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このパンがすごい!
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食事処を理想とするパン屋「もっとそぎ落として力を抜いていきたい」/ON THE DISH

横浜・山手の邸宅街は、丘の上にある。坂を上がり、路地を行くと出会う、モダンな構えの白い門。これは普通の住宅ではないのか? こわごわ門をくぐるとさらに階段があり、その上の白壁の屋敷のドアを開けるとそこがなんとパン屋なのである。

レトロモダンな洋間に、大きな木のカウンター。内装と家具の製作は、「アンティークス タミゼ」の吉田昌太郎さんが手がける


レトロモダンな洋間に、大きな木のカウンター。内装と家具の製作は、「アンティークス タミゼ」の吉田昌太郎さんが手がける

ON THE DISHは、かつてイギリス人紳士が住んでいた館。植物を育てるサンルームだった、天井までガラス張りの空間でランチをいただく。夏の暑い日だった。トマトと夏野菜のガスパチョに、トッピングは刻んだスイカとプラム。窓辺に座り、目にしみるように青い夏草の庭を眺めつつ、とろりと冷たい液体をすくった。

カフェスペース。かって植物を育てていたサンルームを改装


カフェスペース。かって植物を育てていたサンルームを改装

スープのあと、まるでメーンディッシュのごとく、お皿の中心に鎮座するのが、「cotton」(山食パン)を使った2種のトースト。1種は北海道産チーズとオーガニックエキストラバージンオリーブオイル。もう1種は季節のはちみつ(伊豆・高橋養蜂産)とバター。うっすらきつね色を帯びた焼き加減は絶妙。チーズの味わいはプリミティブ。はちみつ(このときは桜と藤)にはやさしい甘さの中にフローラルな香りがそこはかとなく漂っていた。

ランチ。cottonのトーストに北海道産チーズとオリーブオイル(右)、バターと高橋養蜂のはちみつ


ランチ。cottonのトーストに北海道産チーズとオリーブオイル(右)、バターと高橋養蜂のはちみつ

このcottonという食パン、最高である。乳製品が入らず、砂糖の甘さも感じさせない、いわゆる「ハードトースト」。発酵種(いわゆる天然酵母)の香りはまるでレモン。トーストすると、キッチンがレモンの香りであふれる。食感は極上のかりかりもっちり。耳は音を立てて割れる。中身はふわふわでも、簡単にかみ切れるでもなく、質感に満ちてもっちり沈んで、とろーり官能的に溶けていく。ゆっくりと押し寄せる甘い麦の液体の大波。バターのような甘さに、そのあとたなびくごはんのような余韻は、北海道産小麦「キタノカオリ」ならでは。やさしく、ピュアな味だから、飽きずに毎日食べられるだろう。まさに、ごはん。

佐藤彩香さんは自らを「ごはん党」と呼ぶ。パンは好きではなかったが、あるとき、カナダ人がもてなしてくれた自家製のパンとグリルしたハンバーグを食べたとき、目覚めた。
「『パンってこんなにおいしいんだ、作りたい』って思いました」

会社をやめ、パンに打ち込んだ。発酵種を自家培養するパン屋で働きつつ、家で試作を重ねパンを究めた。ナツメヤシから起こした発酵種は、その頃から10数年にわたって継ぎ続ける。

Lunch。イングリッシュマフィン


Lunch。イングリッシュマフィン

「lunch」(イングリッシュマフィン)は必ず買いたい。フォークをぶすぶす刺して半分に割り、トーストして食べる。ここにも激しいレモンの香り。かりかりともちもちの間に、cotton以上のありえないギャップがある。歯も歯茎も包み込んでしまうようなもっちりの幸福。

普通は金属製の型で焼くところを紙の型で焼く。やわらかく火を当てて、硬い皮を作らず全身中身のようなやさしいもっちりを作りだすのだ。

「季節の花のはちみつカンパーニュ」の食感は、まるで素甘(すあま)。香りは、今度ははちみつレモンになる。むにゅむにゅむにゅとやさしく弾んでは、ゆっくりとろんと溶けてキタノカオリの色っぽい甘さを滲(にじ)ませる。

ショコラオランジュ


ショコラオランジュ

生地にオーガニックココアを混ぜ込み、フランス産のオーガニックチョコチップを混ぜ込んだ、ショコラオランジュが私を狂わせた。むせかえるようなココアの香り、ほろ苦さ、酸味や土っぽい香りさえある。チョコ自体の甘さは控えられているため、溶けるとともにゆっくりとやってくるキタノカオリの甘さが加わって、はじめて味が完成するというじれったさ。さらに、愛媛県産無農薬伊予柑ピールの芳香がチョコとの完全調和を作りだす。

でも、佐藤さんがいちばん好きなのは、ごはんとして毎日食べられるcottonとlunchなのだという。この2つのパンだけに将来は収斂(しゅうれん)させていきたいと。傍目(はため)には、おしゃれベーカリーカフェと見えているが、目指している場所はちがう。

「理想は食事処。もっともっとそぎ落として、力を抜いていきたい」

店内風景


店内風景

いつか、西洋からやってきたパンが本当に日本人のものになる日。ON THE DISHはそれをつかみかけている。

ON THE DISH(オンザディッシュ)
横浜市中区仲尾台40
045-622-1107
金曜 12:00~15:00 / 土曜 12:00~16:00
日~木曜休み

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