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いしわたり淳治×高橋久美子 作詞家2人のターニングポイント「J-POPの正体がわかってきたとき」「失敗も味わえないよ」

様々な世界で活躍する男女2人よる対談連載「クロストーク」。
作詞家で音楽プロデューサーのいしわたり淳治さんと、作家であり、作詞家、元チャットモンチーのドラマー高橋久美子さんの初対談。

いしわたりさんは、音楽プロデューサーとしてスリーピースロックバンド「チャットモンチー」にデビュー当時から携わり、高橋さんはチャットモンチーのメンバーという間柄。

今回、久しぶりに再会したお2人に、自身の作詞術、制作の裏側や、知られざる作詞家としてのターニングポイントを語り合っていただきました。

対談は&Mと&wに分けて掲載しています。&Mの記事もぜひご覧ください!

PROFILE

いしわたり淳治×高橋久美子 作詞家2人のターニングポイント「J-POPの正体がわかってきたとき」「失敗も味わえないよ」
高橋久美子

たかはし・くみこ
1982年、愛媛県生まれ。2005年チャットモンチーのドラマーとしてデビュー。「シャングリラ」「風吹けば恋」他多くの歌詞も担当。脱退後2012年より作家、作詞家として活動。原田知世、大原櫻子ら様々なアーティストに歌詞提供する。著書にエッセイ集「いっぴき」、絵本「赤い金魚と赤いとうがらし」など。翻訳絵本「おかあさんはね」で、ようちえん絵本大賞受賞。12月に新しく詩画集を出版予定。

いしわたり淳治×高橋久美子 作詞家2人のターニングポイント「J-POPの正体がわかってきたとき」「失敗も味わえないよ」
いしわたり淳治

いしわたり・じゅんじ
1997年、ロックバンドSUPERCARのメンバーとしてデビュー。2005年、バンド解散後は、作詞家としてSuperfly、SMAPなどに歌詞を提供するほか、チャットモンチー、9mm Parabellum Bullet、GLIM SPANKYなどをプロデュース。さまざまな音楽ジャンルを横断しながら通算600曲以上の楽曲を手掛ける。&Mでは言葉批評コラム「いしわたり淳治のWORD HUNT」を連載中。

仕事の時間へのスイッチ

いしわたり淳治(以下、いしわたり) 作詞家って、精神力との戦いだよね。久美子はいつも、どんな風に書いてるの?

高橋久美子(以下、高橋) そうですね。私は半日くらいダラダラします。座って考えるよりも、いろいろ家事をしたり、外をうろうろ歩いたりして。

いしわたり 外ではメロディーを聴いているの? それとも頭で覚えて口ずさんだりする?

高橋 いや、覚えてもないです。家の中から一回出て頭をニュートラルにするんですよ。それでぼーっと歩いたりしていたら「ハッ!」ってなる。そこから部屋にこもって書いています。

いしわたり 書いていて、ゾーン(集中状態)に入っている感覚になることはある? スラスラ書ける瞬間というか。

高橋 ああ、ある。あります。

いしわたり あるよね。淀(よど)みなくいく瞬間。ゾーンに入ると3時間くらいで書ける。俺、週に5日くらいはゾーンに入ってる(笑)。

高橋 そんなに!? めちゃめちゃ多いじゃないですか。

いしわたり淳治×高橋久美子 作詞家2人のターニングポイント「J-POPの正体がわかってきたとき」「失敗も味わえないよ」

いしわたり 朝起きて、「ああ、何書こうかなあ」って思いながら飯を食ってダラダラして、コーヒーを淹(い)れて。で、「じゃあ、まあ、やるか」と思って仕事部屋に入る。コーヒーを机の上に置いて、いざ書き始めたら一口も飲まないまま3時間経ってて、冷え切ったコーヒーを手に持って書き終わって出てくる、みたいな。

高橋 ええ!? すごいなあ。

いしわたり 自分でもよくわからないけど、集中力だけはすごいんだよね。

高橋 それはいつも何時くらいからですか?

