「タタミ・ワン」「タタミ・ツー」。柔道の国際大会に行くと、こうしたコールが会場に響く。柔道界では「タタミ」は世界共通の言葉だ。でも、選手が立つ「タタミ」は、実は「畳」ではない。

 柔道が初めてオリンピック(五輪)種目になった1964年東京五輪。選手の足元は緑の天然色だった。

 畳は、大分県産のカヤツリグサ科の植物「七島藺(しちとうい)」で編まれたもの。七島藺は、一般的な畳に使われるイグサよりも丈夫で耐久性に優れ、濃い緑色が特徴。柔道創始者の嘉納治五郎が講道館の畳として選んだという逸話も残り、当時、柔道畳として重宝されていたという。

 その後、天然素材の青畳は、時代の波を受けて姿を消した。クッション性が高く、投げられても体への衝撃が小さい体操のマットのような「タタミ」が主流に。現在の素材はウレタンなど化学素材だ。世界中のメーカーが緩衝性や耐久性を向上させ、防臭や抗菌機能も備えたハイテクな畳が広まっている。

 変わったのは素材だけではない。色もぐっとカラフルになった。

 2004年アテネ五輪では、日本のスポーツメーカー「ミズノ」がギリシャの大理石をイメージしたアイボリー(象牙色)の畳を提供。12年ロンドン大会はフランスのメーカー製で場内が黄、場外部分が赤という鮮やかな組み合わせの畳が使われた。16年リオデジャネイロ大会は、ロンドン大会と同じ黄と赤の畳を中国企業が作った。

 今回の東京五輪も中国企業の製品で当初、「テレビ視聴者に見やすい色」という理由で、場内が青、場外が赤という新たな色の組み合わせにする予定だった。

 ところが、19年世界選手権でテストしたところ、青色の畳の導入を訴えていたテレビ局側が「白い柔道着に畳の青が反射してしまう」と翻意した。「テレビ映え」を巡って二転三転し、結局、3大会連続で黄と赤の組み合わせに落ち着いた。

 そもそも青色の畳は、日本の柔道関係者から不評だった。柔道着でも青色が使われているため、「見分けがつきにくい」というのが理由だ。「目がチカチカする」と違和感を訴える選手もいた。

 1964年に白一色の柔道着、緑の畳で五輪競技として出発した柔道。ずいぶんと形をかえて、2度目の東京五輪を迎えている。(波戸健一)