「自分らしく生きる」を、実際に選べる社会へ。
WELLBEING AWARDS 2027が見つめる「人の変化」
「自分らしく生きる」とは、本人がそう願えば実現できるものなのでしょうか。制度があっても使いにくい。選択肢があるように見えても、周囲の目や環境によって選べない。ウェルビーイングを考えるうえでは、本人がどう感じるかと同時に、その選択を可能にする社会や環境にも目を向ける必要があります。
「WELLBEING AWARDS 2027(第5回ウェルビーイング・アワード)」の解説セミナーでは、フローリストでアワードのナビゲーターを務める前田有紀さんが聞き手となり、ウェルビーイングアクション実行委員でもある博報堂 生活者発想技術研究所の伊藤幹さん、立命館大学総合科学技術研究機構准教授でLGBT総合研究所フェロー、アワード審査員の森永貴彦さんと対話しました。セミナーでは、森永さんが語る「選べる環境」を手がかりにウェルビーイングについて考えるとともに、企業・団体が自らの取り組みをどう捉え、アワードが何を評価するのかについて議論しました。

声になりにくい「違い」を、どう社会に届けるか
前田:森永さんは、LGBTに関する研究や企業との共創を通して、多様な人が自分らしく生きられる社会について、長く向き合ってこられました。活動の背景と、ウェルビーイングへの考えを教えてください。
森永:一つは、実態や困りごと、ニーズを調査し、社会に伝えることです。マイノリティは、認識が十分に得られていなかったり、正しい知識が広がっていなかったりすることがあります。まずは、そこをきちんと可視化する必要があると考えてきました。
森永:もう一つは、そのデータを活用して、企業や自治体と一緒に考えることです。企業研修や情報提供を行ったり、包摂的なプロジェクトを検討したりしてきました。そして、マイノリティと共に、商品・サービスを考える「共創マーケティング」にも取り組んできました。
前田:LGBTQをめぐるテーマは、以前は特に、「言葉に出して話してよいのだろうか」とためらう方も多かったのではないでしょうか。まずは、見えていなかったものを調査などを通して見えるようにする。そこから始めることが大切なんですね。
森永:性のあり方は、目に見えないダイバーシティでもあります。自分からは言いづらいこともありますし、周囲からは気づかれにくいアイデンティティでもある。だからこそ、なかなか声として表に出てこないことを調査で捉えて、社会に伝えていく必要があります。「目をつぶらずに、一緒に見ていきましょう」ということですね。
前田:企業との協働では、どのような実践がありましたか。
森永:例えば全日空さんとは、企業研修から始め、マイノリティの方が現場でどのようなことに困るのか、マジョリティの方には気づきにくいことは何かを調査しながら、サービスを改善する取り組みを行いました。
森永:また、TOTOさんとは、誰もが使いやすいトイレとはどのようなものかを考えました。さまざまな立場の方の声を聞きながら、どんな機能や空間が必要なのかを検討しました。トイレの中だけでなく、その外側も含めて、「行きづらい空間」ではなく「行きやすい空間」をどうつくれるかを考えました。
「配慮する/される」を越えて、共につくる
前田:マイノリティの困りごとに対応することはもちろん大切です。一方で、森永さんは、マイノリティとマジョリティを分けたまま考え続けることにも課題を感じていらっしゃるそうですね。
森永:そうですね。マイノリティの人は何に困っているのかを考え、マジョリティはそこに配慮しましょう、という発想は出てきやすいと思います。それは必要なことですが、ただ、ずっと『配慮する側/される側』と分断されたままでいいのか、という思いもあります。
森永:違いはそもそもあって当たり前です。マイノリティとマジョリティの境界をどう越え、混じり合いながら、共に社会課題に向き合っていくか。その視点が重要だと思っています。
森永:マイノリティのために課題を解決する、という発想だけでなく、異なる立場の人たちが一緒に商品やサービスを開発できるような取り組みを考えたい。それが、私が「共創」という視点で進めていることです。
伊藤:すごく共感します。現在はマイノリティと呼ばれている方々がいらっしゃる一方で、そうではない人にも「自分は少し人と違うかもしれない」と感じる悩みはあるはずです。
伊藤:考えてみれば、誰にでも何かしら人と違う部分はありますよね。そうした違いを、特別なものとして扱わなくていい社会になっていくといいと思います。性的マイノリティであることが、身長が高い・低い、足が速い・遅いといった違いと同じような自然なものとして語られる社会は、とても素敵だと思います。
前田:名前のついていないマイノリティも数多くあって、自分自身にも当てはまる部分があるかもしれない。そう考えると、『マイノリティの人たちの話』ではなくて、私たち一人ひとりに関係する話に見えてきますね。
森永:アイデンティティは本当に無数にあって、その構成も人それぞれです。何の切り口でマイノリティになるか、マジョリティになるかは、本当に分からないと思います。

