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常に自分に足りないものを求めてきた 由紀さおりさん

  

私の一番の特徴は声

45周年記念コンサートツアーが開催中だ。その前に記念アルバム「VOICE」を出した。「どうぞこのまま」「サバの女王」「みんな夢の中」など1960~70年代の歌謡曲を11曲収録。浸っていたくなる情感あふれる作品だ。

「私にも新鮮でした。恋に落ちるあやうさや切なさ、こういう日本語のゆったりした言葉の響きの歌は、いま本当にないのね。阿久悠さんなど先人たちが編み出した言葉は本当にかけがえのない日本語。言葉の裏にある情景や奥ゆかしさを想像して聴いてほしいです」

時に吐息のような、時にたおやかな、その声の魅力に惹きこまれる。

「私の一番の特徴は声。いまは小節を楽器や機械音で埋めるけど、声の余韻の残し方も聴いてもらいたいのね。本来、日本語は旋律、一つの言葉の中に細やかだけど抑揚がある。だから今回は肉声で音楽をつくることが一番のコンセプト。切ない吐息や魂の叫びや甘えている声を聞き分けてもらえたらと思います」

「夜明けのスキャット」でデビュー。しかしある時から、姉でソプラノ歌手の安田祥子さんとデュオで童謡を歌う時期が長く続いた。

「歌謡曲を歌うことに自信を失ったのは、同世代のシンガーソングライターたちの台頭でした。プロの曲を自分の肉体で表現するのが私たち歌手の役割。でも自分でつくる人に比べ説得力がないのでは、歌手の役割ってなんだろうと。そんな時、姉と童謡を歌う企画があって。ただそこでは、私は『由紀さおり』ではなく、徹底的に『妹』。自分の思いを歌に塗り込めることは邪魔な世界でした」

今秋、秋元康プロデュースの公演にチャレンジ

5年前、40周年を迎えるにあたり、再び、歌謡曲を歌うことを決意した。そのプロジェクトの中で、アメリカのジャズバンド「ピンク・マルティーニ」が由紀さんの40年前の歌をカバーしていることを知った。そこから一緒にアルバム「1969」が作られ、世界22カ国以上に配信され、NYやパリで公演……と新たな世界が広がったのは周知のことだ。

「でも私は日本の歌い手、もっと日本で私の存在を認知してほしいという思いがあります」

相変わらず、色っぽく、お茶目で、可愛くて、でも芯が強く、野心にも溢れ、柔和なのに剛毅な印象も。多面体な人である。

「40代、50代、安田章子の部分をどう大きくしていくか、いろいろ勉強してやりましたよ。ガーデニング、刺繍、陶芸……。由紀さおりとしては、ある経済学者に『由紀さん、ずっとイノベーションしてきたね』といわれましたけど、常に自分に足りないものを求めてきました」

仕事が終わり、家に一人いる時間が好きと言う。テレビを見ながら雑務をしたり、通販番組にハマったり、さらにこんなことも言う。

「5年後はどうしているだろう、そのためにいま何をするべきかを考えていることもあります。ただある時、自分の考えることには限界があるとわかり、全く予測がつかないことをガンと言ってくれる人にぶつからない限り、チャレンジにはならないと気づいたのね」

秋元康プロデュースの45周年記念コンサートツアー『偶然の結晶~45年の歌声~』は、まさにそのチャレンジだ。これまでの自分の歌、童謡、今回の「VOICE」などを歌い、まさに集大成だが、それだけに終わらない。

「4年前に秋元さんに歌を依頼した時、ただ歌うだけでは客は来ないよと言われた言葉がずっと突き刺さっていて、その秋元さんの企画・構成ですから、えっ、ホントみたいな内容もありますよ。それは見てのお楽しみ(笑)」

そのパワーに心地よく圧倒される人である。

ゆき・さおり(歌手)
本名の「安田章子」で童謡歌手として活躍。1969年「夜明けのスキャット」で「由紀さおり」としてデビュー。70年に「手紙」で日本レコード大賞。83年「家族ゲーム」で日本アカデミー賞助演女優賞、85年から姉と童謡コンサート開始、2009年からソロで歌手活動再開、11年ピンク・マルティーニとアルバム「1969」。今秋、「秋元康プロデュース 由紀さおり 45周年記念コンサートツアー『偶然の結晶~45年の歌声~』」開催。12月6日(土)埼玉・大宮ソニックシティ、12月12日(金)東京・Bunkamuraオーチャードホール

■この記事は、2014年10月8日付本紙朝刊「ボンマルシェ」特集のコーナーの転載です。

撮影:森川昇
文:追分日出子

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