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バスケを日本の文化にするために、自分ができることをしたい

プロバスケットボール 田臥勇太選手

2017年5月27日、Bリーグ初代王者を決める一戦、栃木ブレックスVS川崎ブレイブサンダース戦が東京・代々木第一体育館で行われた。おそらく日本で一番有名なバスケ選手である田臥勇太が所属する栃木ブレックスと、古豪の川崎ブレイブサンダース戦。Bリーグ初年度の決勝戦として申し分のないカードだった。

85対79で栃木ブレックス6点リードの場面、試合残り16秒で田臥はルーズボールを追って客席へ飛び込んだ。最後まで諦めず、がむしゃらにボールを追うその姿は1万人強の観衆を熱狂させた。栃木ブレックスはそのまま試合を制し、初代チャンピオンとなった。

Bリーグ決勝第4クオーター、ルーズボールを追って観客席に飛び込む田臥(西畑志朗撮影)

Bリーグ決勝第4クオーター、ルーズボールを追って観客席に飛び込む田臥(西畑志朗撮影)

点差があったのに客席にまで飛び込んだのはなぜか、という質問に田臥は「もう試合は決まっていたなんて思ってもらっては困ります。あのボールを取りにいかないと、16秒あれば何が起きるかわからないのが試合だから」と答えた。

負けた試合も楽しめるのは、課題が見つかるから

Bリーグは、シーズンで60試合を戦う。毎週のように全国を転戦するなかで、田臥はどのようにチャンピオンまでの道のりを歩んだのだろうか。

「初代チャンピオンは歴史に残るので、チームに関わる全員が、優勝という目標に向かって一体となってスタートを切りました。個人的にもバスケットボール選手として、Bリーグの歴史の幕開けにめぐり会えたことは幸運だったし、すごくやりがいを感じていました」

「振り返って、大変だった時期はありません。60試合全てに勝てるわけがないので、長いスパンで考えなくてはいけなかった。開幕後は、勝ったり負けたりを繰り返しながらシーズンが進んでいくプロセスを楽しめました。もちろん負けると悔しさはあったけれど、負けた原因を見極めて、修正して次の試合に繋げる過程で、チーム全員で話しながら進めることにやりがいを感じていた。強くなるために何をしたら良いのか見えてきて、毎日・毎試合が楽しかったです」

プロバスケットボール 田臥勇太選手

試合に勝つと内容が悪くても勝ったから良いとなって、チームが上手くいっていると勘違いしがちだ、と田臥は言う。勝利した時はもちろん喜ぶが、同時に、冷静な目で自分やチームのプレーを分析して、常に最高の状態を保つ努力をする姿勢は、NBAで味わった苦い経験からきているのかもしれない。

NBA出場と解雇、あこがれた舞台での経験

2004年、田臥は日本人で初めてアメリカのプロバスケットボールリーグNBAのコートに立った。「バスケをやっている限り、NBAは夢の舞台」と話す田臥に、当時を思い返してもらった。

「コートに立ったときは、とにかくそれなりのプレーをしないと生き残れないから、与えられた時間で自分の仕事をするだけだと思っていました。うれしさはなくて、本当にもう必死でした」

NBA開幕戦の舞台に立つまでにはライバルたちとの壮絶な戦いがある。それが身にしみていた田臥は、そこに立ち続ける厳しさも十分に理解していた

NBA開幕戦の舞台に立つまでにはライバルたちとの壮絶な戦いがある。それが身にしみていた田臥は、そこに立ち続ける厳しさも十分に理解していた

NBA開幕戦以降、4試合に出場した田臥は突然、解雇を言い渡される。

「本当に前日まで知らなくて、翌日練習に行ったら解雇だと言われました。次の日に何が起こるかわからない世界で、毎日を全力で取り組まなければいけないし、それがプロだと学びました。もちろんショックでしたが、現実は現実、結果は結果、解雇は解雇です。自分が求めていない結果を受け止めて、いかに次に目を向けるかを意識しました。他選手よりも早く、次に繋がる行動を起こすことが大切だから、悔しさは持ちながらそれを力に変えて、もっと上手くなって見返そうと思っていました」

結果は情熱を持ってプレーした後に付いてくるもの

プロバスケットボール 田臥勇太選手

2008年に日本へ戻って栃木ブレックスに入団した。バスケットボールを辞めることは考えなかった。

「バスケをはじめたころからずっと、絶対に大人になってもバスケをやりたいと思っていたので、今は子どもの頃の夢がかなっている状態です。毎日、自分の好きなことをするのは、なかなかできることではないので、周りの人への感謝を忘れてはいけないし、バスケと真摯(しんし)に向き合わなければいけない。今の状況を、当たり前と思ってはいけないと思っています」

プロバスケットボール選手として、試合は仕事という感覚はあるのだろうか?

