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彼女には、誰かを思いやる体力があるのだ。『私に付け足されるもの』

彼女には、誰かを思いやる体力があるのだ。『私に付け足されるもの』

撮影/馬場磨貴

数年前、女優の小雪さんと泉ピン子さんがテレビで対談をしていた。ピン子さんによると、小雪さんの夫の松山ケンイチさんと極寒地でドラマの撮影をしていた時、毎日熱くておいしいショウガ味の飲み物の差し入れを小雪さんが彼に持たせてくれたおかげで、出演者は誰も風邪をひかずにロケを乗り切れたという。

ねえ、なぜそんなにやさしいの、と身を乗り出すピン子さんに、小雪さんは「体力があるから」と笑った。ピン子さんはえっという顔になり、私を始めおそらく視聴者大多数もびっくり。心のことを聞いたのに、体です、という答えが返ってきたのだ!

自分はとにかく丈夫で、ひととおりを終えたら他の人のことをする余裕がある。体が弱い人は自身のことで力を使い果たし、気持ちがあっても動くのはむずかしい。だから私のやさしさって体力なんです、とはにかみながら言った小雪さんをこの短編集で思い出した。

立ち上がる女たちが読者をはげます12の物語

収録作の共通点は40代の女性が主人公であること。女子高生が主役のものもあるけれど、彼女を通じて40代であるお母さんが描かれていく。年齢に言及されていない作品でも、出てくる女の人には「中年になった」という思いがある。これは現代日本の30代の女性には、まだ持ちえない感覚ではないか。

一話目の舞台がウィーンで、おおワールドワイドと思いきや、あとは日本の、プラモデル屋やコインランドリーの中。果てはマンションの3階と4階の間の踊り場から一歩も出ないお話があったりする。そこで主人公たちは、たえず「思っている」。

なんて地味な、となるかもしれないけど、せまーい場所で起きる意外なこと、ささやかなできごとが登場人物を解放するのが読みどころ。彼女たちはそれぞれ驚くほど周囲を観察しており、泣いている女の人、友達一家のこと、60代になった母親、遠くにいる恋人、もうすぐさよならする近所の女の子などを思う。

自分だけを考えてる時って、そう深くはならない。ある存在が付け足される時、人は心にもぐりこんで、相手に対する感情の飛距離を測ったり、小さな後悔の中で気持ちを整える方法を見つけたりするんだと思う。主人公たちは若くないかもしれないけど、誰かを思いやる体力があるのだ。

どの物語もラストで「この人は大丈夫」と思えるのがいい。ハッピーエンドづくしではなくて、たとえば仕事を辞めたとか、夫と会話がなくなっているとかを抱えた人に根本的な解決はなされない。でも最終行で「彼女はOK」という自信が、読み手の胸にわく。

本人がダメでも、そばにいる人がすっくと立つと、元気が出ることがある。これはそういう、立ち上がる女たちが読者をはげます12の物語。大丈夫って、ほら、「丈夫」が入ってる。

(文・間室道子)

>> おすすめの本、まだまだあります

間室道子(まむろ・みちこ)

代官山 蔦屋書店の文学コンシェルジュ。 テレビやラジオ、雑誌でおススメ本を多数紹介し、年間700冊以上読むという「本読みのプロ」。お店では、手書きPOPが並ぶ「間室コーナー」が人気を呼ぶ。

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