〈19〉スリランカの名物経営者、“出る杭”ムニさん、空を飛ぶ

ムニさんこと、ダルシャン・ムニダーサさんと知り合ったのは、私たちがスタジオを始めて1、2カ月経ったある夜。思うように仕事がなく、外に営業に出ることにした日のことだった。
まずは言葉が通じるところ、日本人を顧客にしているところ……と考えて和食レストランへ。ムニさんはスリランカで一番最初に和食レストランを始めた人。そのレストランは今やスリランカで一番高級な和食レストランだ。
ムニさんのお母さんは日本人、幼い頃日本で暮らしたこともあって和食が大好きだった。大学時代にアメリカへ留学したときアメリカの食事情に辟易(へきえき)して自炊を始めたことが料理の道に進むきっかけだったそうだ。
ムニさんのお店の写真を撮らせてもらえないか、と自分たちのプレゼンテーションをして、会って15分も経たない頃にムニさんが言った。「じゃあさ、明日うちの店の写真撮ってよ。自分で雑誌を発行してて最新号作ってるんだけど、明日中に差し替えれば間に合うから。今、印刷止めるから。明子さんの写真に全部とりかえるよ」
「え?」耳を疑った。自信満々(のふり)で自分をプレゼンしていたけど、あとは印刷するだけの出来上がったものを差し替えるほど私に期待している? 「どうしよう、うまく撮れなかったら」。急に怖くなる。でも……やるしかない。のでやった。結果、2年経った今もムニさんは私たちに撮影の仕事を頼んでくれる。

知り合って少し経った頃、ムニさんに聞いてみた。「どうして会ってまもない私たちに仕事をくれたんですか? ひどかったらどうしようって思いませんでした?」。すると「だって面白いじゃん。日本からわざわざスリランカにきてやってるんでしょ? 頑張って欲しいなって思うし、自分の若い頃みたい」
ムニさんは目立つ。お店の広告や看板には自身が登場している。「目立ちたがりや」と言われたりするけどその時点でムニさんの戦略勝ち。広告とは相手の印象に残ってこそ。
ムニさんはハンサムなので、女性問題もよくうわさされる。大人気のボリウッド女優と一緒にレストランを経営しているのだが、その彼女と交際しているのでは、とうわさに。「女優さんが彼女なんでしょ? って聞かれたので違いますよって言っときました」と私が言ったらムニさん、「そうです、って言っといて。本当は違うけど」とニヤッと笑った。
物事をズバッと言うし、自分のビジネスがうまくいっていることをとてもうれしそうに話す。そういうところが「自慢だ」「鼻につく」という人もいるけど、ムニさんはうれしくて黙ってられないのだ。そこに至るまでの苦労はあまり話さないから、パッと成功したように見えるけど、地道にやっているし、失敗もたくさんある。それが報われた時ムニさんはつい言ってしまうのだ。「また海外にお店が増えちゃうんだよ~」
ねたみ、そねみはどこの世界にもあるけれど、スリランカ人はそれを声に出してしまう人が多い。ムニさんは日本語もとても流暢(りゅうちょう)なので日本人らしくあれと求められたりもする。日本人らしくあれと思う人からすると「目立つことを控える日本人」ではないから、それもまた、たたかれたりする。

いろいろいわれるムニさんだけど、ムニさんの下で働いている人たちはとても楽しそうだ。怒られると泣けてきちゃうほど怖いそうだが、「怒る理由がちゃんとあって怒られている」と一人の厨房スタッフが言っていた。怒られたときに言い訳をするスタッフはだいたいやめてしまうそうだ。ムニさんにスタッフ育成のコツを聞いたら「えー……。ない! 笑」だそうで。でも見ていると、注意は必ずその場で、そして引きずることがないようだ。
ムニさんと働く女性スタッフたちの話。「女性だから仕事が制限されるとか、女性的な役割を求められることは全くないですよ。ムニさんと一緒に働いているといい意味で自分の限界をどんどん超えていける」。ムニさんの海外出張はいつもスタッフとともに。「発展途上国のこのスリランカから世界へ発信していけるのはとても誇り。毎日違うことが起きるねって大変なこともチーム皆で楽しんでます。めまぐるしいけどエキサイティング」と彼女たちは笑う。
ムニさんのお店は今は国内に6店舗、海外にも増えてきている。さらに海外に行くことが増え、ムニさんがスリランカにいることも少なくなってきた。スタンプが収まりきらず、今はパスポートが18冊。出る杭ムニさんは今日も世界に飛び出していく。もう、カナヅチも届かない。