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東京の外国ごはん
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秋バテに真っ赤なスープが食欲をそそる ~新東記〈シントンキー〉(シンガポール料理)

秋バテに真っ赤なスープが食欲をそそる ~新東記〈シントンキー〉(シンガポール料理)
「ラクサ」

季節の変わり目で疲労が重なり何か元気が出る料理はないかな……と思っていると、恵比寿においしいシンガポール料理屋があると聞いた。2005年、恵比寿駅から徒歩5分ほどの坂の上にオープンした新東記(シントンキー)だ。

お店に入ってまず頼んだのは、大好きなラクサ(1000円)。シンガポールやマレーシアなどで食べられているラーメンのようなものだ。ココナツミルクと香辛料が効いていて、魚介類の出汁(だし)もたっぷり。さっそく熱々の一皿が運ばれてくると、真っ赤なスープが目に飛び込んできた。口に入れると、これまで食べたどんなラクサよりも濃厚な味! 米粉の麺をつるつると食べ進んでしまった。

「うちのラクサは自家製のサンバルソースがふんだんに使われているので、すごく濃厚な味です。赤いラー油が表面に浮くよう、スープは絶対沸かさないのがコツなんですよ」

料理長が横でそう教えてくれた。そして、次に出てきたのがシンガポール料理の定番、「海南鶏飯(ハイナンジーファン)」(950円)。鶏を丸ごと茹(ゆ)でてとった出汁でジャスミンライスを炊き、ソースをかけた鶏肉とともに食べる。その名の通り、中国の海南島の料理で、シンガポールやマレーシアなどへ移住した華僑が広めていったと言われている。

秋バテに真っ赤なスープが食欲をそそる ~新東記〈シントンキー〉(シンガポール料理)
「海南鶏飯(ハイナンジーファン)」は大山の地鶏だけを使っている

お皿の上でつやつやと輝く鶏肉はやわらかく、ジャスミンライスは鶏の出汁をたっぷり吸っていてうまみが凝縮されていた。お米のパラパラ感もいい感じ。あまりにおいしくて「また一口……」と止まらない。聞けば、ニンニク、ショウガ、レモングラス、パンダリーフなども入っているという。道理で止まらないはずだ。さらに、鶏肉は大山の地鶏のもも肉だけを使っているという。

そして、シメはお店の裏メニューという「ハーバーチキン」。丸鶏を包むペーパーを開けると、なんともつややかな鶏が顔を出した。ぷうんと薬膳の香りも漂ってくる。ああ……この香りたまらない!

秋バテに真っ赤なスープが食欲をそそる ~新東記〈シントンキー〉(シンガポール料理)
「ハーバーチキン」

「これは丸鶏にシイタケ、シナモン、八角、ニンニク、ショウガ、クコの実などを入れて、五香粉という5種類の香料の粉末を擦り込み、2時間蒸したものです。現地ではお祝いごとなどで食べられるんですよ」(料理長)

鶏にはいろいろなスパイスが染み込んでいて、なんともいえず滋味深い味。下にたまったスープがさらに絶品だった。

夢を実現するために

シンガポールは60以上の島々から構成される国。中国系、マレー系、インド系などが集まる多民族国家で、食文化もお互いに影響しあって発展してきた。男女ともバリバリ働く商業都市だけに、外食率は9割ともいう。現地ではバラエティー豊かな料理が屋台などでも楽しめる。

そんな豊かな食文化に囲まれて育ったのが、新東記のオーナー、パトリシア・チアさん。シンガポール生まれの華僑だ。祖父が海南島出身で、シンガポールではチキンライスやカヤトーストなどを出すレストランを経営していた。

秋バテに真っ赤なスープが食欲をそそる ~新東記〈シントンキー〉(シンガポール料理)
新東記のオーナー、パトリシア・チアさん(写真:本人提供)

幼い頃からおいしいものを食べて育ってきただけに、料理は作るのも食べるのも大好き。小学校へ上がる頃には家族から料理をきっちり教えてもらっていたという。

初めて東京にきたのは今から29年前のこと。シンガポールで大学を卒業した後、日本語を勉強するために来日した。

「当時日本はバブル時代。シンガポールでは同じ仕事をしていても、日本語ができるだけでお給料がよかったんです。それで私も日本語を勉強しようと思って来日しました」

パトリシアさんは日本語を一通り勉強すると、そのまま日本の商社へ就職。マーケティングやイベントの担当をしていた。一方、日本料理が大好きになり、「いつかは料理の仕事をしたいな」と思うようにもなった。しかし、異国の地で店を構えるのは簡単ではない。まずはできることから……と、商社で働く傍ら、調理師免許の資格をとったり、週末などに飲食店でアルバイトをし、実務経験をつむことにしたのだ。

