個別指導塾「スクールIE」、英語で預かる学童保育「Kids Duo(キッズデュオ)」など国内外で2000教室を展開するやる気スイッチグループは、コロナ禍に業績を伸ばし続け、2021年には売上高で業界トップとなった。幼児向けの英語教育やプログラミング教育にも力を入れる同グループが見据える教育の未来とは? 個別指導塾の業界をリードする高橋直司代表取締役社長に話を聞いた。
——高橋社長はコロナ禍の教育現場をどうご覧になっていますか?
コロナ禍によって、世界はますます不確実な時代に突入しました。教育現場も大きな変化の渦中にあり、不安を抱える保護者の皆さんも多いことでしょう。もともと「AI化」「ディープラーニング」「シンギュラリティ」「VUCA」など、さまざまなキーワードで社会の急激な変化が叫ばれていました。実際、テクノロジーの進展によって、今まで理想とされてきた「いい大学を出て、大企業に就職」というゴール自体も揺らいでいます。これからは、子どもたち一人ひとりが才能、能力を自覚的に伸ばし、自分の足で立って生きる力が求められます。
やる気スイッチグループは、「自分で考え、自分で決め、自分で行動する『自分力』を育むこと」を教育目標として、個別指導塾「スクールIE」、英語で預かる学童保育「Kids Duo」など、さまざまな教室を展開してきました。20年以上前から発信してきたメッセージが、コロナ禍の今、広く社会に受け入れられているのを感じます。
——コロナ禍の厳しい状況が続くなか、業績を伸ばしていると伺っています。
おかげさまでやる気スイッチグループのスクールブランドは、国内外で2000教室を超え、2021年には売上でも業界最大手(※)になることができました。コロナ禍にリアルな「場」である教室が増えたことには2つ理由があります。
1つは「個をもって、個を育む」教育を徹底したことです。例えば、個別指導塾「スクールIE」では、受験合格は目的ではない、自分の努力、先生とのコミュニケーションによって目標を達成した成功体験こそ重要なのだと子どもたちに伝えています。一人ひとりとしっかり向き合いながら、個々の能力を伸ばし、人生を積極的に生きていける子どもを育てたいというメッセージが、保護者の皆さんに共感いただけているのだと思います。
2つ目は、「非日常空間」の提供です。これはコロナ禍の前からですが、子どもも保護者も日常の行動範囲が急速に狭くなっていますよね。兄弟姉妹も少ないし、同じ学年、同じクラブ活動の子としか遊ばないような環境が普通です。つまり、日常の中で接するグループが細かく分かれすぎている。そこで、やる気スイッチグループの教室では、年の離れた子や違う特技を持つ子と一緒に遊び、学ぶ空間を提供しています。
また、教室のネットワークが保護者の皆さんにとっても「非日常」であってほしいと思っています。コロナ禍でますます、保護者が孤立しているような状況も見かけます。気軽に子どもの相談にのってもらえる場所、子どもをほめてもらえる場所……それも当グループの教室の役割だと思うのです。
保護者の皆さんには、月1回以上電話をして、お子さんの様子をヒアリングする"家庭連絡"を10年以上続けています。リアルの保護者面談も年3回ペースで行います。こんな時期だからこそ、メールやSNSのメッセージでなく、電話の肉声が届くのではないでしょうか。
——スクールに通う子どもたちの継続率の高さも注目されていますね。
これもまさに、「個をもって、個を育む」に行き着きます。今、学習塾業界で大きな課題になっているのは、主体的に学ぶ力の低下です。テスト前に狭い教室に缶詰にして、大量のプリント攻めにする従来の教育が、子どもたちから主体性を奪ってしまったのです。
今、現場で求められるのは、少人数環境における「個別最適性」の追求です。例えば、「スクールIE」では、入塾前の子どもたちに学習習慣や生活習慣、目標を決める力などに関する200項目のアセスメントをします。これは、ETSと呼ばれる個性診断テストで、この診断結果に基づいて、相性のいい担任を決め、一人ひとり合う教育プログラムを提供します。どんな子にも必ず強みはあります。そこを自覚させ、伸ばすことで、学ぶ楽しさを発見し、主体的に学ぶ習慣がつくのです。
「個別最適性」といっても英語テストのスコアや学校の成績に合わせて、プログラムを考えるわけではありません。むしろ、「これが好き」「これをやりたい」という子どもたちの「情緒」「情動」と向き合うように診断テストを設計しています。
教室で自分にぴったりのプログラムを提供された子どもたちは、積極的に行動し、ほめられる体験をする。すると次もやりたくなる……そんな、「やる気スイッチ」を入れるプロセスを長年のノウハウをもとに構築しています。この教育モデルは、当グループの7つのスクールブランドや「プログラミング教育 HALLO」などの学習プログラムすべてで応用しています。
——数あるスクールブランドの中で、近年特に力を入れている分野はありますか?
おかげさまで、2021年春の入会シーズンでは、個別指導塾「スクールIE」、英語で預かる学童保育「Kids Duo」、知育と受験対策教室「チャイルド・アイズ」で過去最高の入会者数を記録しました。また、2020年には、「プログラミング教育 HALLO」を立ち上げ、いわゆるEdTechコンテンツの提供もスタートしています。
このように当グループには、受験対策から、英語、プログラミング、スポーツまで、さまざまな教育を提供する教室があります。ただ、特別に力を入れている分野はありません。英語力やITスキルなどいわゆる「フューチャーワークスキル」を身につければ、未来を生き抜けるわけではありません。むしろ大切なのは、主体的な学びによって身につく「自分力」です。そういう意味では、すべてのスクールブランドで、「自分力」を伸ばせるように工夫を重ねています。
——「自分力」について改めてお聞かせください。
「自分力」とは、つまり自分で自分の人生をデザインする力です。これは、語学、音楽、芸術、スポーツなど汎用的に役立つものです。幼児期から小学校低学年のうちに「自分力」を身につけることができれば、お子さんの未来は大きく変わるでしょう。
「自分力」とは、決して自分勝手に生きる力ではありません。自分の能力によって、社会に新しい価値を提供する。そんな意識を持つ子どもたちを育成することも当グループの教育目標です。
——最後に不確実な時代を生きる子どもたちとその保護者にメッセージを。
「自分力」を育む教育は、限られた人に向けられたものであってはなりません。そのために国内外に2000以上の教室を構え、同じレベルの教育サービスを提供しています。その裏では、もちろん各教室に厳しい研修を課します。それも私たちの大切な仕事です。
この変化の激しい時代に、適切な教育を受ける機会を幅広く提供することは、社会における格差の是正、貧困から抜け出す支援にもつながります。自由な発想で世界を変えてしまうような子どもが、当グループの教室から羽ばたいていくことを願っています。
たかはし・なおし/1969年静岡県生まれ。横浜国立大学経営学部卒業後、1998年に株式会社拓人(現・株式会社やる気スイッチグループ)入社。同社取締役を経て、2013年に株式会社拓人こども未来代表取締役就任。その後、2015年から商号変更前の株式会社やる気スイッチグループホールディングス専務取締役に。2018年より現職。
個別指導塾「スクールIE」、知育と受験対策教室「チャイルドアイズ」、英語で預かる学童保育「Kids Duo」、幼児・小学生向けスポーツ教室「忍者ナイン」、バイリンガル幼児園「Kids Duo International」など7つのスクールブランドを展開する総合教育サービス企業。現在、国内外に2000以上の教室を展開し、11万人以上の子どもの学びをサポートしている。2020年より、「プログラミング教育 HALLO」など新しい学びのサービスもスタートしている。