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ニューヨーク、ゆらりアップステートへの旅のススメ

マンハッタンから鉄道に揺られること約1時間。ハーレム、ブロンクスを越えてさらに北上すると、緑豊かなハドソン川を中心に「アップステート」と呼ばれるエリアが広がります。アップステートは、もともとニューヨーカーたちの保養地があるほか、世界有数の地価の高さを誇るニューヨーク市で暮らす若者の移住先としても人気の場所。これは、長期滞在する方や2度目に訪れた方には足を延ばしてもらいたい、初心者向けのアップステートのススメです。

(写真・文 = 草深早希)

旅の始まりは、いつもグランド・セントラル

ニューヨーク、ゆらりアップステートへの旅のススメ

足早に通り過ぎる若者や、観光中の家族。英語のほかにスペイン語や中国語も飛び交う「Grand Central Terminal」のコンコースは、日々乗車客でひしめき合う。地下鉄、4、5、6、7トレインの「Grand Central/42 Street」駅でメトロノース鉄道のターミナルと接続

マンハッタン島とアップステートを結ぶ主な交通手段は、マンハッタンのグランド・セントラル駅をターミナルとするメトロノース鉄道のハドソン線。もちろんほかにも、通称“アムトラック”こと全米鉄道旅客公社が運営するバスや、レンタカーを使う手段もありますが、もしニューヨークで1度も鉄道に乗ったことがないなら、まずはハドソン川ののどかな景観を眺めながらサンドイッチをほお張るような気ままな鉄道の旅がおすすめ。

ニューヨーク、ゆらりアップステートへの旅のススメ

メインコンコースの南にある「Great Northern Food Hall」は、コペンハーゲンの一流レストラン「noma」の創設者クラウス・メイヤーが監修した北欧料理専門のフードコート。“アメリカで、北欧……?”と思うはずだが、今ニューヨークの食は北欧料理がトレンド

ニューヨーク、ゆらりアップステートへの旅のススメ

デンマーク伝統のオープンサンド「スモーブロー」(7ドル〜)やスープをイートイン・テイクアウトできるサンドイッチ店のほか、カフェやバーなど6店舗も展開。メイヤーが手がけたレベルの高い北欧グルメを、気軽に楽しめる注目のスポット

まずは、ハドソン線でラッセル・ライト邸のあるギャリソン駅へ。

メトロノース鉄道
http://www.mta.info/mnr
グレート・ノーザン・フードホール
http://greatnorthernfood.com

アメリカを代表する工業デザイナー、ラッセル・ライト邸へ

ニューヨーク、ゆらりアップステートへの旅のススメ

1937年に発表されたライトの代表作「アメリカンモダン」シリーズ。写真提供 = MANITOGA / The Russel Wright Design Center

魔法のランプのように滑らかで大胆な曲線を描いた、セラミック素材のテーブルウェア。1920〜1960年代、“正式なディナーウェアと、ピクニックで使う紙皿の中間”をコンセプトに、シンプルでありながら機能性とデザイン性を兼ね備えたプロダクトを次々と生み出したラッセル・ライトは、アメリカのモダンデザインに大きな影響を与えた工業デザイナーのひとり。そんなライトがかつて過ごした住居兼スタジオのある「マニトガ」を見学しに、ハドソン線でギャリソン駅へ向かいます。

ニューヨーク、ゆらりアップステートへの旅のススメ

「Garrison」駅は「Grand Central」駅から約1時間半。(乗車券は往復20〜30ドル。運賃は乗車時刻により変動します)

ギャリソンは、最近では珍しい無人駅で、物静かな駅前にはハドソン川と小型船の船着き場、カフェがたった一つあるくらい。初めてこの場所を訪れたならきっと、ここがニューヨークであることを忘れてしまうほど“ゆるい街だ”と、ダウンタウンとのギャップに驚くに違いない。

ニューヨーク、ゆらりアップステートへの旅のススメ

「MANITOGA」へのアクセスは、「Garrison」駅から車で5分、タクシーよりもウーバーやリフトなどが便利(約5ドル)。ただし、迎車に30分以上かかることがあるため、余裕を持った行動を。ツアーは予約制(大人25ドル〜)、予約はホームページまで

「マニトガ」は、東京ドーム6個分がすっぽり入ってしまう、広さ75エーカーの森林庭園と住居兼スタジオがあるライトの元所有地。敷地内の建物は、アメリカ歴史建造物に登録された、ニューヨークで一般公開される数少ないミッドセンチュリーモダン建築の一つです。

ニューヨーク、ゆらりアップステートへの旅のススメ

もともと採石場だったことにちなんで「ドラゴン・ロック」と名づけられた敷地内の2棟は、手前がスタジオ、奥が住居。ライトは、長年にわたりこの敷地の研究を重ね、あえて住まいと作業場を分離。そして、滝を中心に緑に包まれた環境を設計しました

ニューヨーク、ゆらりアップステートへの旅のススメ

住居の一部。チョウがあしらわれた美しい扉と青いタイルの浴室は、入浴しながら庭を一望できるというなんともうらやましい造り

ニューヨーク、ゆらりアップステートへの旅のススメ

リビングは、床や暖炉に大胆に使われた岩、視界いっぱいに自然が広がる大きな窓、そして、松の葉が練り込まれた緑のしっくい壁。随所に、ライトが特に影響を受けたという日本の建築と空間デザインの要素が反映されています

ツアーは、モダニズム建築と庭を案内してくれるこのハウススタジオツアーをはじめ、コレクターズツアーとサンセットツアーがあるほか、「ウッドランド・ガーデン」と名づけられた広大な森林庭園をまわるガイドつきのハイキングや、不定期でイベントも開催。

