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〈16〉ガタイがよくて何が悪い?

身長162cm、体重40kgギリギリ。これは裕奈さんが22歳のときの体。一般女性の体重として明らかに痩せている。大手不動産会社への就職が決まり、一人暮らしがスタートした。そして世間では炭水化物抜きダイエットがもてはやされていた。

名門大学の大学生だった裕奈さん。就活時期、何を仕事にするかというよりどれだけ大手の企業に入るかということに優先順位を置く同級生が多かった。裕奈さんは幼少期をヨーロッパで過ごし、大学時代の留学で発展途上国を見てきた。それもあって途上国を支援する仕事につきたいと思いつつも、裕奈さんもやはり安定した企業に入るのが最善なんだろうと、就活、大手不動産会社の内定を勝ち取る。

「世の中のいい女の基準=痩せている女、仕事ができる女、私生活も充実している女」

学校で教えられるわけじゃない、でも私たち女性には常にこれが課せられている気がする。

ファッション誌の色白で華奢(きゃしゃ)できれいなモデルたちが「愛される」女であり、夏が近づけばダイエット特集が組まれる。裕奈さんももともと決して太っていたわけじゃない、健康的な大学生だった。就職したての仕事では自分は無能にしか思えず、せめて容姿だけは「いい女」に近づけねばと、どんどんダイエットが加速していく。半年間炭水化物は極力とらず、朝から深夜まで仕事をする日も一日キャンディー三つという日もあった。どんなに多忙でも義務として週5のランニングも自分に課した。

「完全にもう摂食障害ですよね。それに周りは痩せてていいねって言ってくれるからもっと痩せなきゃって思ってた」。でも常に体重を気にし自己否定の日々、友達や恋人と会っていても全く楽しめない。そんなとき1人の友人が言った。

「確かにあなたは痩せているけど、まったく健康的でないしそれは美しさじゃない。そして何よりあなたも私たちも一緒にいて楽しくない」。きつい言葉に感じるが、裕奈さんは自分のことを心から友人が心配してくれているのがわかった。それから裕奈さんの自分の体と心と向き合う作業が始まった。

〈16〉ガタイがよくて何が悪い?

おいしいものをちゃんとおいしいと感じる心、人と楽しみながらする食事の大切さ、体重はどんどん増えたが「楽しい」という感情を思い出した。そして気力が戻ると本当に自分がやりたい仕事は何なのか真剣に考えた。当時の職場は人間関係も悪くなかったし、やりがいのある大きな仕事もあった。そしてお給料もよかった。だけど本当にやりたいのは、途上国を支援する仕事、特に女性支援に重きをおいて。それは裕奈さん自身が苦しめられた「女性像」を変えることでもあった。

自分のやりたい仕事に就くために足りないことを学び直そうと、仕事を辞め日米両方の大学院でジェンダー開発に特化して学んだ。その時出会ったアメリカでのシェアハウスの友人たち。早朝みんなで筋トレして、いかに筋肉が育ったかを自撮りしてSNSに投稿していた。そして互いにたたえ合う。

最初はそんな「自分推し」なスタイルに戸惑いを感じつつも、でも「自分が好きって当然のことだし、それを認め合うって最高だなって思いました」。裕奈さんのお母さんはマラソンランナー、お父さんは水泳をしていたこともあり、小さい頃からスポーツは身近にあった。以前は義務だったランニングが楽しみに変わっていた裕奈さんが、筋トレの面白さにはまっていくのも時間の問題だった。

大学院卒業後は国際協力機関に入社、スリランカ担当となった。さらに現場経験を積むために退職、今は在スリランカ日本大使館で専門調査員の仕事をしながら、任期終了後に始める自身のスポーツウェアブランドの立ち上げの準備を進めている。スリランカでは自立が難しい環境にある女性を雇用して。

〈16〉ガタイがよくて何が悪い?

スリランカでは夫を失った女性が1人で生きていくことがとても困難だ。学歴がなければバイトとしても、まともな働き口はほとんどない。結婚していない女性への風当たりも厳しく、また既婚女性が働き続けることもあまり好まれない。

「女性がもっと生きやすい世界にしたいんです。収入的にも世間体的にも」。現在裕奈さんは29才、恋人はいるが独身。商品のための生地を探しに行くと年齢を聞かれ「生地を探してないで旦那を探せ。何か君に欠陥があるのか!?」とズケズケ言われるそうだ。

裕奈さんの肌は小麦色で肩幅は筋肉がついてたくましい。笑顔もとても健康的だ。現在の体重は54kg前後。かつて自分が陥った摂食障害に落ちていく女性が減るようにと、裕奈さんは自分の体のデータを正直にSNSで発信している。

自身のSNSで体のビフォー&アフターを載せると、「以前のガリガリで白い方がかわいかったのに、とか何を目指してるの?ってコメントが飛んでくるんです。でも私はあなたに愛でられるために生きてるわけじゃないし、いろんな個性の女性がいていいとどうして認められないのかな」。

裕奈さんが現在準備しているブランドはスリランカの女性を支援しつつ、日本の女性に対しては、美は多様性があっていい、というメッセージが込められている。商品撮影のモデルはプロではなく、一般の女性たち。

これまでのこと全てに学ぶべきことがあって、今だんだんとそれがつながって形になってきた、と裕奈さん。スリランカの女性たちを支援したいという気持ちで始めたブランドなのに、雇っている彼女たちに反乱されたりもする。「トラブル続きの日もあるし、私1人では世の中の価値観を変えることは圧倒的力不足。でもだからってやらないという選択肢はないです」

暗黙の了解の「こうあるべき」は本当に私たちを幸せにしてくれるのか、今私たちひとりひとりが真剣に考えて次の世代に伝えていかなきゃいけない。生まれてきてよかったと思えるように。

フォトギャラリーへ(写真をクリックすると、くわしくご覧いただけます)

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