半熟卵があふれ出す、洋食店の正統派オムライス「西洋酒樓 六堀」

ふるふると揺れる楕円(だえん)形のオムレツは、形を保っているのが不思議なほど。焦げ目一つないすべすべの表面にナイフを入れると、半熟卵とチーズがなだれのようにあふれ出します。このエモーショナルなビジュアルのオムライスは、京都駅にほど近い洋食店「西洋酒樓 六堀(せいようしゅろう ろくぼり)」の名物。スタンダードな洋食メニューが老若男女に愛される、旅行客にも地元の人々にも人気のレストランです。

カジュアルな雰囲気で心地よい店内。コース料理からアラカルトまで価格帯もさまざま
「うちにあるのは洋食の定番中の定番ばかり。当たり前のことを当たり前にやっているだけで、レシピも食材も変わったところは一つもないんです」
そう笑うのはシェフの清水正さん。この店の前身となるフレンチの「レストランむとう」のころからシェフを務め、「よりカジュアルに洋食を楽しめるレストランを」という思いで「六堀」へとリニューアルオープンしました。
そのため、メニューに並ぶのはハンバーグ、とんかつ、エビフライといったなじみ深い洋食の数々。けれど、清水さんが「当たり前」と称する味は、シンプルな料理を一番おいしい状態で食べていただきたいというこまやかな心づかいに支えられています。

「クラシックオムライス」(ランチ・サラダ付1,566円、ディナー1,782円・いずれも税込み)
オムライスやハンバーグにかけられている自家製デミグラスソースは、「むとう」時代から長く愛されるこの店の味の要。牛肉と玉ねぎのみという究極にシンプルな食材で作りますが、じんわりとあとを引くコクと風味は、それらを惜しみなくたっぷりと使うことで引き出されています。ステーキやハンバーグにも使う上質な牛肉のスネやスジは、すべてデミグラスソースに投入。オムライスをいただくと、時折くずれるほどじっくりと煮込まれた牛肉が口の中でとろけ、奥深い味わいが余韻を残します。

卵約3個分を使って、ふっくらトロトロに焼き上げる
芸術的なラグビーボール型に焼き上げるオムレツは料理人の腕の見せどころ。フライパンに卵を流し込むと絶えずかき混ぜ、卵が少し固まり始めたその一瞬を逃さず、チーズを加え形を整えて、くるり! チキンライスの上に盛り付け、テーブルにサーブするその間にも余熱で火が通るので、半熟の1歩、2歩手前でオムレツ型に成形しなければなりません。フライパンからテーブルへ、絶妙のタイミングで運ばれてきたオムライスに、ナイフを入れた瞬間思わず歓声があがります。

ガラス張りの2階席。この季節は堀川通の新緑が心地よい
広々とした2階席からは、堀川通の街路樹や西本願寺が見えます。京都駅周辺では珍しい大箱のレストランは、大人数や家族連れにもありがたい存在。可動式のパーテーションで半個室状態にもできるので、お祝いごとのディナーにも利用できます。
「室内に居ながら、屋外で食事しているような雰囲気を味わってもらえたらと、開放的な空間にしています。コース料理でカトラリーを選ぶような特別感をお子様でも体験できたらと、スプーンや食器をいくつか用意して選んでもらったり……。洋食って、子どもにとってもご年配の方にとってもごちそうでしょう?」と清水さんは話します。

階段のビビッドな壁の色は、メキシコの建築家、ルイス・バラガンの色彩感覚に影響を受けて
子どものころ、家族で外食に出かけて、大好物がたくさんのったプレートにワクワクしたような気持ち。ふるふるのオムライスの卵を開く瞬間は、そんな期待にも似た、心弾むエンターテインメントです。老若男女に愛される“当たり前”の洋食は、いくつになってもワクワクするとっておきのごちそうに違いありません。(撮影:津久井珠美)

京都駅からタクシーでワンメーターほどの距離。席数が多く駐車場もあるため、使い勝手が良い
西洋酒樓 六堀
https://www.roku-bori.jp
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