あの街の素顔
連載をフォローする

赤毛のアンの「世界一美しい島」へ カナダのプリンス・エドワード島

「赤毛のアン」にふんしたプリンス・エドワード島の女の子

なめらかな草の丘に、ちりばめられたように咲くタンポポの花がところどころ綿毛と化し、夏の気配にほわほわと浮かれているかのようだ。雨にぬれた農耕地は赤く、雲の合間から見えてきた青空とのコントラストに思わず車のアクセルを緩めた。これが6月のプリンス・エドワード島か。

プリンス・エドワード島への行き方は……

プリンス・エドワード島への行き方は……

カナダの東端、セントローレンス湾にある「波間に浮かぶゆりかご」と称されるこの島は、大きさは愛媛県とちょうど同じくらいで、人口はその10分の1の15万人程度。空路で入るのが一般的で、エアカナダの成田~モントリオール直行便が就航(2018年6月2日)して日本からも行きやすくなった。日本との時差はサマータイムでちょうど12時間なので、現実が詰まった日本の真裏へ来ている気分だ。

カナダ建国当時の姿をした人がシャーロットタウンを案内してくれる歴史ツアーもある

カナダ建国当時の姿をした人がシャーロットタウンを案内してくれる歴史ツアーもある

北米では夏の避暑地として人気で、1864年にカナダの建国会議が行われた「カナダ発祥の地」とも知られているが、日本人にとってはやはり、なにはなくとも「赤毛のアン」だろう。

原題「アン・オブ・グリーン・ゲイブルズ」。
著者のルーシー・モード・モンゴメリがプリンス・エドワード島で過ごした幼少時代の体験をもとに書かれた長編小説は五つの出版社に断られたものの、1908年にアメリカの出版社から発売され、カナダを含む北米でたちまちベストセラーとなった。

小説のモデルとなったグリーン・ゲイブルズは有名な観光地

小説のモデルとなったグリーン・ゲイブルズは有名な観光地

 

グリーン・ゲイブルズの中にある「アンの部屋」

グリーン・ゲイブルズの中にある「アンの部屋」

日本で翻訳・発売されたのは1952年。翻訳は当時のカリスマであった村岡花子が手がけ、戦後の西洋文化へのあこがれも後押しして第一次ブームとなった。世界名作劇場でアニメ化されたのは1979年で、このときが第二次ブームといえるだろう。けれど、これより若い世代には、そんなに「赤毛のアン」が響いていない気がする。ブームを知っている世代にも、幼少の頃に課題図書として読んだものの、とっぴなアンの行動に心を寄せられぬまま本を閉じた人も多いようだ。アニメ版を監督した高畑勲さんも、最初はあまり好きではなかったと告白している。実をいうとわたしも、7年前に初めて仕事で島を訪れることが決まってから読んだくちである。

グリーン・ゲイブルズ博物館と、「輝く湖水」のモデル

グリーン・ゲイブルズ博物館と、「輝く湖水」のモデル

いちばんの繁華街はシャーロットタウンだが、アンが暮らした「アボンリー村」のモデルはキャベンディッシュ村だ。海岸線の一部と、アンの住んだ家のモデルとなったグリーン・ゲイブルズ近辺は国立公園になっている。「赤毛のアンって実在の人物だっけ?」と錯覚するようなグリーン・ゲイブルズの近くには、小説に登場する「恋人の小径(こみち)」や「お化けの森」だってある。

水辺に咲くタンポポ

水辺に咲くタンポポ

 

モンゴメリ直筆のサイン。ごく親しい人には猫の絵を添えていた

モンゴメリ直筆のサイン。ごく親しい人には猫の絵を添えていた

モンゴメリは赤毛のアンを子供向けに書いたわけではないことをご存じだろうか。物語にはアンと、アンを育てることになった老兄妹マシューとマリラをはじめたくさんの人物が登場し、日常のドタバタ劇とともに、心境の変化を描く人間ドラマなのだ。そこへ島の情景描写が、象徴的にたびたび挿入される。

中でも印象に残るのは、道のまがり角をまわりアンとマシューが通った「並木道」、アンいわく「歓喜の白路」の描写だろう。

「ニューブリッジの人々が『並木道』と呼んでいるこの道は長さ四、五百ヤードで、何年か前に、ある風変わりな農夫が植えた巨大なりんごの木が、ぎっしりと枝々をさしかわして立ちならんでいた。頭上には香りたかい、雪のような花が長い天蓋(てんがい)のようにつづいていた」(「赤毛のアン」村岡花子訳)

木々が織りなす造形の美しさ

木々が織りなす造形の美しさ

美しい風景と言葉に出来ない気持ちがリンクする。美しさに胸が「ぎゅうっと」する。だから「赤毛のアン」の愛読者はこの島を訪ねてみたくて仕方なくなるのだ。

風景の美しさを感じることに理屈はない。だから、プリンス・エドワード島の魅力を感じるために「赤毛のアン」を知っていることは必須ではない。だけど、もし、少しでも知っていれば、感動は増幅する。

物語の世界へいざなってくれる風景と人々

物語の世界へいざなってくれる風景と人々

「曲り角をまがったさきになにがあるのかは、わからないの。でも、きっといちばんよいものにちがいないと思うの。それにはまた、それのすてきによいところがあると思うわ」(「赤毛のアン」村岡花子訳)

やせて目の大きな少女が目にした風景がここにある。
訪れたプリンス・エドワード島で曲がり角をまがると、想像は現実になり、色鮮やかに色づいた。

たそがれの光に映える綿毛

たそがれの光に映える綿毛

REACTION

LIKE
COMMENT
0
BOOKMARK

リアクションしてマイルをもらう

連載をフォローする

COMMENT

コメントを書いてマイル獲得! みんなのコメントを見る

SHARE

  • LINEでシェア

FOR YOU あなたにおすすめの記事

POPULAR 人気記事

※アクセスは過去7日間、LIKE、コメントは過去30日間で集計しています。

RECOMMEND おすすめの記事

&MEMBER限定の機能です

&MEMBERにご登録(無料)いただくと、気に入った記事に共感を示したり、コメントを書いたり、ブックマークしたりできます。こうしたアクションをする度にポイント「&MILE」がたまり、限定イベントやプレゼントの当選確率が上がります。

&MEMBERログイン

ID(メールアドレス)
パスワード

パスワードを忘れた方はこちら

&MEMBER登録はこちら

&MILEの加算アクション

  • &MEMBER新規登録:100マイル
  • 記事に「LIKE」を押す:10マイル
  • コメントの投稿:30マイル
  • 自分のコメントに「LIKE」がつく:10マイル
  • *今後、以下のアクションも追加していきます

  • 朝日新聞デジタル有料会員の継続:100マイル
  • ログインしてサイト訪問:10マイル
  • アンケート回答:30マイル
  • 「朝日新聞SHOP」での購入:50マイル
  • イベント申し込み:50マイル

&MILEの獲得数に応じてステージがあがり、ステージがあがるごとに
&MEMBER限定のイベントやプレゼントの当選確率が上がります。詳細はこちら