特別編〈6〉自分でつくれば家に記憶が刻まれる
自分らしく暮らすために住まいを編集する――。「ブルースタジオ」が手がけたリノベーション事例を紹介する連載「リノベーション・スタイル」が 100回を迎えたのを記念して、ブルースタジオ執行役員の石井健さんがいま注目の若手3組と、これからの住まいや暮らしについて語り合います。
第6回は、「妄想から打ち上げまで」というスローガンで、設計から工事まですべてのプロセスに施主を巻き込んで、自分たちの手で家作りをするとい うHandiHouse project(ハンディハウスプロジェクト)。結成4年目を迎えた彼らに、家作りのこれからを聞いた後編をお届けします。
石井健 家づくりっていろんな方法があるし、家に求められることも人によって違うけれど、ハンディのお客さんはどんな方が多いですか?
中田裕一 いろいろですね。俺らと一緒に全部つくっていきたいという人もいれば、ある程度はこっちに任せて、少しだけ自分でやってみたいという人もいる。

加藤渓一 工事終わってから、丸鋸とかインパクト(ドライバー)を買っちゃうお客さんもいます。そういう人は知らないうちに扉つくっちゃってて、フェイスブックで知って俺ら驚く、みたいな感じです(笑)。たった1、2カ月の工事でここまで意識が変わるというのは面白いですね。
あと、設計のときに「いつか売りたいので、誰でも住みやすい間取りで」とリクエストしてたのに、一緒に工事をして完成すると「もう売れません!貸すのも嫌です」って言うお客さんもいる。それくらい愛着を持ってくれるようになるんですね。お客さんを現場に巻き込む面白さはそこです。
それに、仕上がりに少しムラがあったとしても、自分たちでやったことだと、「ああ、あのときはテンション低かったな」とか「疲れていたな」とか、工事のことや俺らの顔を思い出してうれしくなっちゃうみたいです。例えば、トイレに入って壁を眺めてるときとか(笑)。
石井 建物に記憶が刻まれやすいんだね。脳のしわみたいなものですね。
加藤 そう!(笑)

石井 基本的に、お客さんは全員、道具を手にするんですか?
中田 100%そうですね。無理やりでもやってもらう(笑)。どんどん引き込みます。それをわかったうえで僕らに依頼してくれているので、嫌がる人はいませんね。
加藤 「塗るくらいしかできない」という人がいても、「塗る」という口実を作って現場に来てもらうんです。で、僕らがタイルを貼っていれば「タイルもやってみません?」って声をかける。少しずつやることで、「自分でもできるんだ」って意識が変わっていきます。大工の経験がなくてもできるものなんです。
坂田裕貴 今、僕らが話をしているこの小屋も、まったく大工仕事をしたことがない人たちがつくっているからね。
石井 この小屋はどういういきさつで?
山崎大輔 去年、オフィスの休憩室をリニューアルする話が出たとき、不動産・住宅情報サイト「HOME’S」の社員の方が声をかけてくれたんです。住宅や不動産の情報を扱っているので、社員教育をかねて家をつくる経験をさせたい、と。
中田 僕と山崎が担当することになって、一案ずつプランを出しました。模型をコピー機の前に置かせてもらい、どっちのプランがいいか、社員のみなさんに投票してもらったんです。
山崎 仕上げも投票制です。壁の色、タイルの色、床の素材や絨毯……。全部サンプルを取り寄せて展示して、投票してもらったんです。街頭インタビューでシールを貼るみたいに(笑)。
中田 工事もビス一本打つことからやってもらいました。自販機の置いてある場所の前が現場だったので、社員の方が通りかかる度に「打ってみませんか」と声をかけて。最後の方は仕事が終わった人からどんどん参加してくれて。楽しかったですね。

坂田 この人(中田)がおだてるの上手いんですよ(笑)。いろんなところで遊んできたみたいで。ほめておだてていい気にさせて、っていうのに慣れてる。
中田 ええ~?!
石井 ハンディに頼むと、イケメンにほめてもらえるという特典もあるんですね(笑)。
加藤 いやあ、そう言われるとプレッシャーだなあ。打ち合わせでは、盛り上げるために少し軽い感じで話す時もあるんですが、現場で“軽い兄ちゃん”たちが作業しているのを見ると「自分もできるかも」って思ってもらえるのかもしれない。
石井 初めてインパクトを持ったりするとテンションあがるでしょうね。
中田 あがりますね。見たこともない工具を持って、しかもそれで実際に自分の家を造れるんですもんね。
石井 工事が終わって住み始めてからもDIYを続ける人は多いんですか。
加藤 そうですね。つくり方がわかると、自分がどうしたいのかわかるんです。こういうのが欲しいなら、こういう材料が必要で、こうやればいいんだと。それが僕らとやる意味だと思います。住みながら自分で家を更新していける。どんどん生活を豊かにしていける。

