<15>東京スカイツリーを見上げる“山小屋” ~TOKYO HÜTTE(前編)
東京メトロ押上駅を出て空を見上げると、頭上に東京スカイツリーがそびえ立つ。下町の雰囲気が漂う住宅街を1、2分歩くと、川沿いに「ダイワ金物株式会社」の看板と「TOKYO HÜTTE(東京ヒュッテ)」と書かれた建物が見えてくる。ここが2014年8月にオープンしたゲストハウス&カフェ「TOKYO HÜTTE(東京ヒュッテ)」だ。
扉を開けると、1階がカフェ兼コワーキングスペースの「inkr(インカー)」。白い壁に観葉植物のグリーンが映える明るい空間が広がっている。もともとこの建物は建築資材を置く倉庫だったため、天井が高く開放感があり、ほどよく雑多な感じが心地いい。すべてのテーブルには電源が設置され、Wi-Fiはもちろん、複合コピー機やファクスまである。ドロップインの利用料は300円+ワンドリンクのオーダー。9時から22時まで使えるのがありがたい。
カフェメニューはトーストとコーヒーがメインだ。ゲストハウスの近くにある、国産小麦100%のおいしいパン屋「Boulangerie Trois(ブーランジェリー・トロワ)」のもっちりとした食感のパンに、さまざまなトッピングをした軽食が楽しめる。「スパイシーキーマカレー」(500円)は、岡山のゲストハウス「KAMP」で人気のキーマカレーのレシピを伝授してもらい、トーストに合うようにアレンジしたもの。香辛料の効いたカレーとパンの組み合わせが思いのほかおいしく、ボリュームもたっぷり。そのほか、「レッドビーンとベーコンとサワークリーム」、「きんぴらごぼうと海苔(のり)とチーズ」「マッシュポテトとチーズとはちみつ」(各500円)、「シナモンとバナナとアイスクリーム」(700円)など、いろいろなトッピングがある。コーヒーにも力を入れており、豆は世田谷区用賀に本店のある「Woodberry Coffee Roasters」のスペシャルティーコーヒーを使っている。もちろん、紅茶やジュース、アルコールもそろう。
「最近は海外のゲストだけでなく、日本人のお客さんも増えましたね。出張で来られる方もいますし、電源とWi-Fiを求めてくるノマドワーカーの方たちもよくいらっしゃいます」
そう話すのはオーナーの一人、藤綱希美江さん。横浜出身の藤綱さんはグラフィックデザイナーでもあり、友人の塩田恭代さん、塩田さんの弟でエディトリアルデザイナーの塩田浩章さんとともに、3人で東京ヒュッテを運営している。
「まず、自分たちの拠点となる“箱”が欲しかったんです。その箱の中で何ができるか考えたときに、ゲストハウスとカフェをやりたい、という話が出てきたんです」
藤綱さんも塩田さん姉弟も旅が好き。3人ともそれぞれ海外に住んだ経験があり、旅先ではよくゲストハウスに泊まっていた。ゲストハウスなら、それまでの自分たちの経験が生かせる。さらに藤綱さんは、美大を出てデザイナーとして東京で働いた後、ロンドンで1年間の語学留学を経て、オーストラリアのメルボルンでサービス業の専門学校に通ったこともあった。
「なんとなく、将来はデザイナーをやりながら自分のお店も持ちたいなと思っていたんです。学生時代は飲食業のアルバイトもしていたので、どうせなら何か生かせることを学ぼうと思って、メルボルンにいるとき飲食、経営、調理などを多角的に学べる専門学校に1年半ほど通いました」
そのときに出会ったのが、塩田恭代さんだった。「一緒に何かやろう」というアイデアが浮かんだのは2人が日本に帰国してからのこと。何ができるのかは未知数だったが、まずは資金をためようと、新たに職を探すところから始まった。
藤綱さんが選んだのは、カリブ海の小さな島で美術を教える仕事だった。現地で2年間、美術教育のカリキュラムを作ったりしながら、少しずつ資金をためた。その間、藤綱さんと塩田さんはメールでやりとりしながら、将来の構想を練っていた。
そして2013年、藤綱さんが任務を終えて帰国すると、すぐに塩田さん、塩田さんの弟の3人で集まり、今後何をしていくかミーティングが重ねられた。