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恋愛小説家、登山に出会う。『バッグをザックに持ち替えて』

撮影/猪俣博史
撮影/猪俣博史

2002年に『肩ごしの恋人』で直木賞を受賞した唯川恵さんは、一時期“恋愛小説家”と呼ばれていた。そんな彼女は愛犬のセントバーナード「ルイ」の住環境に最適という判断で、パートナーと共に東京から軽井沢へ引っ越した。

軽井沢の美しい自然に囲まれ、家族はみんな幸せに暮らしていたが、「ルイ」が逝ってしまい、空虚な毎日を過ごすことに。そんななか、毎日新聞から連載の話があり、地元の「浅間山」を舞台に家族の物語を書くことになり、それを機に山に登ることとなった。

幸い、パートナーは元アウトドア雑誌ライターで、たくさんの登山経験があったので、著者を含む登山クラブを結成し、意欲的にたくさんの山に挑んでいくようになる。家から近い「浅間山」をホームグラウンドとして、著者の登山人生は始まった。

美しくも険しくもある山に誘う一冊

著者自身、「この私が山登りをするようになるなんて……」と、プロローグにもエピローグにも書いている。登山を始めるきっかけは十人十色だが、継続するには仲間に恵まれることが重要だなと、読んでいてつくづく思った。著者が始めた頃はちょうど登山ブームで「山ガール」という言葉も流行しており、山には女性の姿が多く見られた。

そんな時代背景にも後押しされ、赤岳、谷川岳、富士山などの登山の描写が細かく書かれており、登山口から稜線(りょうせん)の様子、小屋までの経緯、登山中の身体の変化などもよく分かり、ひとつのハウツー本のようにも感じる。また、登山においての装備の重要性、体づくり、補食について、小屋の様子、登山の人間模様も「さすが小説家!」と思うほど、こまやかに描かれている。

『バッグをザックに持ち替えて』
『バッグをザックに持ち替えて』唯川恵 著 光文社 1,200円+税

ついにはエベレスト街道まで

本書の終わりの方にある、故・田部井淳子さんとの出会いから、『淳子のてっぺん』を書き上げるまでの著者の心境には胸を打たれる。そして、田部井さんの影響で、2015年にはエベレスト街道トレッキングへ行き、標高5545mのカラパタールを目指すことになる。そこは予想を上回る過酷な状況に陥る。

山は季節によって様々な表情を見せてくれ、美しくもあり険しくもあり、奥深いものだとこの本で改めて分かる。それでも山との出会いは自分との出会いだと締めくくられる。

私も次の休みには仲間と山に行ってみよう! そんな気持ちになる一冊だ。

恋愛小説家、登山に出会う。『バッグをザックに持ち替えて』
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PROFILE
羽根志美

はね・ゆきみ
湘南 蔦屋書店 アウトドアコンシェルジュ
前職のアウトドアメーカーでの知識を生かして選書を行い、自らもとにかくアウトドアが大好きな2児の母。子どもから大人まで楽しめるアウトドアイベントも多く企画運営している。

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