「ないと言ったら嘘になります。ただ、観戦してもらって人気が出て、結果としてお金がもらえることは、自分が情熱を持ってプレーできるかどうかにかかっていると思っています。バスケをやることによって付いてくるものの一つとしてお金があって、僕の軸は、情熱を持ってバスケをしたいということです」

決勝戦に合わせて、バッシュの準備をしてきた

写真提供:栃木ブレックス

写真提供:栃木ブレックス

バスケットボール選手にとって相棒と言えるものがバッシュだ。田臥は2014年モデルのナイキ『ハイパーダンク』を愛用している。

「バッシュは一番大切にしているもので、一緒に戦っているという感覚です。僕は1カ月半前から徐々に足に慣らしていくので、このバッシュと一緒に優勝できたらいいなと思って、決勝に合わせておろしました。決勝の日から逆算して履き慣らしていって、ちょうど良い感じに足に合っていました。これ以上古すぎると滑ったり、ひもを強く締めたりしなくてはいけなくなります」

情熱をもって取り組むことで繋がる、バスケットボール以外の縁

日本人初のNBAプレイヤーという経歴もあり、田臥にはBリーグ開幕前から注目が集まった。チームという枠から外れて、日本のバスケットボールの顔としての役割を意識したことはあるのだろうか?

「Bリーグがはじまって、メディアに出るのは誰にでも与えられるチャンスではないと改めて感じて、僕にしかできないことと、やるべきことは何かと考えました。プレーは当然ですが、バスケにどれだけ情熱を持って取り組んでいるか、楽しむ姿勢があるかなど全てが繋がって、注目していただいていることを学びました」

Bリーグ決勝第3クオーター、ミドルシュートを決める田臥(西畑志朗撮影)

Bリーグ決勝第3クオーター、ミドルシュートを決める田臥(西畑志朗撮影)

バスケから繋がる人の縁で、次のステージのヒントや他競技の世界に触れるきっかけが生まれる。最近、田臥はテレビキャスターや他競技選手との対談の仕事も受けた。バスケという軸があるからこそ、他の競技のアスリートと繋がることで得るものがあるそうだ。

いつ引退するの? と聞かれるけれど

田臥は2017年で37歳。プロスポーツ選手として、年齢とどう戦っているのだろうか。

「30代後半になって、前はできたことができなくなっても、どんなアプローチをしたら同じ働きができるのか、どう体を動かせばいいのかを考えます。よくいつまでやるのですかと聞かれますが、36歳になったらこんな質問をされるんだ、ということが分かりました(笑)。歳をとることをネガティブに考えるのではなくて、ポジティブに、今ならこの動きのほうが年齢には合っていると、経験を踏まえて考えることが楽しいし、それを考え続けられるうちはプレーを辞めないと思います」

プロバスケットボール 田臥勇太選手

田臥はトレーナーをつけて、食事や生活習慣からもプロとしての体づくりをしている。パーソナルトレーナーをつけている選手は、Bリーグではまだ珍しいようだ。

「NBAにいたときに出会った方で、10年以上見てもらっています。向こうではトレーナーをつけるのは普通でした。僕は趣味がないので、オフはアメリカに行ってトレーニングをするのが息抜きです。トレーニング環境はアメリカのほうが良いですね。走っていても環境が違うのでオフだと感じられます」

最高の結果でシーズンを終えた田臥の、2017-18シーズンの目標を聞いた。

「昨シーズンの終盤にかけて、メンタルも技術も良い感触があったのですが、もう少しで自分のものにできそうだ、という段階でシーズンが終わりました。それを身につけることができれば、チームにとってプラスになるイメージがあるので、それが次の目標です。その感覚を発見できたのが、昨シーズンの収穫です」

東京五輪は強くなるチャンス

プロバスケットボール 田臥勇太選手

日本の男子バスケットボールは、国際試合で良い成績を残せない状況が続いている。2020年のオリンピックを踏まえて日本のバスケットボールについて、田臥はどう考えているのだろうか?

「ダメだダメだと言われて、そうかダメなんだ、と諦めるのではなく、世界に出ようと関わるみんなが思って、実際に行動することが大切だと思います。厳しい道のりだと思うけれど、東京でオリンピック開催が決まった今こそやるべきだし、強くなるチャンスです」

「Bリーグも、開幕して終わりではなくこれがスタートで、ここからどれだけ大きくなって、バスケを日本の文化として根付かせていけるかです。そのためにプロとしてどれだけ情熱を持ってバスケに取り組むかが大切だし、その姿を見てもらって、興味を持ってもらうことの積み重ねが大事で、Bリーグに関わるすべての人に必要なことだと思います」

プロバスケットボール 田臥勇太選手

カメラを向けられていることを忘れているのではないか、と思うほど、来シーズンに試したいプレーについて話す田臥は楽しそうだ。競技歴29年、バスケットボール一筋に歩んできた田臥のまっすぐな情熱は、Bリーグを介してさらに多くの人に伝播していきそうだ。

「プレーの話は楽しいです。今すぐバスケがしたくなりますね」

(文中敬称略)

(文:ライター 石川歩、写真:野呂美帆)

取材後記

取材中、何度も地域やチームに関わる人への感謝を伝えていた田臥選手。最高も最低も経験して、今の自分があるのは人との繋がりと助けがあってこそだと身にしみて分かっているようでした。

選手たちが本気でプレーするなら本気で応援したいし、本気で期待したい。2017年秋に開幕する2年目のBリーグに注目です。

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