秋の夜長に心地よい明かりを、京都のビンテージ照明専門店「Aruse」

食卓の上に、ソファのかたわらに、ベッドサイドに。ぽっと明かりが灯(とも)るだけで、空間が味わい深くなる。そんなビンテージ照明の専門店が、京都の住宅街の一角にあります。日が暮れるのが早くなる秋の入り口、部屋で過ごす時間が豊かに感じられる照明を探しに、「Aruse(アルセ)」の扉をたたきました。
古いものが持つ素材のゆらぎや味わいに惹かれて

窓の向こうの柔らかな光に見入る。店名のロゴデザインは店主の有瀬肇(はじめ)さんの弟であり、イラストレーターの有瀬龍介さんが手がけた
和洋を問わず、時代を問わず、店主のセンスが光る古道具店は、京都の個人店の奥深さを物語るものの一つ。「Aruse」もその例外ではなく、頭上から足元までさまざまな意匠の照明に囲まれた小さな空間に足を踏み入れると、発明家の部屋をのぞき見るようなワクワク感に胸が高鳴ります。

日本や欧米のビンテージ照明、パーツや古道具が並ぶ店内
「照明って、それ一つで部屋全体の雰囲気を劇的に変えることができるもの。日本では天井照明やLEDが主流ですが、一室多灯で、さまざまな方向から照明を取り入れることを楽しんでもらえたら」

ゆらぎのあるガラスを通して見る光は穏やかでぬくもりがある
そう話すのは、店主の有瀬肇(あるせ はじめ)さん。インテリアショップで働くうちにビンテージ照明の魅力にとりつかれ、電気工事士の資格を取り、自身で配線やメンテナンスも行うように。2018年5月、京都・鞍馬口の住宅街の一角に、この店をオープンしました。

ガラス容器や「プジョー」のコーヒーミルなど、古道具もところどころに
照明の出自は、日本の古いものやヨーロッパのアトリエランプ、アメリカの工業用製品などさまざま。シェードや装飾に凝ったものよりも、武骨で簡素なデザインのものが目立ちます。照明のスタイルも、天井からつり下げるペンダント型はもちろん、スタンド型や壁に取り付けるブラケット型など多彩。壁に映る陰影や足元を照らすほのかな明るさなど、光と影の豊かな表情にすみずみまで見入ってしまいます。
暖かくて柔らかい、灯火のような光を集めて暮らす

店主の有瀬さん。コードの長さや色、パーツの交換などの相談にも応じてもらえる
「装飾品としての照明ではなく、あくまで道具として作られた、用に徹する形に惹(ひ)かれます。例えばこれは“トラブルランプ”と呼ばれる、ガレージなどでの作業用に使われるランプ。持ち運びできるハンドルと、作業場所に引っ掛けられるフックが付いているんです」と有瀬さん。

内部の構造が見える木箱のスイッチはなんとブレーカー
プラスチックなどのマテリアルが普及していなかった時代、照明のパーツは木製、金属、ガラスがほとんど。経年変化で出るサビや変色、古いガラスならではの気泡やゆらぎにも、現行品にはない味わいがあります。

陶器のソケットや真鍮(しんちゅう)製のスイッチなどもそろう
また、本来ランプシェードではない道具やパーツを、シェードのない照明や裸電球と組み合わせてリメイクするのも有瀬さんの仕事の一つ。漏斗(ろうと)や空き瓶、アルコールランプのガラス部分など、たたずまいの美しい古物を見つけて照明の形にぴたりと合わせられると、新たな命を吹き込んだような喜びがあるといいます。

鉄製のスタンド照明にガラスのドームを組み合わせて
「現代の住宅は“明るいこと=豊かさの象徴”のようなイメージがあるように思いますが、もっと光と影を味わう住まいがあっていいと思うんです。LEDに比べると、白熱灯は暗いかもしれないけど暖かさや柔らかさがある。一つひとつは小さな光でも、組み合わせることでグッと空間に表情が生まれます」

鞍馬口のカフェ「Social Kitchen」に隣接する建物。営業は木~土曜の週3日
夕食の時間や眠る前、暖かく優しい灯(ひ)の下で、会話をしたり本を読んだりする。住まいを明るく照らす光や鮮明な液晶の光がある一方で、心を落ち着かせてくれるのはそんな、灯火のような光なのかもしれません。まずは小さな一灯から、暮らしを変える照明を取り入れてみてはいかがでしょう。
BOOK
バックナンバー
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- 暮らしに寄り添う本も、人生を変える本も。京都「マヤルカ古書店」
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- 素朴でなつかしい和菓子のある日の幸せを。京都「おやつaoi」