分で決めて起きた」ということにポイントがあるんじゃないかなと思うんですね。何時に起きたかということよりも、会社に行かなければならないから仕方なく起きたのではなく、自分で「この時間に起きる」という主体的選択をしたという感覚があること。これが充足感につながっていく。

運動もそうですよね。別にやらなくても怒られるわけでもなければ、誰かに監視されているわけでもない。でも、自分で決めたちょっとしたルールを守れたというだけで、日常生活の充足感がまったく違ってくる。

片付けも同じです。誰かから言われたわけではなく、自分の意思で机をすっきりさせてから一日を始めることで、気分も大きく変わります。周りの環境の散らかり具合と、自分の心の状態って、ものすごくリンクするんです。環境を整えることと心を整えることは、きわめて強い関係があると思います。

逆に、頭ごなしに「早起きしろ」「運動しろ」「片付けしろ」というふうに言われてしまうと、それが重たく感じてしまって「あー、もうできません」となってしまう。

いつもより15分だけ早起きしてみるとか、15分だけウォーキングしてみるとか。片付けなら、わずか5分間でもいいのでタイマーをセットして、パッと片付ける。そんな程度のことでも、実はびっくりするくらい気分が変わるんですよ。

いつもならやらないこと、やっていないところに、ちょっとした選択を取り入れて介入する。大げさなことをやらなくても、気分とか充足感ってだいぶ変わるんじゃないかなって思うんですね。

――その「ちょっとした行動」がなかなか続かない、という声も聞きます。

そこには実は大事なポイントがあって、それは「自分の内側の声」に一致しているかどうか、ということです。自分が本当にやりたいことって何なのか? 自分が求めていることって何なのか? それをきちんと理解しなければいけません。

内なる声とか、自分のボイスなどといわれることもありますが、私はこれを「本質」と呼んでいます。この「どうしてもこれをやりたい」と思う声を、どれだけ人生の中に投影できるか、ということですね。

「人生100年時代」といわれ、多くの企業で副業が許可されるようになった今の世の中は、「個人の選択の自由」が強烈に出てきた時代だと思うんですね。

有名なピーター・ドラッカーという経営学者が、こんなことを言っているんです。

「数百年後、歴史家が今の時代を叙述するとしたら、彼らが着目するもっと重要な出来事は、テクノロジーでもインターネットでもなく、eコマースでもなく、人間を取り巻く環境の歴史上前例のない大激変であろう。

選択の自由を手にする人間が急激に増えている。これは文字通り歴史上初めてのことである。そして歴史上初めて、人間は自分自身をマネジメントしなければならなくなる。しかしこの社会は、それに対する備えがまだできていないのである」

産業革命の時代とか、もっと以前の狩猟採集の時代とか、そういった時代には選択する余裕がなかった。それができるようになったのが現代です。

かつての肉体労働中心の世界だと、子育てしながら働くというのはやっぱり無理があったと思うんです。しかし今は違う。自由な世界になって、女性もキャリアを積み、性別に関係なく人生にいろんな選択が可能になってきた。子どもを持つ生き方もあるし、結婚しない生き方もある。

写真・図版

では、そういった様々なチョイスがある中で我々にとって重要なことは何かというと、それは自分自身をマネジメントしなきゃいけなくなるということでしょう。

例えば食べるということひとつとってみても、数え切れないくらいのチョイスがあります。コンビニエンスストアをのぞいてみても、おいしいスイーツが次々と新しく出てくる。

ネットの存在も大きい。かつては、通勤電車の中ではひとり静かに本を読むなど、ゆっくりできる時間がありました。でも今はスマートフォンがあることで、大量の情報に触れることができる。同時にそれは、誘惑もたくさんある、ということでもあります。

そうすると、自分をしっかりとマネジメントしないと、どんどんそういうものに時間を奪われていってしまいます。

「終身雇用」や「年功序列」といった言葉に代表されるかつての社会は、成功の定義がはっきりしていました。大企業に入ってその会社の出世レースのなかで課長、部長、本部長とのぼりつめていく。それが「いい」とされる生き方でした。

今はもう、そういう時代ではありません。選択の自由を手にした我々は、自分の価値基準、すなわち「自分の内側は何をしたいというふうに思っているのか」ということを考えて、見つけていく必要があります。

自分はどういう人間で、自分の内側の自分の個性はいったい何なのか? 本当にやりたいことは何なのか? その「本質」「内なる声」を拾っていきながら、人生を充足させていく。

人生において大事なことを、生活においてどう反映させていくか。人生の意義とか意味を自分の価値観と統合して、生きていけるかどうか。それが重要だと思っています。

「生活だけ整えても、何か違うんだよね」「この会社に大きな不満はないんだけど、何か違うんだよね」――そういう気持ちって、そのままでは絶対に晴れることはありません。そういうときこそ、「自分は何がやりたいのか」ということをきちんと考える必要があると思うんです。

「年収が高くなった」とか「組織の中で出世した」ということで幸せを感じる人も確かにいます。でも、全員がそうかと言えば、決してそうではありません。 幸せが何なのかというのは、人によってまったく違うものです。

自分の内なる根源である「本質」が何を欲しているのか。それをきちんと理解し、そのことに忠実に生きることが、とても重要だと思っています。

RELATED関連記事