おいしいゲストハウス
連載をフォローする

<16>カフェもイベントもデザインも、同時進行で ~TOKYO HÜTTE(後編)

>>TOKYO HÜTTE(前編)から続く

 藤綱希美江さん、塩田恭代さん、塩田さんの弟の浩章さん3人は、当初、カフェをやろうという話をしていた。しかし、東京にはすでに山ほどカフェがある。何か特色がなければ埋もれてすぐにつぶれてしまうだろう。そこで思いついたのが「ゲストハウス」だった。3人とも海外経験が豊富で、ゲストハウスにはこれまでたくさん泊まってきていた。

 まだ東京にはカフェのあるゲストハウスはほとんどなかったが、いろいろな人に相談したら、思いのほか反応がよかった。それならば……と、ゲストハウス、カフェ、デザイン事務所という3本柱を基本事業にすることにした。藤綱さんらは、さっそく事業計画を立て、並行して物件を探し始める。

「こればかりは同時進行じゃないと無理なんです。宿をやる場合は、旅館業法や消防法などいろいろクリアしないといけない条件があります。いい物件があっても、宿にできるかどうかはわからないし、大きさによってカフェはできないかもしれない。ベッド数によって収支も変わるし、すべて物件次第なところがあるんです」

 藤綱さんはそう当時を振り返る。そして、1年ほど東京中の空き物件を探し回り、ようやく見つけたのが今の建物だった。

「最初はネットで見つけたのですが、予算と大きさが合わなかったので選択肢には入れていませんでした。でも、なんとなく気になってはいたので、たまたま近くに来たときに、ふらっと寄ってみたんです。そしたら予想以上によくて。これまで見た中でダントツでした」

 東京スカイツリーの足もとで、目の前は川が流れていて視界の抜けがいい。夏は風が通り気持ちよさそうだ。すぐに専門家に相談すると、建物の両脇が道路に面しているので避難経路もとりやすく、ゲストハウスには最適だとのこと。思い描いていたものよりサイズも予算も若干オーバーしていたが、理想の物件が目の前にあれば、あとはどれだけ頑張れるか、だ。

 藤綱さんたち3人は、できるだけお金をかけないよう、最低限のことだけ専門家の手を借り、できるところは自分たちで改装することにした。

 もともと倉庫だった建物は鉄骨2階建てで中二階があったが、まずはそれを壊し、天井を高くした。この空間がどこか落ちつくのは、すべてがピカピカな新品ではなく、古いものをうまく生かし、センスよく手を入れているからだろう。家具なども作れるものはすべて手作りしている。

「本棚は廃材を使って自分たちで作りました。カウチの骨組みは友人に頼み、クッションは母が縫ったもの。カウンターの椅子は近所のラーメン屋さんからもらって、自分たちでエイジング加工をして色を塗ったものです。ここにあるものは、ほとんどもらったものか、自分たちで作ったものですね(笑)。これまでの経験と人づてを全部駆使して作った空間です」

 これまで海外のゲストハウスを泊まり歩いたり、働いたりした経験を生かし、随所に工夫もほどこした。たとえばトイレの便座のふた。ふたがあると掃除の手間が増えるので、思い切ってふたなしのタイプを選んだ。

「海外には便座のふたがないトイレもたくさんあります。掃除は毎日のことだから少しでも手間を省きたくて……こういうのが、結構後から効いてくるんですよね」

 オープンして最初の7~8カ月は、それぞれ自分の仕事を続けながら、宿の予約、受付、掃除、洗濯、カフェの営業などすべて3人で行った。まずは仕事全体の流れを自分たちで確認したかったのだ。泊まり込みの日も多かったが、「いい思い出です」と藤綱さんは笑う。

「開業して働きながら、その実践の中で運営を学んでいきました。これまで自分たちが海外生活や旅で得た経験を生かし、今後も居心地のいい空間を提供していきたいです」

 3年目に突入する今は運営も安定し、3人以外に社員1人と3人のアルバイトがいる。最近はコワーキングスペースとしてだけでなく、音楽イベント、アクセサリーの展示販売など、いろいろな目的で空間を貸すことも増えてきた。

「やはり、“場”があるというのは大きいですね。想像以上に世界が広がりました。ここで仕事をやっているといろいろな人が来るので、自分の業界とは違う人からもたくさん情報が入ってきます。それがすごくおもしろくて。仕事のヒントももらえるし、家で一人で仕事をしているのとは全然違います。デザインの仕事の幅も広がった気がします」

 二足のわらじは大変だが、いろいろな人が出入りする場を持ったことで両方の仕事にいい相乗効果が出てきたのを実感しているという。とはいえ、言うは易し行うは難し。大多数の人が夢で終わってしまうことを、藤綱さんはなぜできたのだろうか。

「こう見えても、実は割と先を予測しながら動いているんですよ。目の前のことだけに一生懸命になっていては、やりたいことはできません。なんとなく数年先のプランは頭の中にあって、流れを見ながら調整していますね」

 今後は、これまでの延長線上でいろいろなことに挑戦したいと藤綱さんは話す。どんな経験も決して無駄にはならない。それを生かすも殺すもやはり自分次第なのだ。

写真特集はこちら

REACTION

LIKE
連載をフォローする

SHARE

  • LINEでシェア

FOR YOU あなたにおすすめの記事

POPULAR 人気記事

※アクセスは過去7日間、LIKE、コメントは過去30日間で集計しています。

RECOMMEND おすすめの記事

&MEMBER限定の機能です

&MEMBERにご登録(無料)いただくと、気に入った記事に共感を示したり、コメントを書いたり、ブックマークしたりできます。こうしたアクションをする度にポイント「&MILE」がたまり、限定イベントやプレゼントの当選確率が上がります。

&MEMBERログイン

ID(メールアドレス)
パスワード

パスワードを忘れた方はこちら

&MEMBER登録はこちら

&MILEの加算アクション

  • &MEMBER新規登録:100マイル
  • 記事に「LIKE」を押す:10マイル
  • コメントの投稿:30マイル
  • 自分のコメントに「LIKE」がつく:10マイル
  • *今後、以下のアクションも追加していきます

  • 朝日新聞デジタル有料会員の継続:100マイル
  • ログインしてサイト訪問:10マイル
  • アンケート回答:30マイル
  • 「朝日新聞SHOP」での購入:50マイル
  • イベント申し込み:50マイル

&MILEの獲得数に応じてステージがあがり、ステージがあがるごとに
&MEMBER限定のイベントやプレゼントの当選確率が上がります。詳細はこちら