中田 たとえば本棚が欲しいと思ったら、今まではインテリアショップに行って買うだけだったのに、「この材料とあの材料を組み合わせて、ここにビスを打てばいい」と考えられる。選択肢が増えるんです。
石井 家づくりの楽しさって日本はまだ広がり始めたばかりですよね。先進国といわれている国では、自分の家をつくったり直したりするのは普通のことなんですけど。しかも貧乏だから自分でやるのではなく、むしろ生活に余裕のある人たちが自分の家を自分で直しています。日本はこれまでゼロだったのが、ようやく1になってきた感じがします。
ハンディは5人で活動しているわけだけど、今が関ジャニ∞とすると、今後はエグザイルみたいになって、最終的にはAKBみたいになっていくのかな?
加藤 ハンディを100人にするんだったら、5人のチームを20チーム作りたいです。
石井 じゃあ、どちらかというとAKBというよりジャニーズ?
加藤 はい、ジャニーズですね(笑)。SMAP、TOKIO、嵐……みたいな。
中田 AKBは同じ世代のチームがいっぱいあるわけじゃないですか。でもジャニーズって郷ひろみ、たのきんトリオ、少年隊、SMAPと、それぞれの世代にスターがいる。そういう感じでどの世代にも合う「ハンディ」がいたら面白い。同じ世代の人と家をつくった方が共感しやすいじゃないですか。
石井 それは勝手にどんどんチームを作って、という感じ? それとも商標登録してフランチャイズのようにして増やしていく?
加藤 その話は何度かしたんですが、どうしたらいいのかわからなくて途中で止まっています。ハンディを始めた当初は、僕らみたいなチームがすぐ出てくるんじゃないかと思っていたんです。でも、実際にはなかなか出てこなかった。だけど、出てこないだけできっといるんですよ。地域の工務店とかで自分で設計しながら施工している人とか。僕らが知らないだけで。そういう人たちと組めたら面白いんじゃないかと思います。
中田 俺は一つの大きなサイトを作りたいですね。ハンディハウスのホームページを開くと、チームの顔がばーっと出てきて、こいつらは名古屋、こいつらは九州、みたいに一目でわかる。それをみて、「じゃあこの人にお願いします」って頼める。
石井 ハンディ憲章みたいのがあったりね。ハンディのチームになるには、これだけは最低守ってという。
荒木伸哉 そうですね。あと、地方にもいい人材がたくさんいるので、地方ごとに人材を共有することができたらいいと思う。素材や技法も地方によっていいものがあるので、それらをうまく組み合わせられる仕組みがあれば。
坂田 4年間やってきて、「お客さんと楽しくやりましょう」っていうのはクリアできたんです。でも、職人として素材に向き合うのはまだ弱い。そこを掘り下げないと、家の本質や家づくりの醍醐味を味わえない気がします。あと、ある程度デザインができる職人さんは、ワンルームのリノベーションもできるはずなんです。
各地域にいるそういう人を不動産屋やオーナーが把握していて、賃貸物件を低コストでリノベーションできるようになればいいのにと思います。小規模の住宅は設計者も工務店も現場監督もいらないという流れができると、今までは手がでなかった人たちもリノベーションを楽しめる。
石井 うん、これからはどんどん新しい家のつくり方がでてくるといいですね。人口構成の変化、世代間の経済格差、価値観の変化などがあり、家づくりは今までのようにはいかないでしょうから。きっと、ハンディのやり方はこれから広がっていくだろうし、こういった形で家づくりの楽しさを知らしめた功績は大きいと思います。これからもがんばってください。
HandiHouse project(ハンディハウスプロジェクト)
2011年に結成された建築家集団。合言葉は「妄想から打ち上げまで」。住宅・店舗・家具のデザインから工事のすべてを、施主と一緒に自分たちの「手」で行う。結成時は坂田裕貴、中田裕一、加藤渓一、荒木伸哉の4名だったが、14年に山崎大輔が加わり、メンバーは5人。
構成・宇佐美里圭