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アラスカの光の中で撮り続け 石塚元太良さん

石塚元太良さん(撮影 石塚定人)


石塚元太良さん(撮影 石塚定人)

  

昨年刊行された写真集、『PIPELINE ICELAND/ALASKA』(講談社)のページをめくっていると、人間が作り出す建造物の圧倒的な迫力に目を奪われる。タイトルにある「PIPELINE(パイプライン)」とは、石油や天ガスを運ぶために設置された輸送管のこと。アラスカには万里の長城につぐ全長1280キロというおそろしく長いパイプラインが存在する。約3年の年月をかけてその建造物を撮り続けたのが、写真家の石塚元太良だ。

  

「7年前に『PIPELINE ALASKA』(プチグラパブリッシング)という写真集を出しましたが、今回はアイスランドも含めてここ数年の写真をまとめたもの。とくに10年以上も行き来しているアラスカは、もうライフワークになっていますね」
そう語る石塚さんは、つねにアウトドアというフィールドを意識しながら、人里離れた僻地(へきち)でシャッターを切る。

  
高校時代は筋金入りの映画青年だった。授業をさぼっては、都内の名画座に通う日々。一度だけ映画好きがこうじて仲間と自主映画を作ったが、その出来ばえに落胆し、以来、同じカメラでも自分自身の世界観に専念できる写真に惹かれていった。

大学に入ってからは、アルバイトをしながらロシア、イラン、ギリシャといった国々をバックパッカーで巡り、アフリカやアジアを縦断したときに撮影した「WorldWideWonderful」が、エプソン カラーイメージングコンテストで大賞を受賞、その後も日本写真協会新人賞など数々の賞を獲得してきた。

  

取材当日、鎌倉は冷たい雨がしとしと降っていた。旧車のプジョーで、駅まで迎えに来てくれた石塚さんは、すこし照れながら開口一番「遅くなってすみません。今日はよろしくお願いします」とあいさつ。そのひと言で、彼の人柄を知るには十分だった。私たち取材班を乗せて、一路、山沿いにある彼の自宅へと向かった――。

大自然と人の営みのコントラストに惹かれる

――パイプラインを撮るようになったきっかけを教えてください。
 25歳の頃に初めてアラスカを撮影したなかで、パイプラインの写真もありました。帰国してその写真をあらためて眺めていたら、意外に面白いなと思ったんですね。で、パイプラインについていろいろ調べたりして3年かけて撮ったのが、『PIPELINE ALASKA』という写真集。僕の出世作になったといっても過言でない作品です。

――そういう意味でアラスカは特別な存在ですね。
 そうですね、僕にとってアラスカはすごく大事な場所です。次の写真集もアラスカ関連で出せたらいいなあと思っています。

――そもそもアラスカを最初に知ったのはいつですか。
 築地の魚河岸で商売をしていたオヤジの机の上に、いつもアラスカの漁業地図が貼ってありました。僕はそれを子どもの頃から当たり前のように見ていたんです。でも大人になって、そのことをすっかり忘れていました。
 ある日、バックパッカーをしていたときに、ふとアラスカの地名をそらんじている自分に気づいて。そうしたら、もう強迫観念的にアラスカへ行かなきゃって思っちゃったんですね。

――行く場所に、辺境や秘境が多いのはなぜですか。
 僻地のどこが好きなのかと言えば、まず光の美しさ。あと、ものごとがシンプルに見えるところ。たとえばアラスカは、パイプラインという現代的な産業の以前は、ゴールドラッシュの時代があり、その前に毛皮貿易があり、よりネイティブな時代がありました。現地へ行くと、それがページをめくるように体感できるんです。

――ページをめくる感覚って面白い表現ですね。
 自然という大きな存在と、人の営みとのコントラストがはっきりと浮かびあがってくる感覚と言えばいいかな。ゴールドラッシュについては、百年前の異物が実際に山中に撤去されずに残されているのも面白い。

――パイプラインや氷河を撮影しているときはどんな心境ですか。
 大きなカメラ機材を使い、暗幕のなかに入って撮る位置を調整していると、なんだか自分で対象物を設計しているような気分に陥ります。どこか陶芸に近いものがあるなあと思います。たださえ誰もいないのに、さらに暗幕で隠れる、二重の疎外感。でも、隠れんぼじゃないですけど、そういう環境が僕は好きなんです。この仕事をずっとやっていたいと思う瞬間ですよ。

