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男らしさの呪縛
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お笑い、アイドル像……男性目線の社会構造は変わるのか

武田砂鉄さん×白岩玄さん

小説家白岩玄さんとライター武田砂鉄さんの対談後編です。白岩さんの新刊『たてがみを捨てたライオンたち』には、人生のモヤモヤを抱えた3人の男性が登場します。キャリアウーマンの妻が妊娠し、専業主夫になるべきかと悩む直樹。周りの女性を大事にできないバツイチの慎一。女性にモテず、アイドルを心の支えにしている幸太郎。本作では、彼らの三者三様の心情が細やかに描かれ、弱音を吐きづらい現代の男性たちのホンネが浮かび上がってきます。

武田さんが気になったのは、登場人物たちそれぞれの女性との関係。女性に親切な男性よりも、むしろ女性の扱いが雑な男性のほうがモテるのはなぜなのか? そして男性自身が抱く、男性社会への違和感とは――。

<<対談の前編はこちら>>

恋愛には自己破壊を求めてしまう

武田 『たてがみを捨てたライオンたち』の中に、直樹が妻と喧嘩をして、自信喪失の末に、風俗に行ってしまったシーンがあるじゃないですか。あのときの、本能と罪悪感の間で揺れ動く直樹の心情が正直に描かれていて、興味深く読みました。

男性と風俗の関係で思い出したことがあります。僕、芸人さんの深夜ラジオをいくつも聞いていて、おおよそ人見知りの彼らは、日常の細かい話をしつこく細かく掘り下げていて、そこがとても面白いんだけど、時折、風俗通いの話になると、とっても雑になるわけね。結構前だけど、「行為が終わった後、気まずいから(サービス提供側の女性が)逆バンジーで飛んでくれないか」みたいなことをネタとして話していた。対女性になると、急にがさつな態度になる。あれだけ、人を細かく見ている人たちなのに、そこだけはとっても雑なんです。でも、彼らはとにかくモテますね。

白岩 女性にがさつなポーズを取る芸人さんがモテることと一緒かはわからないけど、思い当たる節がある。この作品の感想で、モテるけど女性を邪険に扱う「慎一」という登場人物を好きな女性が多かった。

武田 広告代理店に勤めている人ですね。本当になんでなのでしょう。

武田砂鉄さん

白岩 わからない(笑)。でも、自分の過去の経験に照らし合わせても、恋愛では自分の持っている価値観をぶち壊してくれるような人を求めていたことがあった。恋愛にはどこか自分ではコントロールできないものを求めるというか、自己破壊を目指している側面があると思う。ただ、社会では明らかに誰かを傷つけるような言動は自制すべきってことですよね。 あくまでも同僚としての関係を望む人たちにセクハラしてしまったり、自分勝手な解釈に落ち着いたりしてしまう。いやいや恋愛と社会生活とは別ですよ、分けられてますよ、というような認識がないことが多いです。

武田 メディアの問題も大きいはず。さっき話に出したけれど、お笑い芸人たちの女性観や家族観って、旧来の価値観と相性がいい。物を書く人間の中では、「嫁」という呼称は慎重に書かれるようになったけれど、芸人たちはためらいなく「嫁」と連呼しますね。

白岩 そういう呼び方の問題は未だに根強く残ってるね。あとは、一般人に関して言えば、自分が気持ちよくいられるエンターテインメントの仕組みが、ある種の逃げ場所になると同時に、現状を変えない状況を作っていると思う。たとえば、アイドルはその筆頭かも。

武田 『たてがみを捨てたライオンたち』では、主人公の一人が、あるアイドルグループをずっと追いかけている人で、その妹が実は、兄の好きなアイドルグループの一員になることを目指していたという話でした。僕は妹の千香の方が気になっていて。

