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鎌倉から、ものがたり。
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店を閉めた2カ月、八丈島で気づいた/カフェ テールベルト

「テールベルト」の本棚には、湯川美雪さんが選んだ写真集が

>>「カフェ テールベルト」前編から続きます

 湯川美雪さんが鎌倉に開いた「カフェ テールベルト」は、飲み物を片手にひとり、あれこれと思案をめぐらすのに格好の場所だ。軽やかで現代的でありながら、鎌倉ならではの落ち着いた雰囲気もある。「趣味や思想を人に押し付けることが嫌い。押し付けられることも嫌い」という湯川さんの考え通り、ステレオタイプにおさまっていない。

 「最初にスタイルを決めつけないで、『この椅子をここに置いたら、次は何がいいかな』と考えながら、1点ずつ家具を揃(そろ)えていったらこうなりました。だから、『様式は何ですか』と聞かれると、うっと言葉に詰まっちゃうんです」

 かといって、それらの家具や食器、雑貨類は行きあたりばったりでなく、ちゃんと選ばれている。そのあり方は、湯川さんの生き方と通じる。

 2010年に店をはじめた当初は、週末を家具制作と内装設計の仕事に充てるつもりで、土曜を含めた週休3日だった。観光地の鎌倉で「土曜に休む強気のカフェ」と、友人たちからからかわれたりもしたが、カフェと同じく、家具制作と内装の仕事も自分にとって大事な仕事だった。

 「大工と家具屋の中間のような形」とみずから説明する家具と内装の工房は、主にテールベルトの空間を知る人たちからの注文でまわっている。たとえば、湯川さんが手がけた、八丈島空港にある観光協会の木製カウンターもそのひとつだ。

 「よく来てくださっていたお客さまが八丈島に移住して、自然放牧の酪農場をはじめられたんです。そのときに住まいにしようと考えていた古家の内装を頼まれて、私もはじめて八丈島に行きました。そうしたら、私自身がすっかり島を気に入ってしまったんですね」

 そこから人とのつながりができ、島内でのワークショップや道具制作の注文が来るようになった。空港のカウンターを発注されたときは、夏の青い海を眺めながら、島の人、手伝いの人とともに、ひたすら制作に打ち込んだ。

 そんな体験をテールベルトに集まる人たちに伝えているうちに、葉山でカノムパンを営む内藤岳さんと「八丈島で何かやりたい」と話が弾んだ。そして昨夏、ふたりで敢行したのが、八丈島の材料でつくるパンケーキを島内で移動販売するプロジェクト、「リコッタ・パンケイクス」だ。

 夏の間、鎌倉の店を2カ月間閉めて、八丈島に渡った。移動販売の足は、内藤さんが持つイギリス製軽トラックを改造したキッチンカー。周囲の人たちに計画を話すと、「そんなの聞いたことがない」と驚かれ、自分たちでさえ受け入れられるか不安だった。それでも、フタを開けてみたら、「今まで生きてきた中でいちばん楽しかった」というくらい、充実した時間を過ごすことができた。

 実はリコッタ・パンケイクスに足を踏み出す前、鎌倉の店について迷いを抱いていた。「この立地でひとり店を続けて、この先、採算を立てていくことができるのか。よそで働いて、週末だけ開いた方が現実的なのではないか。いや、いっそのこと閉めてしまった方がいいのか……」

 しかし、八丈島での体験を経て、鎌倉の店も、八丈島のプロジェクトも、「続けないと意味がない」ということがわかった。その先に開けた展望は、「自分の居場所をひとつに決める必要はない。ふたつの拠点を自由に行き来ればいいじゃないか」という新鮮な境地。

 カノムパンとのユニットは、テールベルトに新しいスタートをもたらした。この1月には、得意の内装設計で店に中2階を設けて、サロンとしてのくつろぎ感と、本を読むのにふさわしい雰囲気を高める。春からは店内にカノムパンも入居し、店頭で内藤さんがつくるパンも売る。

 すでに開店は金曜から火曜までの5日間で、定休日は水、木曜にシフトしている。「やっと“鎌倉対応”の開店時間になりました」と湯川さんは笑う。ファンにも、はじめて訪れる人にも、うれしい展開が待っている。

独特の美意識が流れるテールベルトの空間

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棚の食器類はイギリスで買い付けたヴィンテージもの

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造園家が使うスタンプも何やら意味ありげ

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雑貨を扱っても、甘くならないのが湯川さんのテイスト


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壁に掛けた絵のように、まだ無名のアーティストの作品を掘り出すことも好き

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「KEEP CALM AND CARRY ON」は、イギリスで流行中の合言葉


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