国の特別天然記念物・ライチョウが絶滅した中央アルプスで環境省が取り組む「復活作戦」に、生息地保護連携専門官として今春採用されたライチョウ研究者の小林篤さん(33)が奮闘している。来春繁殖に成功すれば完全復活が見込まれることから、今夏生まれたヒナたちが親離れできたかどうか、今月末に予定する調査に期待がかかる。

 小林さんは東京都出身。東邦大理学部に進み、高山に生息するライチョウに興味を持った。3年の時、北アルプス・乗鞍岳で生息数などを調査していた信州大の中村浩志教授(現名誉教授)と知り合い、調査に加わった。信大の大学院に進み、中村さんの研究室で研究を続けた。

 ライチョウの生態は、中村さんの約20年間にわたる調査・研究で次々と解明された。その一角を小林さんは支えてきた。「学生時代の調査は1日10~14時間。自然条件の厳しい高山帯で、ひたすら行動を観察しました」

 その苦労がわかるのは食性調査だ。2008年12月~10年3月、中村さんと2人で植物や昆虫など何を食べたかを観察。記録したついばみ回数は計4万6523回に上った。気が遠くなる作業だが、「自分にも他人にも妥協しない」と、中村さんの背中から学んだ。

 中央アルプスでは1969年以来、ライチョウの目撃情報がなく絶滅したとされてきた。2年前、乗鞍岳を含む北アルプスから飛来したとみられるメス1羽が見つかり、環境省が復活に乗り出した。

 昨年、小林さんが中心となり、このメスが産んだ無精卵と乗鞍岳から移送した有精卵を入れ替えた。5羽が孵化(ふか)したが、天敵に捕食されたか、寒さによる凍死などが原因で全滅した。

 今年は小林さんが同省職員となり、さらに深く関わる。大町山岳博物館(長野県大町市)など人工飼育する4施設の有精卵8個と無精卵7個を入れ替え、孵化直後にケージで保護する計画だった。

 ところが、5羽が孵化直後にニホンザルの群れが巣の近くに出現。驚いたメスが逃げてしまい、ヒナはパニックで散り散りなって寒さで全滅してしまった。

 中央アルプスのメスによる取り組みは実らなかったが、同時並行で進めていた乗鞍岳で保護した3家族19羽のヘリコプター搬送は8月1日に成功。三つのケージに分けて中央アルプスの環境に慣らし、約1週間後に放鳥した。放鳥後、8月下旬と9月中旬の調査や登山者の目撃情報から3家族の無事な姿が確認された。

 10月末の調査で確認するのは、ヒナたちが無事に親離れして自活しているかどうか。親離れ後の生息分布状況も調べる。うまくいっていれば来年の春に複数のつがいによる繁殖が見込めるため、復活作戦がひとまず成功したと見なせる重要な調査だ。

 小林さんは「乗鞍岳から3家族の移送、放鳥という大きな節目を終えてホッとしている。大勢の人たちの協力を無駄にしないよう保護していきたい」と話す。

 大学時代から10年以上調査に携わってきた専門家が、5年後に100羽まで増やす計画の中核を担っている。(近藤幸夫)