「選択肢がある」と「実際に選べる」は違う
前田:森永さんは、ウェルビーイングを主観的な幸福感だけで捉えるべきではないとお話しされていました。
森永:ウェルビーイングは、本人が幸せだと思っているかどうかだけでもなく、所得や仕事、住まい、健康、安全、ワークライフバランスといった客観的な条件だけでもないと思います。
森永:大事なのは、その人がどんな環境に置かれていて、その中でどんな生き方を実際に選べるのか。その両方を見ることだと思います。
前田:制度やサービスを整えることだけでは、十分ではないのでしょうか。
森永:制度として『使えます』となっていても、実際には使いづらいのであれば、本当に選択肢があるとは言いにくいですよね。
森永:例えば同性パートナーシップ制度も、制度としては素晴らしいと思います。ただ、「どうすれば使いやすくなるのか」という次の一歩まで踏み込めていない状況もあります。
森永:私自身がウェルビーイングのアクションを考えるとき、特に大切にしているのは、一人ひとりが、自分にとって価値のある生き方を『実際に選べる』環境になっているかという視点です。
森永:自分らしくありたいと思っていても、それを選べるかどうかは、本人だけでは決められません。周囲の環境にも大きく左右されます。選べる制度や商品・サービス、社会の前提を整えながら、それを実際に選択できる環境をつくることが大切だと思います。
前田:制度があるかどうかだけでなく、本当にそれを使えるのか、選べるのか。そこまで考えて初めて、ウェルビーイングにつながっていくんですね。
売上の向こう側にいる人のしあわせを考える
前田:伊藤さんは、企業や団体がウェルビーイングに取り組むとき、どのようなところから考え始めるとよいと思われますか。
伊藤:まずは、自分たちの仕事が誰をどう幸せにしているのか、あるいは自分たちの仕事を通して誰かを不幸にしていないかを、改めて見つめ直すことだと思います。
伊藤:ビジネスパーソンは、目の前の仕事や数字に追われがちです。売上や利益を出すことはもちろん大切です。でも、売上の向こう側には、必ずその商品やサービスに価値を感じて、お金を払ってくれた人がいます。
伊藤:「なぜ、この人は価値を感じてくれているのか」「何を幸せに感じているのか」「その人の暮らしをもっと良くするために、自分たちに何ができるのか」を考えることが、ウェルビーイングにつながる商品・サービスを考えるうえで重要だと思います。
前田:売上や利用者数だけを見るのではなく、その向こう側にいる人の暮らしまで想像してみる、ということですね。
伊藤:そうですね。よく「ハピネスとウェルビーイングは違う」と言われます。その瞬間が楽しい、うれしいということも大切です。ハピネスがその瞬間の『うれしい』『楽しい』だとすれば、ウェルビーイングはもう少し長い時間軸で考えるものだと思っています。点ではなく、人生という線で捉えるイメージです。
伊藤:商品やサービスを使うことで、その人の暮らしがどう良くなるのか。より自分らしい、幸せな人生につながるのか。そこまで考えていくことが重要ではないでしょうか。
前田:まずは、自分たちが向き合っている商品やサービス、活動が、誰のどのようなウェルビーイングに関わっているのかを考えてみる。商品やサービスを提供した瞬間だけでなく、その後の暮らしがどう変わっていくかまで考えてみる、ということですね。
「何をしたか」だけでなく、「何が変わったか」を伝える

前田:ここからは、WELLBEING AWARDS 2027について伺います。今年は応募部門と審査基準を見直したそうですね。
伊藤:はい。見直しは、評価を厳しくするためではありません。応募を検討される皆さんにとっても、審査する側にとっても分かりやすくし、より多様な取り組みを受け止められる仕組みにすることが目的です。
伊藤:これまでの運用では、「自分たちの取り組みはどの部門に当てはまるのか」と迷われるケースがありました。サービス型の事業、社会に向けた活動、社内に向けた取り組みが近い部門に混在することもありました。
伊藤:そこで今回は、『何をする取り組みなのか』『誰に向けた取り組みなのか』が分かりやすくなるよう、部門を整理し直しました。 応募部門は、次の3部門です。

前田:社会や生活者に向けた取り組みか、従業員に向けた取り組みか。そして、形のあるプロダクトか、活動・アクションか。この二つを手がかりにすると、部門を選びやすくなりそうです。
伊藤:その通りです。さらに審査基準も、アワードとして何を大切にするかをより明確にするため、四つの軸に整理しました。幸福観、課題設定、解決手段、影響力です。

