おいしいゲストハウス
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<20>カフェを超えた“おもちゃ箱”~HOTEL GRAPHY NEZU(後編)

>>HOTEL GRAPHY NEZU(前編)から続く

 もともと築40年以上の旅館だった建物をリノベーションした4階建ての「HOTEL GRAPHY NEZU」。落ち着いた住宅街の中にあり、屋上からは東京スカイツリーや上野の森が見渡せる。シングル、ツイン、ドミトリーなど様々な客室があり、バックパッカーだけでなく、ビジネスマン、ファミリー、老夫婦などいろいろな旅行者が世界中から訪れる。特徴的なのは、充実したキッチンやリビングなどの広い共有スペースと、おしゃれなCAFE & LOUNGEがあることだ。

 このカフェで店長として働く荒井健さん(34)は、2014年までは蔵前の自然食レストラン「結わえる」で働いていた。「HOTEL GRAPHY NEZU」に出会ったのはちょっとした偶然だった。

 2014年に「結わえる」を辞めた荒井さんは、その後知人の紹介で表参道のイタリアンレストランで働きながら、昼間は根津の老舗旅館、「水月ホテル鴎外荘」でもアルバイトをしていた。「根津が好きだったのと、旅館業務も少しやってみたかったので……」。自分のお店を持つことを目標に、レストランとホテル、二足のわらじ生活を送っていた。

 そんなある日、旅館の仕事の休憩中に、たまたまいつもと違う道へふらりと入ると、なにやらカフェのようなものがある。

「当時、ここはまだ半分ソーシャルアパートメントだったので、今よりクローズドな雰囲気でした。表に『スペシャルティコーヒー』と看板が出ていて、どこか隠れ家のような感じだったので、『いい休憩場所見つけた!』と。でも、誰もいないし、薄暗いし、ここはなんなんだろう? と(笑)。おそるおそる入ったら、スタッフが一人いて。席についてコーヒーを飲んだらいい感じだったので、すぐにFacebookを見つけて、『いいね!』を押しました」

 もしもそこで「いいね!」を押してなかったら、いま、荒井さんはここにいないかもしれない。

三つの仕事の掛け持ちから、カフェの店長へ

「それから自分のFacebookのフィールドにHOTEL GRAPHY NEZUのニュースやお知らせが出るようになったんですが、数カ月後たまたま住み込みの夜勤募集を見たんです。住み込みなので住居費を浮かせるし、これはいいぞと思って」

 さっそく応募すると、すぐに採用。夜勤とはいえ、ホテルの一室が住居として与えられ、よほどのことがない限り仮眠が取れる。表参道のレストラン、鴎外荘、HOTEL GRAPHY NEZUの夜勤、三つの仕事を掛け持ちすることにした。とにかく資金を貯めたかったので、荒井さんにはこの働き方が都合よかった。

 そんな生活を半年ほど続けていると、やがて「カフェの店長にならないか」と声をかけられる。ちょうどカフェを立ち上げた店長が別の店に異動になったのだ。予想外の展開だったが、飲食店と宿泊事業は将来自分のやりたいことでもある。思い切って他のアルバイトを辞め、2016年、店長として働くことになった。

 それから約1年。今は、韓国、中国、香港、ベトナム、ドイツと国際色豊かなスタッフを取り仕切り、カフェの管理や運営を担っている。イベントの企画、新しいメニューの考案……ホテルという施設のカフェだからこそできることもたくさんある。また、イベントで一緒になる同世代の人たちは個性的で面白い人ばかり。これまでの仕事と比べ物にならないほど仕事の内容が幅広く、充実していると話す。

「このハコは僕にとっては“おもちゃ箱”のようなものです。カフェを超えた存在で、やろうと思えば、面白いことはなんでもできます。映像、ライブ、食……考えてみれば、自分がこれまでやってきたことがすべて集約されていますね」

 この場所にたどり着いたのは、“偶然の積み重なり”だが、音楽の仕事から方向転換し、食の仕事に絞り込んでいったからこそ、新たな扉が開き、前進できた。しかも、絞り込んだ“食の道”は、実はさらに広い世界へつながる道だったのだから、人生面白い。

 今も「独立したい」という思いは変わらないが、ベンチャー起業という性質か、社長もスタッフもとても理解があるという。「2、3年後までに、ホテルの認知度と価値をどこまで上げて次へバトンタッチできるか……それが僕の使命です」と荒井さんは話す。将来は故郷の松本で、レストランのあるゲストハウスを開くのが夢だ。

 この数年でたくさんのゲストハウスが誕生し、今こうしている間にもあちこちで新しい場が生まれようとしている。いい場所との出会い、魅力的な人との出会いにより、自然発生的に“新世代ゲストハウス”が全国に広がっている。その根底にあるのは、私たちの生き方、暮らし方、働き方における価値観の大きな変化だろう。“お金より楽しさ”“モノより出会いと経験”“ブランドより創造性”を私たちは求めるようになった。ゲストハウスはこの時代を映す鏡なのだ。

写真特集はこちら

(おわり)
*連載「おいしいゲストハウス」は今回で一度お休みします。ご愛読、ありがとうございました。

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