木造賃貸アパートから、都市を変える。『モクチンメソッド』ほか

人に建築をおすすめするのは比較的容易です。しかしながら建築の本をおすすめすることは難しい。だからこそ、いろいろな人に建築の本に興味を持ってほしいし、そこから建築って楽しいな、と感じてほしいと思い、棚をつくっています。今回、紹介するのは、最近出版された建築(系)の本2冊です。
『403architecture [dajiba]|建築で思考し、都市をつくる』
403architecture[dajiba]は、彌田さん、辻さん、橋本さんの男性3人組の建築ユニット。2011年より静岡県浜松市を拠点に活動しており、これまでにたくさんのプロジェクトをつくってきました。
彼らの活動を一言で説明するのは大変難しいです。浜松を中心に大小様々な50のプロジェクトを6種類の「タグ」によって構成しています。タグという、ブログ記事や動画投稿サイトなどで使われるような分類を使うのは、とてもウェブ的な思考方法だと思います。書籍それ自体が彼らの活動のコンセプトを表現しています。
例えば「既存応用」のタグでは、『渥美の床 The Floor of Atsumi』という集合住宅の一室の天井の野縁を解体し、細かく切断し、断面を見せた状態で床に敷き詰めたプロジェクトなどがタグ付けされています。同じ作品でもタグによって見え方が異なっており、複層的に彼らの作品を理解することができます。
この本はLIXIL出版から出ている現代建築家コンセプト・シリーズといい、これまで、若手建築家を中心に24冊が出版されています。このシリーズから現代建築に触れてみるのはおすすめです。
『モクチンメソッド 都市を変えるモクチンアパート改修計画』

本書の著者、NPO法人モクチン企画は、木造賃貸アパートを重要な社会資源と捉え、再生することをミッションに掲げた建築系のソーシャルスタートアップです。
戦後日本社会に大量にできた(負の遺産と考えられている)木賃アパートがどのように生まれ、現在どのような問題を抱えているのか、その問題を可能性と捉え、再生していく手法と思想を本書では紹介しています。※
両書の著者の2組は私と同じ80年代後半生まれです。40代でも若手と呼ばれる建築業界の中で、若手中の若手です。インターネットが当たり前にある時代に思春期を過ごした彼らは、ウェブの構造を設計のコンセプトに援用する一方、ウェブ上で建築のレシピを公開し活動を広げています。
両書の副題はそれぞれ「建築で思考し、都市をつくる」「都市を変える」になっています。両者のスタンスは異なるものの、都市を見据えた彼らの活動から今後も目が離せません。
※ 彼らの活動はモクチンレシピのサイトをご覧ください。

さがやま・あきら
二子玉川 蔦屋家電 建築・インテリアコンシェルジュ
大学建築学科卒業後、大学院修了。専門は都市計画・まちづくり。
大学院在学中にベルギー・ドイツに留学し建築設計を学ぶ。
卒業後は、出版社やリノベーション事務所にて、編集・不動産・建築などの多岐の業務に関わる。