マニトガ/ラッセル・ライト・デザインセンター
https://www.visitmanitoga.org

アップステートを代表するリゾート地、キャッツキルで宿泊を

「マニトガ」のあるギャリソン駅からさらに北西へ進むと、最高峰の標高1274メートルほどのゆるやかな山地「キャッツキル」が横たわる。キャッツキルは、昔からニューヨーカーたちの保養地として愛されてきたアップステートを象徴する場所で、ニューヨーク市で暮らす富裕層の別荘地としても知られています。

ニューヨーク、ゆらりアップステートへの旅のススメ

「Getaway」の宿泊施設(大人2名、1泊199ドル〜)。アクセスは、ハドソン線で「Garrison」駅から三つ目の「Poughkeepsie」駅下車、駅からウーバーで西へ1時間(約150ドル)。ハドソン線は、1時間に1本ほどの頻度で運行しています。写真提供 = Getaway

モダンな小屋をレンタルできる「ゲッタウェイ」の宿泊施設があるのは、キャッツキルの山の中。Eメールで案内される交通手段でちゃんと目的地に到着できるのかどうか、不安と高揚感が入り交じる道中とはうってかわり、辿(たど)り着いた先は、見渡す限り樹木が生い茂る森に小さな小屋がぽつんぽつんと点在するだけのとても静かなところ。

ニューヨーク、ゆらりアップステートへの旅のススメ

小屋には大きなベッドとキッチン、シャワー、トイレ。そのほか、別料金でキャンプファイアのセットも。写真提供 = Getaway

森を散策するもよし、“ワイルドクッキング”を楽しむもよし、ゆっくり読書にふけるもよし、余計なものがないからこそ、それぞれのスタイルで自然と向き合う時間に集中できるというのがコンセプト。もちろん、オシャレな民泊も豪華なホテルもあるエリアだけど、せっかくキャッツキルまで足を延ばすなら、シンプルに自然のなかで過ごすことをおすすめします。

ゲッタウェイ
https://getaway.house/catskills-east

印刷工場の跡地にある壮大なスケールの美術館、「ディア:ビーコン」へ

翌日、キャッツキルからニューヨーク市までの帰路の途中にあるのが、この旅の最終目的地である「ディア:ビーコン」という美術館。ここは、1929年に建てられた食品メーカーの包装紙印刷工場を改装し、2003年に美術館としてスタートしました。

ニューヨーク、ゆらりアップステートへの旅のススメ

赤いレンガ造りが印象的な「Dia: Beacon」のエントランス(観覧料は大人15ドル)。「Getaway」からのアクセスは、ウーバーで約1時間の「Poughkeepsie」駅からハドソン線で二つ目の「Beacon」駅下車、駅から徒歩10分。「Grand Central」駅からの日帰りであれば、美術館のチケットがセットになった往復乗車券がおすすめ(1日のみ有効、大人40ドル)。写真 = Bill Jacobson Studio

近・現代美術を取り扱うアメリカ最大級の美術館で、およそ4エーカーの展示スペースでは、アーティストの委託プロジェクトをはじめ、企画展示やサイトスペシフィック・アートの実現、1960〜1970年代のアーティストにフォーカスした作品のコレクションを行っています。

ニューヨーク、ゆらりアップステートへの旅のススメ

工場の駐車場だったスペースを生かした常設展示は、1960年代に活躍したフランス人アーティスト、フランソワ・モルレによるもの
François Morellet, No End Neon, 1990/2017. Dia:Beacon, Beacon, New York. © Artists Rights Society(ARS),New York/ADAGP, Paris. Photo: Bill Jacobson Studio, New York. Courtesy Dia Art Foundation, New York

なんといっても目を見張るのは、建物に沿うような展示のスケール。ほかの美術館と一線を画す、作品の大きさ、空間使い、作品との距離感は、どれをとっても圧巻です。美術館が主催する企画展示では、1960年代のカウンターカルチャーとサイケデリックアートをブラックライトペインティングで表現した、ジャクリーン・ハンフリーズによる新作展を開催しているほか、1978〜1979年に制作されたアンディ・ウォーホルによる「シャドウ」シリーズも長期的に展示される予定です。

ニューヨーク、ゆらりアップステートへの旅のススメ

ジャクリーン・ハンフリーズによる新作のインスタレーションは、2020年5月17日(日)まで
Jacqueline Humphries, installation view, the Dan Flavin Art Institute, Bridgehampton, New York. © Jacqueline Humphries. Photo: Jason Mandella, courtesy Dia Art Foundation, New York

展示スペースのほか館内には、自家製サンドイッチやサラダ、スープなどを提供するカフェ「ホームスパン・ディア:ビーコン」や、アーティストのモノグラフや展示カタログ、建築・デザイン・ライティングの書籍、定期刊行物など、「ディア・パブリケーション」による出版物を展開する書店も併設。

ニューヨーク、ゆらりアップステートへの旅のススメ

立地はハドソン川に面した丘の上。すべての作品を見て周るのに、駆け足で半日、通常1日かかる。写真 = Bill Jacobson Studio

初めてアップステートへ行くならぜひ立ち寄ってもらいたいというより、この美術館のためにアップステートへ足を運んでもらいたいといっても過言ではないほど、「ディア:ビーコン」は訪れた誰もが好きになってしまう特別なところ。

人々を魅了するアップステートは、都会にいると忘れがちな“豊かさ”をそっと気づかせてくれる場所なのです。

ディア:ビーコン
https://www.diaart.org

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