〈ファッションニュース〉ファッション界の常識、変わるか 16年秋冬NYコレクション
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[1]レベッカ・ミンコフ ◆撮影はRUNWAY-PHOTOGRAPHIE -
[2]アレキサンダー・ワン ◆撮影はRUNWAY-PHOTOGRAPHIE -
[3]3・1フィリップ・リム ◆撮影はRUNWAY-PHOTOGRAPHIE -
[4]マーク・ジェイコブス ◆撮影はRUNWAY-PHOTOGRAPHIE -
[5]トリー・バーチ ◆撮影はRUNWAY-PHOTOGRAPHIE -
[6]ダイアン・フォン・ファステンバーグ ◆撮影はRUNWAY-PHOTOGRAPHIE
18日まで開かれた2016年秋冬ニューヨーク・コレクションは、ショーのすぐ後に新作が買えるようにしたり、店頭の需要に合わせたシーズンの商品を出したり、より消費者を意識したブランドが目立った。年2回、半年先の服を発表するというファッション界の常識が変わり始めている。
原点に戻る
「ファッションウィークは崩壊した」――。レベッカ・ミンコフ=[1]がショー会場で配ったリーフレットにはそんな刺激的な言葉が書かれていた。
ショーが始まると、登場したモデルたちが身につけているのはノースリーブシャツや胸元が開いたワンピース。秋冬の新作ではなく、すぐに店頭に並ぶ春夏向けの商品だ。
招待された一般客は一斉に、スマートフォンを向ける。会社員のウィン・グレースさん(22)は「こんな間近でショーを見られるなんて信じられない」と興奮気味に話した。同じ日にニューヨークの店舗で行ったイベントにはデザイナーも顔を出し、店の売上高はこれまでの最高を記録したという。
インターネットやSNSが発達した現在では、発表した新作は瞬く間に世界中に広がり、半年先に店に並ぶ頃には新鮮味が薄れてしまうこともある。
マイケル・コースやラグ&ボーンも、今回からショーの直後に新商品の販売を始めた。
ビームスの南馬越(みなみまごえ)一義執行役員は「今季のニューヨーク・コレクションはファッションビジネスの転換期として、後世に語り継がれるものになるかもしれない」と話す。
在米ファッション・ジャーナリストの森光世さんは「ショーの変化は、米国の若い女性が高い服を買わなくなっていることへの危機感の表れだ」。そのためか、今季は新たな挑戦よりも、自らの原点に立ち返ったり、これまでの作品を再構築したりする傾向が目立ったという。
ガガが登場
そんな中、新しさや個性を打ち出したブランドも。
アレキサンダー・ワン=[2]は得意のストリートに鎖使いを多用したパンクを融合させたスタイルを披露。3・1フィリップ・リム=[3]は日本的な要素を取り入れ、着物の襟のようなジャケットやイチョウ柄を刺繍(ししゅう)したドレスなどを提案した。
モデルにレディー・ガガが登場し話題になったマーク・ジェイコブス=[4]は、黒とグレーで構成されたゴシック的なスタイル。スパンコールや鳥の羽根をジャケットやドレスにあしらい、足元には重量感たっぷりの厚底ブーツをあわせた。
1970年代を意識したディテールもよく見られた。コーチはチームスポーツのウェアからイメージし、アップリケを多用したスタジアムジャンパーを提案。トリー・バーチ=[5]はカラフルな四角形を組み合わせたコートや、花柄のブラウスやドレスなどをみせた。
店でのプレゼンテーションで新作を披露したダイアン・フォン・ファステンバーグ=[6]。小紋柄やドット柄に身を包んだモデルたちが踊ったり、演技したりして、来場者の目を楽しませた。
米ファッションデザイナーズ協議会の会長も務めるダイアン・フォン・ファステンバーグは「SNSがこれだけ普及した現在では、従来のやり方はうまくいっていない」。新しい動きを見せるブランドについては、「デザイナーは時代に適応していくしかない」と自分に言い聞かせるように語った。
確かにショーの光景は変わった。観客らはスマホで撮影し、ショーの途中でもSNSに投稿を始める。だがそこは、デザイナーが丹精込めた新作を、世界で最初に直接見られる場所だ。その世界観に思いをめぐらせ、自分の言葉で伝える。その大切さも改めて感じたシーズンだった。(田中祐也)