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NHKへの苦手意識を克服 伊藤沙莉のネガティブ人生を変えた朝ドラ『ひよっこ』

私の1枚・伊藤沙莉①


米子役で出演した『ひよっこ』。夫・三男役の泉澤祐希さんと

今だから言えますが、私、『ひよっこ』のオーディションに合格して米子(よねこ)役で出演するまで、ずっとNHKが苦手でした。番組が嫌いだとか、そういうことじゃないですよ。9歳からこのお仕事をやらせていただいて、オーディションもたくさん受けましたけど、NHKだけは一度も受かったことがなかったんです。お調子者とかいじめっ子を演じることが多かったからNHKには合わないのかなって、自分で勝手に決めつけていました。

もともと、マイナス思考のネガティブ人生でした。例えばヒロインオーディションがあるって聞いたら、たいていの俳優さんは「チャンスだ!」って感じると思いますけど、私はヒロインっていう言葉だけで怖気づきますから(笑)。『ひよっこ』のオーディションも、ちょうど別のドラマの撮影でめちゃくちゃ金髪にしていた時で、その格好でNHKに入ることだけでも恐怖だったのに、オーディションで用意されたセリフは、私があまりやってこなかった、育ちがいいというか品がある役のセリフで、もう違和感しかなくて。でも後で聞いたら、そのギャップを脚本の岡田惠和さんがすごく面白がってくれて、私を米子役にしてくださったそうです。

初めてのNHKで不安を感じながらの撮影スタートでしたけど、米子の結婚相手になる三男(みつお)役の泉澤祐希さんは、それまでにNHKで何度もお仕事をされていて、勝手を知っている先輩が一番身近にいたので心強かったですね。たぶん三男役が泉澤さんじゃなかったら、もっと長い期間ネガティブなままでした。慣れてくると、自分のパスを持ってNHKに入っていく習慣がうれしくなって、弱点がひとつ減ったように感じたし、NHKで何かをするっていう時に起きる無駄な吐き気がなくなりました(笑)。

デビューからずっと若い人向けの作品に出ることが多かったので、『ひよっこ』では幅広い世代の人たちからいろんな反応をいただいて、「朝ドラすごい!」って本当に思いました。
私のいとこが訪問看護の仕事をしていて、『ひよっこ』が放送されていた頃、100歳近いおばあちゃんの家に看護に行った時に「楽しみにしていることは何?」って聞いたら、一番の楽しみが『ひよっこ』で、しかも「そこに出てくる米子ちゃんという子がすごく好きなの」って答えてくれたそうです。
その話を聞いて、私が緊張しながら体当たりで演じていた米子が、誰かの生きる力になっていたのだと、すごく自信につながりました。

放送が終わった後もこんなことがありました。バラエティー番組のロケで行ったキャンプ場に、オーナーらしきおじいさんがいらしたのですが、ずっとムスッとして新聞を読んでいたこの方が、突然私にコーヒーを勧めながら、「三男と……うまくやってっか?」って聞いてきて(笑)。

私も、「あー気づいてくれてた~?」みたいな気分になって、もうめちゃくちゃうれしくなって。ここは、伊藤を捨てて返さなきゃいけないと思って、「仲良く過ごしてます~」って、米子として答えました。そうしたら、そのおじいさんが初めてうれしそうにニコッと笑ってくれたんですよね。三男も連れてくればよかったって思うぐらい、あれはうれしかったです。
他にも、街中で「おう、米子」って声をかけられたり、NHKの局内で「米子おはよう」って挨拶していただいたり。役名で声をかけていただけることって、けっこううれしいんです。

私の1枚・伊藤沙莉②


松任谷夢子役で出演中のドラマ『獣になれない私たち』(日本テレビ)は毎週水曜22:00より

『ひよっこ』に出るまでは、この仕事で誰かの役に立つとか、誰かの何かになれるとかっていう思いを自分の中で見出せていなくて、どこかで「これって自己満足だよな」なんて思っていました。この仕事をやめちゃったら、私って人間的に何の価値もないんじゃないかって考えたこともありました。

でも、『ひよっこ』でうれしい反応をたくさんいただけて、ようやく居場所が見つかったというか、ここにいてもいいんだなって思えるようになってきました。自分にとって転換点になった作品はもちろん他にもありますけど、『ひよっこ』は特別。「将来ちゃんと乗り越えられるから、めげずにオーディションを受け続けるんだよ」って、ネガティブだった昔の自分に言ってあげたいくらいです。

放送中のドラマ『獣になれない私たち』では、オシャレでちょっと派手な子を演じています。オシャレな女の子の役を演じること自体が今まであまりなかったですし、今年に入ってレギュラーでやらせていただいた役も、衣装はマタニティーウェアか白衣かもんぺ、だったので、ちょっと歓喜してます(笑)。
プライベートをめっちゃ楽しんでいる“モテ女”っぽい子の役で、私が苦手な要素もあるんですけど、私がネガティブさやコンプレックスに押しつぶされていたら見ている人が楽しめない役なので、キラキラした感じをうまく出していきたいですね。主演の新垣結衣さんはその逆で、仕事が出来るがゆえに私に振り回されてしまう役。新垣さんと私の対比が、ドラマの中でうまく凸凹になったらいいなと思っています。
(聞き手 髙橋晃浩)

第10回TAMA映画賞で最優秀新進女優賞を受賞。話題のドラマ、映画への出演が続く伊藤沙莉さん


第10回TAMA映画賞で最優秀新進女優賞を受賞。話題のドラマ、映画への出演が続く伊藤沙莉さん

いとう・さいり 1994年、千葉県生まれ。2003年、9歳の時に『14ヶ月~妻が子供に還っていく~』(日本テレビ)でドラマデビュー。以後、シリアスな役からコメディまで幅広い役柄をこなす実力派として、多数のドラマや映画に出演。2018年は『寝ても覚めても』など出演映画が次々に公開され、第10回TAMA映画賞では最優秀新進女優賞を受賞。現在、ドラマ『獣になれない私たち』(新垣結衣主演/日本テレビ 毎週水曜22:00~)に出演中。

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