そうやって、夢を実現する準備をしつつ、ときどき日本人の友達にシンガポール料理を作ってあげると、「教えてほしい」という声がちらほら。そこで、自分の家でシンガポール料理の教室を開くように。最初はもちろんタダで教えていたが、口コミで人の輪が広がるうち、材料費をもらって教室を開くようになった。さらに、「レストランをやって!」とも言われるようになり、徐々に自信がついてきたという。

直感を信じて開いた店

実際の店舗を探し始めたのはそれから4、5年後のことだ。しかし、案の定外国人というだけで物件探しは難航。そんな中、今の恵比寿の場所を見つけたのは、「運命的としかいいようがない」という。

「最初は高田馬場でお店を開くつもりだったんです。物件を見つけ、あとは印鑑とお金を持って行って契約するだけでした。でもその前日、友達に『なんで高田馬場なの? シンガポール料理屋なら六本木や恵比寿じゃない?』と言われて。そんな高いところは無理……と私が言うと、『まだ探していないでしょ、わからないじゃない』と。それで、契約を一日延期してもらって、歩いて探しに行ったら、今の恵比寿のお店がある場所に『空室』という看板がかかっていたんです。ボロボロでしたが、ここしかない!と直感し、急きょこちらに変更したんですよ」

ボロボロだった部屋は友人たちに協力してもらい、きれいにリノベーション。あっという間にお店らしくなった。しかし、問題はお店までの道のりだった。駅から徒歩5分ほどと近いのだが、当時は線路沿いの道が真っ暗だったのだ。

「今でこそ恵比寿は飲食店がひしめき合っていますが、当時この通りは“ゴーストストリート”でした。街灯さえなくてあまりに暗かったので、区役所に街灯をつけてほしいと訴えに行ったほど(笑)。駅で署名して明るくしてもらったんですよ」

繁華街からは遠く、暗い道でわかりにくい立地。インターネットもあまり普及していなかった当時は、お店をオープンしてから3日間、せっかくシンガポールから家族が応援にかけつけてくれたのに、お客さんは1人もこなかった。知人からは、「パトリシア、これじゃあ3カ月でつぶれるよ」とまで言われた。でも、その言葉が逆に「負けてたまるか!」という力になったという。

「ギリギリのお金でやりくりしていたので、もう必死でした。どうにかして作った料理を食べてもらいたかったので、駅でチラシを配って呼び込みをして、『タダでもいいから食べてください』と、お客さんをお店にひっぱってきたり……(笑)。でも、やっているうちに、タダだと逆に怖がられることがわかったので、『試食をしてブログに書いてください』と言い方を変えたんですけど……」

何事もやってみるものである。そのときに食べてもらった1人がたまたま有名なブロガーで、彼が書いてくれたおかげで急激にお客さんが増え、それ以来連日満席となったそうだ。

その後、神楽坂に2店舗目を出店(現在は閉店)、16年にはフランチャイズの形で大手町に3店舗目を出店している。

昨年からパトリシアさんはニューヨークへ行き、料理写真を勉強している最中だ。お店はある程度スタッフに任せ、リモートで指示を出す。学校の合間にはニューヨークのレストランをリサーチし、次の一手を考えているとか。

「アメリカ、もしくは関西方面で新しいお店ができたらいいな、と思っています。夢はファストフードのように、早く安く、おいしくシンガポール料理を食べてもらえるお店を作ること。チキンライスはもともと、お米のボールの中にチキンを入れた“チキンボール”でした。いわばおにぎりのようなもの。これならご飯を主食にするアジア系が増えたアメリカで需要があるんじゃないかなと思っています」

大好きな料理でどんどんパトリシアさんの世界が広がっているようだ。

フォトギャラリーへ(写真をクリックすると、くわしくご覧いただけます)

新東記(シントンキー)
東京都渋谷区恵比寿南1-18-12 竜王ビルII 2F
電話:03-3713-2255

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