白岩 武田君、アイドルには一家言ありそうだね(笑)。

武田 千香は引きこもりになったときに、外に出たい、社会を見返したいという理由でアイドルを目指し、どうやったら輝けるかを考えて、一生懸命努力をする。でも見返したい社会で真っ先に目指さないといけないことは「男社会の中でどう消費されたらいいのか」になる。彼女は主体的に動いているように見えるけれど、本当にそうだろうかと。アイドルになることが一発逆転への近道のようでいて、ある種、旧来の社会システムに染まっていく選択肢になっている……というのが、今の社会、というか、変わらない社会を反映しているな、と思った。

白岩 皆、光が強く当たっている場所に行きたいと思ってしまう。その光の外、暗いところに誰がいるかというのはあまり想像しない。でも実際には、裏で誰かが必ずスポットライトを動かして表に光を当てているんだよね。

白岩玄さん

小説を書くにあたって、アイドルファンの人に話を聞いたの。どんなに遠くても遠征には必ず行って、現場では常にツイッターで感想を上げている人とか。その人たちに女性をモノとして扱うような差別意識はなく、純粋に応援しているんだなと感じた。僕たちはアイドルを取り巻く構造自体に問題性を感じてしまうけれども、ファンになるということは、自分の中の何かがアイドルによって強烈につかまれている状態なわけで、そこからどんなふうに男性世界、女性世界を見ているのかが気になりますね。

武田 アイドルのことが好きならば、そのグループの中でなかなか人気が出てこない人のことを想像しないのかな、と思う。その人を応援せよ、ってことじゃなく、そういう人がどうしたって生まれて、その人が心を痛める仕組みであることに、疑問を持たないのだろうかと。定期的に「体調不良」を理由に休む人が出てくる環境を心配しないのだろうか。

白岩 シビアな現実を目の当たりにしても、アイドルの世界というのはそういうものだし、ある程度は仕方のないことだと思うんじゃないかな。

武田 深く考えるとしんどいから、仕組みに慣れちゃえ、と思っているのかもしれない。

「わかっているよ」と言いながら何もしない ミスチルと化す30代男性

昨年、複数の大学で明るみになった医学部不正入試問題などをきっかけに、女性へのハラスメントにふたたびスポットが当たり始めている。同じ世代の男性として、また「男らしさ」のテーマを追う者として、二人が抱く「使命感」とは――。

武田 白岩君が前に『R30の欲望スイッチ』(宣伝会議)というエッセーを出したじゃない。その本でミスチルの曲について「世の中を斜めに見ているような毒のあるものも多い」けれど、「押し付けにならないように、いつも適度な距離」をとっていて、これは、「優れた客観性を持っていなければできない」と書かれていた。なるほど、と感心し、同時に、すごく今っぽいなと思った。

白岩 どういうこと?

武田 つまり、多くの人が社会問題に対して「よくない」とは思っている。「確かに今の政治はおかしいよ」とか「沖縄に米軍基地を押し付けるのはよくないよ」とか「女性が働きやすい環境にしなければ」というように。けれど、実生活で状況を変えるために行動しているかというと、そうではない。まさに白岩君が引用していたミスチルの歌詞のように、「今 社会とか世界のどこかで起きる大きな出来事を 取り上げて議論して 少し高尚な人種になれた気がして 夜が明けて また小さな庶民」(Mr.Children「彩り」/作詞:桜井和寿)と静観で終わる。僕はどうしても、「えっ、夜が明けた後も議論してイイじゃん」と思う。歌詞だから、彼らの考えと決めつけるのはよくないけれど。

白岩 最近悩んでいるんだけど、何か言われたときとか、問題を考えるときに、「それ、わかってるから」と先手を打つことで距離をとって、プライドを保つ方法があるよね。例えば男女平等について、「僕、それわかっているんですよね、大変ですね。難しいですよね」と言うことで、問題を意識していない男性たちよりも、一段自分が上にいるような錯覚を覚えてしまっている。でもそれって自分が他人よりも上だという感覚を持った「正しい男性像に近い俺」という新しい勢力と差別を生んだだけで、根本的には何の解決にもなってないよね。

