ガラス瓶の中の景色に見とれて。梅仕事を体験する専門店「蝶矢」

七十二候で6月中旬は「梅子黄(うめのみきばむ)」。スーパーや青果店に青梅が並びはじめると、「梅仕事の季節がやってきた!」とワクワクします。梅シロップや梅酒、梅干しなどを、毎年この季節に仕込むのを楽しみにしている人もいれば、「やってみたいと思いつつ、なかなか時間がとれない」「初めてなので、道具や材料をそろえるのがたいへん」という人も多いのではないでしょうか?

白を基調としたシンプルな店内。奥のテーブルで1回につき6名参加可能
そんな梅仕事を一粒からでも体験できるのが、京都の街なかに昨年オープンした「蝶矢(ちょうや)」。梅酒メーカーとして知られる「チョーヤ梅酒」による、梅仕事体験の専門店です。大阪府羽曳野市に本社がある同社が京都に初の路面店を構えることになったのは、日本の伝統的な季節の風習である梅仕事を、現代のライフスタイルに合った形で体験してほしいという思いから。道具も材料も用意され手ぶらで体験できるとあって、国内外から次々と参加者が訪れています。

梅シロップ作りの体験セット。S:1,000円~、M:2,000円~、L:3,000円~(各税別)。Sサイズなら梅1粒で作れる。写真はMサイズ
体験は梅シロップ、梅酒作りのどちらかを選べ、さらに使用する梅の品種、砂糖も好みの風味を組み合わせることができます。梅は、梅酒作りにもっとも適しているといわれる和歌山県産・完熟南高梅をはじめ、青梅の爽やかな風味の有機古城、アセロラのようなフルーティーさと小粒の見た目が愛らしいパープルクイーンなど、常時5種類。梅の産地や生産者とともに歩み、品種ごとの特性を熟知した梅酒メーカーならではの上質で多彩なラインナップは、自宅ではなかなかまねできない楽しみです。

梅の品種、砂糖の種類ごとにシロップを試飲し、好みのフレーバーを選ぶことができる
梅シロップや梅酒に使用する砂糖も、定番の氷砂糖だけでなくこんぺい糖やはちみつ、有機アガベシロップなど4種類。お酒はホワイトラムやブランデーなど5種類と、その組み合わせは梅酒で100通り以上。瓶の中で梅の実と重なり合う様子が愛らしいこんぺい糖は、溶け出しても安心して口にしていただけるよう天然色素のみで色付けしています。

梅のヘタを取る作業。梅はマイナス40℃で急速冷凍させているため一年中使用できる。抽出も生の梅より早い
作り方はとても簡単。まず梅のヘタを取り、梅・砂糖・梅……の順に瓶に入れるだけ。梅酒の場合は最後に静かにお酒を注ぎ入れます。瓶ごとクッション材入りの化粧箱に入れて持ち帰ることができるので、普通の持ち運びではこぼれません。1日1回攪拌(かくはん)し、梅シロップは1週間後、梅酒は1カ月後から飲むことができます。

梅とこんぺい糖が入ったガラス瓶が愛らしく、写真を撮る参加者も多数
「スーパーで販売されている梅は1キロ単位などで量が多く、瓶やお酒も大容量。そうした事情でトライしづらい梅仕事の面白さを、洗練されたアイテムやフレーバーを選ぶ楽しみから知っていただけたら。お客様の9割は梅仕事が初めての方ですが、梅と砂糖が入ったガラス瓶が素敵、と喜んでいただけます」と、店長の北村翔治さんは話します。

使用する梅や砂糖によってできあがりの色も風味も違う。上段から完熟南高×こんぺい糖、パープルクイーン×氷砂糖、完熟南高×てんさい糖
シンプルな店内に飾られているのは、ガラス瓶のなかで澄んだ紅色の液体に変化していく、梅シロップの7日間の経過見本。砂糖が溶け、梅の色に染まり、少しずつ変わる瓶の中の景色を、日々眺めることも梅仕事の楽しみの一つです。材料も工程も自分の目と手で確かめて作る梅酒や梅シロップは、素材の風味をストレートに味わえ、割り方によって甘さやアルコールの量も調節できる優れもの。一度手作りの梅ドリンクのおいしさを知ると、毎年の梅仕事が楽しみにさえなります。

テイクアウトで梅シロップを使ったドリンクも。左から紅茶割り、緑茶割り、ソーダ割り(各540円)
梅雨のころ梅仕事にいそしみ、本格的な夏を迎えるころにできあがる。暑さや夏バテ対策にも役立つ梅の保存食は、そんなふうにして人々に重宝されてきたのでしょう。「梅子黄」候、日本の暮らしの知恵が詰まった梅仕事を、今年は始めてみませんか。(撮影:津久井珠美)
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