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昭和を生き抜いた女性たちとファッション

昭和を生き抜いた女性たちとファッション

ポスター「新日本民一億の総進軍」製薬会社の標語入りポスター。モデルの女性は「防火担任者」のたすき掛けの防空服装で、薬とは全く関係はないが、時局を感じさせる。昭和17年(1942)頃

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ワンピース 山形県鶴岡市の工藤(旧姓山口)貞子さんのもの。東京で生地を買い求め、本を見ながら自分で縫い上げた。工藤さんの当時の月給は6,000円程度だったが、材料費に2,000円程かかった。鶴岡市内で洋装は目立ったので、上京時などに着用していた。昭和25年(1950)~26年頃

昭和を生き抜いた女性たちとファッション

ポスター「当日は先づ投票 再建一票」 東京都選挙管理委員会が、4月25日の衆議院選挙、4月30日の都議会議員選挙、区市町村会議員選挙に投票に行くように呼びかけたポスター。和洋服姿の女性が描かれている。昭和22年(1947)

昭和を生き抜いた女性たちとファッション

卒業生から贈られたルノーに乗る大妻コタカ昭和27年(1952)~ 大妻学院提供

昭和を生き抜いた女性たちとファッション

出版社「衣裳研究所」の設立を志す大橋鎭子昭和20年(1945) 暮しの手帖社提供

戦争は女性の暮らしに大きな変化をもたらした。しかし女性たちはただ苦難を耐え忍んでいただけではない。東京・九段の昭和館で開かれている特別企画展「昭和を生き抜いた女性たち~大妻コタカと大橋鎭子(しずこ)らが生きた時代」(9月10日まで)では、暮らしに関わる品や資料、写真などでそのことが生き生きと伝わってくる。

展示はまず、第2次世界大戦の直前期としての昭和初期の不況や冷害による社会不安の中で、「救へ・凶作地 義金募集」のポスターなどとは対照的に、女性タイピストなど新たな「職業婦人」や、銀座を歩く洋装のモダンガールなどが登場したことを示す。戦後の女性権利擁護の社会運動や洋裁文化への芽生えが見られることがわかる。

明治17年生まれの大妻コタカは、すでに大正5年に裁縫と手芸を教える各種学校「大妻技芸伝習所」を設立。昭和4年には現在の大妻女子大学に連なる「財団法人大妻学院」の理事長に就任、「良妻賢母」をうたう女子教育に力を注いだが、教育者としては新しいタイプの職業婦人だった。

昭和12年の日中戦争開始から太平洋戦争終結までの戦時体制下では、女性は出征した男性に代わる働き手としての役割が求められ、女性の社会進出の大きなきっかけとなった。その一方で、「結婚は御国の為!!」と書かれたポスターや、国が発表した「結婚改善実施要項」、それに伴う「結婚指導所」の開設は、銃後を守り兵士となる子供を産んで育てる家庭での女性の役割も強調していた。こうした方針は、愛国婦人会などを通して「報国結婚」という言い方で広められた。

昭和16年に出された国民勤労報国協力令は、男性の職種制限を細かく規定している。そして「こんな職種はむしろ女性の方がいいでせう」とうたった写真付きのポスターで、調理師やサービス業、電話交換手、市電の車掌、初等教育の教師などを挙げている。戦時下の女性の社会進出は、男女の社会的役割についての伝統的な考え方(差別)を逆により強める結果となったともいえる。

結婚前の女子学生たちは、男性の兵士への「召集令状」と同じような薄い紙1枚の通知で、軍需工場での女子挺身(ていしん)隊員として招集された。「針をハンダゴテに代えて」とのタイトルで、学ぶ権利を奪われて工場で溶接作業をしている昭和19年の写真が痛々しい。また同じ年に撮影された、大阪の市電で鉄かぶとを背中にかけて車掌として働く若い女性たちの写真からも同じ印象を受ける。

昭和18年の金属回収、プラチナの供出の督励などもあり、金糸を抜いて供出した和服の帯は、日本の戦争体制の滑稽な薄ら寒さを強く感じさせる。戦争相手だったアメリカでは、ナチスのパリ占領でオートクチュールの新作が発信されなくなったため、自国デザイナーのデザインを奨励してファッション産業が不振になるのを防いだ。戦争に勝つためには消費を落とさずに産業界全体の活力を維持することが必要と考えたからだ。「欲しがりません、勝つまでは」の日本とは大きな違いだ。

戦後には深刻な物資・食料不足などによる苦しい生活が続いたが、ぼうぜん自失気味の男性よりも女性の方がいち早く立ち直って苦難の道を切り開いた。大正9年生まれの大橋鎭子は、昭和20年に出版社「衣裳研究所」の設立を志して服飾デザイン講座を開き、翌年に「スタイルブック 1946年夏」を出版。そして後に「暮しの手帖」となる「美しい暮しの手帖」を花森安治らと創刊した。

大橋はNHKの連続テレビ小説「とと姉ちゃん」の主人公となったが、戦争を生き抜いて次の時代を切り開いた女性がこのテレビ番組で次々と登場している。コシノ3姉妹とその母を描いた「カーネーション」、神戸の子供服メーカーをモデルにした「べっぴんさん」は、ファッションが大きく関わっている。この企画展ではあまり強調されていないが、大妻や大橋もやはりファッションとの関係は浅くない。

ファッションは時代を映す鏡といわれるが、時代の曲がり角の困難な時期に、特に女性にとっては大きな力を与えるようだ。

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