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東京の台所
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〈139〉作り置きなし。駆け出しママの1汁3菜ルール

〈住人プロフィール〉
会社員・39歳(女性)
賃貸マンション・2LDK・京王井の頭線 下北沢駅(世田谷区)
入居2年・築年数18年
夫(会社員・41歳)、長男(4歳)、次男(1歳)との4人暮らし

    ◇

 書店に行くと、作り置きの料理本はあまたあふれる。本欄でも、週末にまとめて作って、平日の弁当のおかずや夕食に活用している人を何度か取材した。

 しかし、今回の住人は作り置きをあきらめた。

 「週末にそれをやっていると、1日中台所にいる感じで終わってしまい、子どもと遊べなくなるので。週末は家族の時間と決め、そのかわり平日4時起きで1日分を作り、7時に出勤しています」

 保育園児の1歳と4歳がふたり。フレックスタイム採用の会社で、正社員として働く彼女は、17時の保育園の迎えに間に合うよう、人より早めに出社する。

 さんざんシミュレーションを重ねた結果、日課は次のように落ち着いた。

 「4時に起きて、身支度をしてから6時半までに朝食、夕食を作ります。子どもが起きる頃、私は出社。朝食から保育園に送るまでは夫の担当に。冬の4時だと外はまだ真っ暗です。6時~7時頃、朝日が昇る直前の空の色が本当にきれいで、台所から見える窓の景色に、思わず料理の手を止めて見てしまうほどです」

 献立は一汁三菜、1週間分のローテーションを決めているので、買い物時も迷わない。

 「月水が魚介類。火曜日が豚肉で木曜日が鶏肉。週末は家族が好きなもの。牛肉や揚げ物が多いですかね」

 料理というのは、じつは献立を決めるのに時間をとられる。自宅、保育園、会社、スーパーとひと息つく間もない彼女の生活で、このルーティンはかなり有効だ。

 同じ魚でも、味が偏らないように、塩麹(こうじ)やトマトソースなどでアレンジをして変化を付けている。

 「下味はつけません、時間をとられてしまうから。前の晩に冷凍から自然解凍しておき、味つけだけは当日気分で決めます」

 汁物もみそ汁ばかりでなく、ポタージュや豆乳のスープなど、ミキサーを使いこなしてバリエーションをはかる。副菜は、野菜や豆に。

 子どもが小さくて外食がままならないので、家での料理をいかに手早く、たくさんの食材を使って、飽きない味つけにするかに腐心をしている。

 このように、今は晴れ晴れとした表情で語るが、この黄金のルーティンを編み出すまでに、人知れず苦労や失敗を重ねてきたろうことは容易に想像が付く。働く母は圧倒的に時間がない。そのうえマニュアルもお手本もない。自分のライフスタイルに合うよう、自分で工夫を凝らすしかない。

 「結婚して6年間、子どもがおらず、夫婦ふたりで気ままな生活をしていました。お互い仕事も残業続きで、朝の2時3時に帰るのも頻繁でした。寝たいときに寝て、好きな時間に起き、外食も好きなところに行っていました。子どももそれほど好きではなくて……。出産で、その生活が一変しましたね。以前は10時に会社に行くのでさえぎりぎりやっと間に合うという感じでしたから」

 今は、仕事もプライベートも何をするにも「リミット」がある。子どもと触れあうのも、限られた時間になってしまうのだ。家事や料理の「効率」を最優先にと決めたくなる気持ちもわかる。

 この生活になって気づいたのは、じつにささやかなこんなこと。

 「昔からひとりで家でご飯食べるのがいやだったんです。だから独身時代はほとんど外で食べていました。いま、こうやって肉の日、魚の日などと決めて1汁3菜作る生活をして、初めて気づいたんです。私、人のために作るの好きだったんだなあって」

 母、祖母も料理がうまく、品数豊富に並べる人だった。自分はとてもああなれない、料理や暮らしを整えることは不得意だと思い込んでいたが、どうやらそれも違うらしいとわかってきた。

 4時起きで、夜の終わりのグレーに朝日のオレンジが混じり合う空を見ながら料理に集中する、こんな生活も悪くない。

 「ひとりになれる、私のとても大事な時間です」

 人の親になると、ときに自分の知らない自分に出会うことがある。それを教えてくれるのは、たとえば家族の笑顔や、空の色だったり。そんな日が来るとは想像だにしていなかったからこそ人生は面白い。私も子どもが小さい頃は朝型生活だったが、もうずいぶん朝焼けの色を見ていないと思った。

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