旅を豊かに、日常にヒントを。上質な衣食住を体験する京都のホテル「MALDA」

朝、窓いっぱいの太陽の光で目覚める。顔をうずめるだけで幸福が満ちるタオルで支度を整え、自然の恵みを摘みとってきたかのような朝食をいただく――。
自室のようにくつろぎながらも、普段の生活ではなかなか実現できない上質なものと空間に囲まれた時間を過ごすことができる宿。それが、京都に昨年10月にオープンしたホテル「MALDA(マルダ)」です。

1階のカフェでは「ババグーリ」のお茶や焼き菓子、ランチタイムにはカレーが楽しめる
ホテルの存在は、同じ建物の1階のカフェ「MALDA」をたびたび訪れるうちに知りました。姉小路通に面した窓からさんさんと光が降り注ぎ、モダンな空間でありながらもどこか自然の気配が漂うカフェのインテリアやテーブルウェアに、何時間でもここで過ごしていたいような心地よさを感じていました。ホテルなら、そんな心豊かな時間を自分の部屋のように楽しむことができるのです。

カフェでいただける砂糖・卵・乳製品を使わず作るマフィン(350円〜)と二茶(600円)。いずれも税込み
ワンフロアに1室ずつ、計3室しかないMALDAのホテルは、それぞれが赤・青・墨のテーマカラーで彩られています。目の覚めるような鮮やかな色も、窓から差し込む柔らかな自然光を受けると不思議と穏やかな表情に映ります。白や木調といったシンプルで無難な色に統一しなかったのは「自然の美しい色彩にハッとするような瞬間を感じていただきたくて」。そう話すのは設計・運営を手がける藤本信行さん。
「こうした色の壁も、素足でも気持ちいい小石を埋め込んだ床も、遮光カーテンやテレビのない空間も、自宅では採り入れにくい要素です。旅の非日常感、特別感を味わいながら過ごしてもらうことで、京都の滞在が豊かなものになればと願っています」

海のような瑠璃(るり)色の「青(AO)」の部屋。窓は薄いカーテンのみがかかり、光が降り注ぐ
その世界観は、アパレルブランド「ヨーガンレール」と美しい手仕事の日用品ブランド「ババグーリ」を設立したデザイナー、ヨーガン・レール氏の美学を引き継いだものです。ホテルのアメニティーやテーブルウェア、美しいベッドリネンや家具はどれも、自然の造形と人の手から生まれる仕事を愛した、氏の生活哲学に通じるプロダクト。ヨーガンレールのデザイナー・松浦秀昭さんとともに、ババグーリ京都店の向かいにあった築48年のこの建物をどう生かし、どのような場にするか試行錯誤しながらMALDAは誕生しました。

季節の料理を木箱に詰めた朝食。主食は玄米ごはん、玄米粥(がゆ)、パンから選べる(撮影:影山優樹)
宿泊者に提供される朝食は、素材の生命力と豊かな風味を凝縮した美しい一膳。季節の有機野菜を使った色とりどりのおかずが、オリジナルの木箱に盛り付けられ、各部屋に届けられます。それは、一般公開されていないにもかかわらず、美しく滋味深い献立で話題を集め書籍化もされた「ヨーガンレールの社員食堂」の味そのもの。目覚めゆく朝の街を眺めながら丁寧に作られた朝食を部屋でゆっくりと味わうと、細胞のすみずみまでエネルギーが行きわたるように感じられます。

ふっくらと心地よいタオルや自然素材由来のアメニティーも「ババグーリ」の精神が宿る
衣食住すべてに、有機的で上質なものを選ぶことは容易ではありません。けれど、「MALDAで過ごされたことで、その方の暮らしがほんの少し変わるきっかけになればうれしいです」と藤本さんは話します。シンプルで現代的なホテルの一室に、オーガニックコットンのタオルや自然の香りのせっけん、有機野菜の料理や美しい手仕事のテキスタイルが調和する。あるいは、太陽の光のうつろいを感じながら過ごすことや、テレビの音のない静けさを知る。ホテルで過ごす数日の間体験したその時間の豊かさが、都市の生活のもの選びや過ごし方に小さな種をまくこともあるはずです。

オリジナルの部屋着も用意。リラックスしつつ美しいデザインを身につけて過ごすことができる
旅と日常。都市と自然。対照的なものが呼応しあい、心うるおす時間と空間を紡ぎ出す。MALDAで体験するのは、そんな新しい旅の時間です。旅から持ち帰ったささやかな変化が日常に根ざし、小さな花を咲かせるとき、自分の暮らしが以前よりも少し好きになっているかもしれません。(撮影:津久井珠美)

MALDAのある姉小路通は京都の美しい街づくりの活動がさかんな地域。街の息づかいも感じたい
MALDA
https://www.maldakyoto.com
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