――今回の愛用品のなかには、バイテン(8×10インチ)カメラもありました。
 バイテンが好きなのは解像度が圧倒的にすごいから。解像度がすごいと画像が3Dみたいに見えてくる。それは有無を言わせぬ迫力になるし、僕はオリジナルプリントにそのパワーが欲しいと思います。バイテンの写真にはそれがあると思っています。

――学生時代は映画をかなり観られたそうですね。
 年間600本は観ていたと思います。世界を知るうえでも映画の影響は大きかったですね。これは余談ですが、当時、アテネフランセ(文化センター)とか、(東京国立近代美術館)フィルムセンターとかでやっている映画を観に行くと、小説家の阿部和重さんをお見かけすることがありました。じつは、このあいだ彼と伊坂幸太郎さんの新刊、合作小説『キャプテンサンダーボルト』(文藝春秋)の装丁の仕事をさせていただいたときに、そのお話をしたら懐かしそうにされていましたね。

――カメラにのめりこんだきっかけは。
 18歳くらいのときに友だちと自主映画みたいなのを作ったんですが、出来が面白くなくて「これはダメだ」と。そして、同じカメラだという理由で一眼レフで撮りはじめたら、「これはいけるんじゃないか」と勘違いというか、一種の自己暗示というか。そこからもう16年以上やっています。
 僕は東京の埠頭の近くで育ったのですが、潮の満ち引きで埠頭の下に通路ができたりするのを子どもの頃から知っていて、非常階段を降りてそういうところに入ったりしていました。アラスカでも東京の河川でも、そんな子どもの頃の感覚がよみがえってくることがあります。

――かなり怪しい人ですよね。
 もう不審者ですよ(笑)。パイプラインを撮っているときも、晴海埠頭のスクラップ工場に入って撮影したときもそう思われていただろうし。でも、カメラが自分のなかにあるものを呼び起こさせるんじゃないかと思うんです。

――写真もデジタルの時代になって変わりましたよね。
 写真と言葉の境界が、21世紀の最大のテーマだと僕は勝手に思っています。わかりやすく言うと、フェイスブックやインスタグラムでやっていることって、コメントを連ねるためというか、言葉のコミュニケーションの代わりに1枚の写真を撮っているんじゃないかと思っています。だから、写真は言葉を簡略化させたものでしかない。アメリカでは子どもがおなかがすいたら、お母さんにドーナッツの画像を送るだけみたいなことが本当に行われています。言葉を使わないで画像だけを送るようになっていく。つまり今後、言葉と写真の境界線ってどんどんあいまいになっていくんじゃないかと。

――だとすると写真家のあり方もますます問われますね。
 写真を撮る前に、この写真がなぜ必要で、これはなぜ面白いのかということの思考なしには写真家とはいえない。これからはますますアイデアが明確でないと写真が成立しえない時代になっていくと思います。

――思考なき写真は成立しないと。
 僕の作品でいえば、パイプラインはそれが強いですね。いま取り組んでいる氷河にしても、そこの部分がはっきりしていないといい写真にならないと思っています。

――今、興味をもっているテーマはありますか。
 いろいろあるんですが。アイスランドの風景には惹かれるものがあります。それからパタゴニアも3回程行っていて、現地で撮影したものを何らかの形で作品にしたい。
 たとえばパイプラインはほかの国にもあるし、ひとつのことにこだわりながら、作品の舞台となる場所を広げて行きたい。アラスカで始めたことを世界各地でやるようなことを、一生続けられたらいいなと思います。

石塚元太良(いしづか・げんたろう)

1977年東京都生まれ。写真家。1999年、アフリカとアジアを縦断して撮影した『WorldWideWonderful』で、エプソンカラーイメージングコンテスト大賞。2002年、『Worldwidewarp』でヴィジュアルアーツフォトアワード、日本写真家協会新人賞を受賞。2006年、写真集『Pipeline Alaska』が話題に。2011年度文化庁在外芸術家派遣。2012年、アイスランドのSIMレジデンシーに招聘され、地熱エネルギーを都市へ運ぶパイプラインを撮影。2013年、アイスランドのレイキャビック写真美術館で展覧会。同年、アラスカのガイドブック『アラスカへ行きたい』(新潮社)を共著で刊行。越後妻有アートトリエンナーレ2015「大地の芸術祭」のメーンビジュアルを担当。
オフィシャルサイト http://nomephoto.net/

(石塚元太良さんの愛用品は下のギャラリーへ)

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