伊藤:幸福観は、その取り組みが誰の、どのようなウェルビーイングを目指すのか、どのような未来を実現したいのかということです。
伊藤:課題設定では、なぜ向き合う必要があるのか、見過ごされてきた困りごとや生きづらさにどのように光を当てたのかを見ます。
伊藤:解決手段については、AIやテクノロジーなど、何か新しい技術を使って、スマートに課題を解決していることだけが評価されるわけではありません。一人ひとりの声を聞きながら、何が本当の課題なのかを時間をかけて探ってきた。そうしたプロセスも応募者ならではの強みや工夫として大切に見ていきます。
伊藤:そして影響力では、取り組みそのものの規模だけではなく、それを見た他の企業や組織が「自分たちにもできそうだ」と感じ、その取り組みが、別の企業や地域にも広がっていくきっかけになるかもしれない。そうした可能性も見ていきます。
前田:4つの項目をすべて完璧に満たさなければ、応募できないのでしょうか。
伊藤:そうではありません。4項目を機械的に点数化し、単純な合計点で決めるわけではありません。審査員それぞれの専門性も生かしながら、取り組み全体を総合的に評価します。
伊藤:まだ規模が大きくなくても、課題への着眼や解決に向けた工夫が非常に優れている取り組みには、大きな可能性があります。数字や規模だけを見るのではなく、それが誰のウェルビーイングにどのように寄与しているのかを丁寧に見ていきます。
前田:森永さんは、審査員として応募書類を読む際、どのようなことを大切にされていますか。
森永:毎年、審査員の間でも「これはウェルビーイングのアクションなのか。それともダイバーシティ推進活動にとどまっているのか」ということをよく議論します。
森永:ダイバーシティ推進は、もちろんとても重要です。多様な人が参加できる環境をつくること、誰かが排除されない仕組みをつくることは不可欠です。
森永:ただ、ウェルビーイングという観点からもう一歩知りたいのは、その取り組みによって、人の生活や経験にどのような変化が生まれたのかということです。
森永:例えば、安心して働けるようになったのか。あきらめていたキャリアを選べるようになったのか。利用できるサービスが生まれたのか。孤立せず、人とのつながりを持てるようになったのか。そうした変化まで見えてくると、取り組みとウェルビーイングの接点が、より明確になります。
前田:制度や設備、方針を整えたことだけでなく、実際に使う人の声や経験の変化まで伝わると、そこで初めて、その取り組みが人をどう幸せにしたのかが見えてきますね。
森永:その通りです。定量的な成果も大切ですが、小さな取り組みであっても、誰にどのような変化を起こしたいと思って始めたのか、実際に何かが変わり始めていることが見えれば、それはとても大きな意味があります。
森永:施策を提示するだけではなく、どのような変化が生まれたのかを意識して、応募書類をつくっていただきたいと思います。
森永:幸福観、課題設定、解決手段、影響力という四つの要素を別々に説明するというより、『なぜ始めて、何をして、その結果どう変わったのか』という一連のストーリーとして伝えていただけると、審査員としても理解しやすくなります。
ウェルビーイングの形は、一つではない

前田:最後に、応募を検討している皆さんへメッセージをお願いします。
伊藤:自分たちの活動はまだ大きくない、アワードに応募するほどではない、と感じている方もいらっしゃるかもしれません。まずは、自分たちの取り組みが、誰のどのようなウェルビーイングに寄与しているのかを振り返ってみてください。
伊藤:振り返ってみると、自分たちでは当たり前だと思っていたことが、実は誰かのウェルビーイングにつながっていたと気づくこともあると思います。多様なエントリーをお待ちしています。
森永:過去の受賞作品を見て、「自分たちの取り組みは違うのではないか」と思う方もいらっしゃるかもしれません。むしろ、ウェルビーイングの形は人によって違うのですから、そこに向けたアクションもいろいろあっていいと思います。
森永:皆さんが現場で見つけた課題や、その課題に向き合うために重ねてきた工夫、熱い思いがあれば、必ず審査員に届くと思います。ぜひチャレンジしていただきたいです。
前田:皆さんが日々向き合っている課題や、そのために積み重ねている工夫の中に、誰かのウェルビーイングを高める実践があるかもしれません。
前田:「誰の、どんなウェルビーイングを目指すのか。」応募をきっかけに、『自分たちは誰を、どう幸せにしたいのか』を改めて考えてみる。それ自体が、これからの取り組みを考えるきっかけになるのかもしれません。
WELLBEING AWARDS 2027(第5回ウェルビーイング・アワード)エントリー受付中
WELLBEING AWARDS 2027は、多様な幸せを尊重し、あらゆる人が自分らしく生きられる社会の実現に寄与する実践を募集しています。規模や業種を問わず、「モノ・プロダクト」「活動・アクション」「社内制度・活動」の3部門でエントリーを受け付けています。
審査では、幸福観、課題設定、解決手段、影響力の4つの軸から、取り組み全体を総合的に評価します。制度や施策を整えたことだけでなく、その実践によって誰にどのような変化が生まれたのか、そして今後どのように広がっていく可能性があるのかを、ぜひ皆さま自身の言葉でお聞かせください。
応募条件、エントリー方法、審査スケジュールなどの詳細は、WELLBEING AWARDS 2027公式サイトをご覧ください。
お問い合わせは、ウェルビーイング・アワード事務局まで。
awards@wellbeingaction.com