武田 それは昔からあるすごくクラシックなマチズモだと思う。起きた事象に対して、「はい、はい、あれね」「もちろん知ってますよ、あれね」で簡単に片づけるというのは、上下関係で上にいる人の特権。「君たちが今怒ってること、あの時のアレと似ているね」なんて感じでなだめようとする。それにからめとられちゃいけない。

武田砂鉄さん×白岩玄さん

白岩 そうかもしれない。今や「父親の言うことは絶対」という価値観はなくなりつつあるわけで、例えば母親や姉が「お父さんのこんなところが嫌!」と言う様子を息子はずっと客観的に見て育っているからね。でも成長するにしたがって、自分も「男」として生きたい、という思いも生まれたりするわけで……。今の時代に求められる男性的振る舞いと、心の隅にわずかに残る旧来的な男性像への憧れとの間で悩むことになる。

武田 自分たちくらいの世代から、家族内の力関係にバリエーションが生じてきているのは、とてもいい傾向だよね。例えば、サラリーマン川柳の内容って、いまだに「家事もやらず妻が韓流ドラマに夢中」だとか「定年で家にいるようになったら粗大ゴミ扱い」とか、そいう内容ばかりでしょう。自分たちの世代は、それに「そうそう、ハハハ」と笑うってことはないと思う。家事分担しろよ、と思うし、ゴミみたいに動かずに鎮座してんじゃないよと思う。その問題意識には大きな断絶があるよね。

白岩 僕を含め25~35歳くらいの世代の人たちは、男女の不平等の是正に関してはもう一歩頑張れると思う。少なくとも自分たちの親世代よりは、「問題に自覚ありますよ、わかってますよ」と言いやすい。だからこそ、「問題に気がついている自分の方が偉い」という新しいマウンティングをしかけて不毛な議論を起こしたり、理念にだけ賛同して実際には行動に移さなかったりなんてことにならないように注意しないと。

武田 これまでは、男性が過ごしやすい社会を維持するために、会社でも家庭でも、「男らしさ」をフル活用した上空飛行が許されてきたけど、最近は、そこに対する厳しい目が育まれてきた。だから、「男らしさ」にあぐらをかいていた人たちは、不安になってるんだろうね。でも、しょうがない。なぜ維持させてくれないんだとキレられても、時代が変わってきたんだから対応しなさいと言うしかない。そういった鈍感さを棚に上げた持論に基づきながら男女差別を撒き散らす言動があれば、叩かれるのは当然のことだと思いますね。

白岩 そういうスタンスの人が炎上するようになってきたのはいいなとは思う。この15年で随分そこが変わったなと。

武田 変わった。確かに昔だったら責められなかったのだろうけど、今は「その発言は間違っている」と言える。大御所の男性芸能人や、あるいは大御所の男性作家のエッセーにも多いけれど、旧来の「男らしさ」に基づいた発言している人は、言いづらく、書きづらくなるでしょう。それでもまだ、この社会で意見が通りやすいのは男性だから、彼らの「男らしさ」が復権する可能性も大いにある。「本物の男ってのはな」みたいなエッセーとか、いまだに見かけるから。本当はもっと多くの男性作家たちに、声をあげてもらいたいですよ。 

白岩 僕もひよっている場合ではないね(笑)それはもう引き続き使命感として、頑張ります。(対談おわり/前編はこちら

<<特集の一覧ページはこちら>>

BOOK

『たてがみを捨てたライオンたち』集英社/1600円(税別) 白岩玄 著

白岩玄『たてがみを捨てたライオンたち』書影

モテないアイドルオタクの25歳公務員、妻のキャリアを前に専業主夫になるべきか悩む30歳出版社社員、離婚して孤独をもてあます35歳広告マン。いつのまにか「大人の男」になってしまった3人は、弱音も吐けない日々を過ごし、モヤモヤが大きくなるばかり。 幸せに生きるために、はたして男の「たてがみ」は必要か? “男のプライド”の新しいかたちを探る、問いかけの物語。

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