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本を連れて行きたくなるお店
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伊坂幸太郎のミステリーを読むと、銀座「庫裏」で宮城の日本酒を飲みたくなる

 カフェや居酒屋で、ふと目にとまる、ひとり本を読んでいる人。あの人はどんな本を読んでいるんだろうか……。なぜその本を選んだのだろうか……。

 本とお酒を愛する編集者で鰻オタクの笹山美波さんは、本の中の物語が現実世界とつながるような、そんなお店に連れて行ってくれます。

    ◇

伊坂幸太郎の小説と宮城の日本酒をペアリング

ひとり居酒屋でビールを飲みながらエッセイを読んだり、カフェでコーヒーを飲みながら小説を読む時間が好きだ。町の中華料理屋にあるクタクタになった漫画本を赤いテーブルの上で広げるのもいいし、喫茶店の新聞を客同士で譲り合って読むのもいい。

お店でする読書は、自宅と違って“ライブ感”があり、なんだか特別だ。注文が届くまでの間、空腹を忘れさせてくれる“食べられない”つまみになるし、一緒に暇をつぶしてくれる最高の友になる。それに、読んだ本と過ごしたお店での出来事とを、まとめて思い出にできるのが面白い。

こういう読書と散歩を組み合わせた“おでかけ”は、大人になって得られた人生の楽しみだ。学生の時は勉強とバイトの両立が大変で、お金も時間も使うのを渋っていたが、このごろやっと本を好き勝手購入して読み、ある程度自由に外食できる余裕ができた。そのお陰で、こんな時間を過ごせているに違いない。

思い出してみれば、幼いころも、いくつかある好きな図書館へ1日こもった後、60円の焼き鳥や、30円の駄菓子を買い食いして帰るのが好きだった。ピアノ教室で濃いカルピスを飲みながら、休憩時間に漫画を読むひと時も至福だった。一度手放した趣味を、今改めて手に入れた感覚にも近い。

筆者の伊坂幸太郎コレクションと本棚の一部


筆者の伊坂幸太郎コレクションと本棚の一部

 

本屋やAmazonで月に結構本や雑誌を購入して読んでいる。先日は、昨年発売された伊坂幸太郎さんのミステリー小説『AX』を買った。主人公の「兜」は、業界では“超一流”の殺し屋で、日々大きな仕事をこなしている。だが一方で、プライベートでは家に”恐妻”が控えているため、いつも肩身の狭い思いで過ごしている。その姿は、息子に呆れられるほどだ。

よくある設定であるにもかかわらず、この作品を面白くしているのは、「殺し屋」であることを家族にも隠しながら、兜が普通に夫や父として生活している点だ。その違和感から感じられる独特なユーモアに心奪われ、どんどん読み進めてしまった。

作品を気に入ると、作家のプロフィールが気になってくる。勝手に東京の方だと思っていたら、仙台に拠点を置いているという。確かに舞台の多くが仙台であるのを思い出した。それならば、伊坂さんの本を片手に宮城のお酒を飲めば、良い気分になれるに違いない。私はこういう勝手なペアリングをして、本を味わうのが大好きだ。

向かったのは、銀座の数寄屋通りにある日本酒バー「庫裏」。ビルの2階にある、カウンターとテーブル席がいくつかのこぢんまりとしたお店だが、全国から取り寄せた50~100種類もの日本酒を常時そろえている。お酒を頼めばマスターの解説も聞けるうえ、定期的にメニューが入れ替わるので、いつ行っても新しい発見があるのが嬉しい。この日は「宮城のお酒を」とお願いして、「日輪田」や「三米八旨」などをいただいた。

「日輪田」の「生酛純米」。昔ながらの手間のかかる製法ならではの複雑でしっかりとしたうま味と、酸味を味わえる


「日輪田」の「生酛純米」。昔ながらの手間のかかる製法ならではの複雑でしっかりとしたうま味と、酸味を味わえる

宮城のお酒と一緒に「おでん」もいただいた。桜海老の真薯(しんじょ)、生麩、大根をチョイス。ほっこりおいしい


宮城のお酒と一緒に「おでん」もいただいた。桜海老の真薯(しんじょ)、生麩、大根をチョイス。ほっこりおいしい

 

「殺し屋」にもお勧めしたい日本酒バー!?

庫裏を訪れるのは、落ち着いて飲んでいる人ばかりで一人客も多いから。BGMには穏やかなクラシックが流れているので、自然と読書に集中できるのが有難い。マスターは距離感をお客さんに合わせた絶妙な接客をしてくれるので、ゆっくり過ごせるところが気に入っている。

そういえば『AX』の主人公「兜」は、深夜に仕事を終えた後いつも魚肉ソーセージを買って帰り、それで腹を満たしていた。カップ麺やおにぎりでも食べればいいものを、すする音やビニールを剥がす音がうるさいと、寝ていた妻を怒らせてしまうという理由で、なるべく音の出ない食べ物を精選したそうだ。笑えたが、これには同情してしまった。

そんな環境でも外食をしないのは、素性を知られるとまずい「殺し屋」という、危険と隣り合わせな仕事のせいもあるだろう。もし私が兜と知り合えたなら、庫裏を紹介してあげたい。お店も人も多い銀座なら安心して紛れることができるし、逃げ道も多い。マスターは妙な詮索はせず、日本酒を飲みに来たひとりのお客さんとして、確かに接してくれるはずだ。きっと彼もリラックスできるだろう……なんて、小説世界に浸りすぎてしまったか。

美味しさを噛みしめられる順にお酒を出してくれるので、私はお酒選びをマスターにほぼおまかせしている。大分のお酒だが、口開きの「ちえびじん」もいただいた。ピンクがかわいい


美味しさを噛みしめられる順にお酒を出してくれるので、私はお酒選びをマスターにほぼおまかせしている。大分のお酒だが、口開きの「ちえびじん」もいただいた。ピンクがかわいい

 

銀座と仙台を本の世界が繋ぐ

帰るころにはいい時間になってしまっていた。酔いの回った夜には、すぐにでもタクシーに飛び乗りたくなるが、銀座には「乗車禁止地区」が設けられているので、大通りの乗り場まで行ってブルブルと震えながら並ばなければならない。割り込みなどを理由にトラブルが起きるのを避けるため、バブル時代に設けられたルールなのだそうだ。

タクシーを待つ間、伊坂さんのエッセイ「仙台ぐらし」を思い出した。仙台のタクシー事情についてだ。執筆された2005年当時は、ルール違反やトラブルが多発していたようだが、今はどうなっているのだろうか。近く、仙台へ確かめに行ってみよう。もちろん、伊坂さんの小説を片手に。

    ◇

和酒BAR 庫裏 銀座店
東京都中央区銀座6-4-15 トニービル2階
営業時間:17時~24時、日曜・祝日定休
http://www7a.biglobe.ne.jp/~kurisake/ginza/top.html

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