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東京の台所
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〈78〉飲み忘れの1杯の紅茶から始まった

〈78〉飲み忘れの1杯の紅茶から始まった

〈住人プロフィール〉
編集者、ショップ店主・42歳(女性)
戸建て・1LDK+店舗・西武池袋線 東長崎駅(豊島区)
入居2年・築年数2年

    ◇

 22歳でひとり暮らしを始めた。川崎、武蔵小金井、中落合。39歳で家を建てた。建築面積は7坪。しかも半地下に、念願の週末ショップまで併設している。地下とは思えないほど明るく開放的なその空間には、選りすぐりの北欧雑貨が並んでいた。

 店の中を通って2階に上がると、ダイニングキッチンが広がる。店から1階にかけて、一部が吹き抜けになっているのでこれまた明るい。

 オープンの作り付けの棚一面に、グスタフスベリ、アラビアなど北欧ブランドのティーカップ&ソーサー、パーコレーター、日本の焼き物がディスプレーされている。いわゆる見せる収納で、鍋一つ匙(さじ)一つもインテリアの一部のよう。

 しかし、オブジェではなく実際に使っているので、ほどほどの生活感をまとっている。その生活感と機能美がいい具合に混じりあっていて、居心地がいい。おしゃれな空間というのは、ときに来客を緊張させるものだが、この台所にはそれがない。

 「あまり料理をする方ではないので、食材もそんなにないんですよ」と彼女は告白する。住み手の気負いのなさが、空間に投影されているのかもしれない。

 だが、紅茶、牛乳、手作りヨーグルトのジャム添え、トーストと甘いパンという朝食は毎日しっかり食べるらしい。

 台所のあちこちに、いろんな種類の紅茶がある。

 35歳頃までは、コーヒーも甘くない飲み物も苦手で、紅茶に砂糖を入れて飲んでいた。あるとき、マグに紅茶のティーバッグを入れたまま20分ほど忘れていた。

 「砂糖なしの冷めた紅茶をひと口飲んだら、あっ、おいしい!ってびっくりしたのです。茶葉の風味がしっかりあって、紅茶ってこんなに味わい深いものだったのかと初めて知りました」

 それから、紅茶教室を調べて通いだした。蒸らすこと、カップを温めること、スイーツとの相性などを学ぶ。やがて紅茶の歴史や、紅茶のシーンが出てくる映画も気になりだし、どんどんのめりこんでいった。

 「私がおいしくないと思っていたのは、ただの薄いお湯を飲んでいたようなものだったから。苦手だったチョコレートケーキも、砂糖なしの紅茶と一緒に食べるとおいしいと気づいてからは好きになり、いつしか紅茶に砂糖を入れなくなりました」

 おいしい紅茶とお菓子があれば、それを彩る器にも興味がつのる。それまで100円ショップで器を買うこともあったという彼女の生活が少しずつ変わり始める。

 「たまたま立ち寄った西武百貨店のイルムスに、スウェーデンのホガナスケラミックというブランドのティーカップがあったのです。洗練されたデザインで素敵だなあと魅了され、それから一つずつ集め始めました」
 北欧デザインとの最初の出会いである。

 ホガナスケラミックをネットで検索していくなかで、北欧好きの人のブログをよく目にするようになった。その暮らしぶりにも惹(ひ)きつけられた。

 「北欧雑貨が好きな人は、生活やインテリアもこだわっていて素敵なんですね。北欧そのものにも興味が高まり、スウェーデンとフィンランドを旅行しました」

 器にとどまらず、ポットや調理道具、アンティークの家具が少しずつ増えていく中で、それが似合う家がほしいと思うのは自然の流れだったのだろう。とうとう4畳半の北欧雑貨ショップ付き一軒家を建てるに至った。

 今は北欧だけでなく和の焼き物にも興味があるが、スペースに限りがあるのでセーブしている。デンマークの中古のダイニングテーブルの上に、九州の木工メーカーのお盆や日本の作家の焼き物を置く。時を経て、和洋折衷の好きなものだけが並ぶ自分流のミックスインテリアができあがった。

 「若い頃は、たくさん買い物の失敗をして、インテリアもいろんな変遷がありました。ライフスタイルや感性は変わるものだし、失敗を重ねたのも無駄じゃないと今は思います。この歳になって、ようやく好みなどが落ち着いてきたなという感じですね」

 女性がひとりで家を建てるという体験には様々なきっかけがあったろうが、彼女の話を聞いていると、それは1杯の紅茶から始まったという気がしてならない。北欧、週末ショップ、居心地のいい家。あの日、飲み忘れの1杯の紅茶からすべてはつながっている。

 その証拠に、ショップの名前はFika(フィーカ)。スウェーデン語で「お茶をしよう」「お茶の時間」という意味なのだから。

台所のフォトギャラリーへ(写真をクリックすると、くわしくご覧いただけます)

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