いしわたり 朝の9時半か10時くらいからかな。子供の幼稚園が終わるまでに仕上げるのが理想。家にやかましい仮面ライダーが出没するからね(笑)。

高橋 そこまでに終わらせるんやね。

いしわたり そうそう。1曲を実際に書くのはだいたい3時間くらい。

高橋 時間が限られていると思うと、余計にできるんかもしれないですね。

いしわたり 逆に締め切りが長ければ長いほど、何回も書き直してしんどかったりもするしね。

高橋 あと、ずっと考え続けてる時って、たいていダメな時なんですよ。それ以外の、たとえば料理したりしている時の方が頭がクリアになるんです。私も、実際に椅子に座っているのは4時間くらいかも。

いしわたり でしょ? 料理、俺もよく作るよ。料理がうまくできる時って、仕事もうまくできるんだよね。料理がうまくいかない時は、仕事もうまくいかない。

高橋 本当に。整理整頓も。だから、ちょっとぐしゃぐしゃになってきたと思ったら、あえて「泊まりにきて」って友達を家に呼ぶんです。

いしわたり そうしたら掃除しなきゃいけない。

高橋 そう。ピカピカにするでしょ? で、友達に振る舞うから料理もするでしょ? お客さん用のお布団も干すから部屋の換気にもなる。すると仕事がスムーズにできるんです。

いしわたり 部屋がすっきりすると頭もすっきりする。合理的だね。

いしわたり淳治×高橋久美子 作詞家2人のターニングポイント「J-POPの正体がわかってきたとき」「失敗も味わえないよ」

高橋 あと、ウチは庭を畑にしていろんな野菜を育てているんですけれど、私の場合はそれも大きいです。季節感を知ることができるし、命の巡りにも気付く。そういうものが歌詞に生かされてると思うんです。私、土を触るのが性に合っているんですよね。米ぬかと混ぜたり、コンポストで生ごみを循環させたりして。日々の生活の中に、作詞があるんですね。

いしわたり すごいね。しっかりやっているね。特に作詞の仕事をする時って机の前にしかいないから、身体全部を使うことがないしね。

高橋 やから余計にそういうことをやりたくなるのかもしれん。ドラムから離れて、なおさらそうなっているんだなって思います。

自分のスタイルを持つこと

いしわたり 今はドラムを叩(たた)いてないの? 絶対にやった方がいいよ。久美子は俺が今まで会ったドラマーの中で、トップレベルによかったよ。

高橋 いやいや、そんなことはないでしょう。

いしわたり いや、本当にいいから。セオリーを無視してあそこまで自由に叩けるのって、本当にすごいと思う。

高橋 あらまあ、ありがとうございます。そういえば、こないだ高校の吹奏楽部のOBの演奏会で久々に叩きました。

いしわたり 楽しかった?

高橋 めっちゃ楽しかったです。

いしわたり でしょう? 絶対やった方がいいよ。

高橋 そうかも。バンドじゃなくてもドラム叩けますもんね。あと、最近、人形浄瑠璃と一緒に叩いてます。

いしわたり 人形浄瑠璃? どういうこと!?

高橋 創作人形浄瑠璃の脚本を書いたんです。「老人と宇宙少年」っていう演目とか。阿波の人形浄瑠璃って、伝統芸能なんですが、それを現代的にアレンジした物語を書いて、さらに私は朗読もする。それで人形遣いさん達や音楽家と農村舞台をまわるツアーをやったんです。その時にドラムセットを借りて朗読しながらたたいたんですけど、それもすごく面白かった。

いしわたり それこそフリースタイルじゃない? すごいな。

高橋 あと、詩の朗読のときも楽器使ってて。最初はもうドラムを叩くことも、楽器を触ることもないかなって思ってましたけど、朗読を始めたら、やっぱり何か叩きたくなったんですよね。それで今は鉄琴や打楽器を自由に叩きながら朗読しているんです。

いしわたり淳治×高橋久美子 作詞家2人のターニングポイント「J-POPの正体がわかってきたとき」「失敗も味わえないよ」

いしわたり 朗読会では何を読んでるの? 絵本? 自分で書いたもの?

高橋 自分で書いたものも、絵本も読むし宮沢賢治さんや谷川俊太郎さんの詩も朗読します。ミュージシャンと朗読✕音楽でセッションするようにもなり、でももっと音ほしくなって、ついにシェーカーとか鈴とか簡単な打楽器をお客さんに配るようになった。最初はみんな「どこで叩いたらいいんですか?」って訊くから「私の朗読を聞いて、感情がワッ!てなった時に鳴らしていいんだよ」って言って。みんな慣れてないからドキドキしているんだけど、やり始めたらだんだん楽しくなってくる。もっと自分を解放していいんだってなるんです。そうしたら、終わった後に「なんて楽しい世界なんだ!」って言って帰ってくれる。新感覚で楽しいですよ。

それぞれのターニングポイント

いしわたり いやあ、それは本当にすごい。今って足し算の時代じゃないですか。0から1の新しいというのがほとんど残っていない時代で、何かと何かを組み合わせて新しいものを見せていく。その一つの最先端だなって思いました。今の時代って、何かの分野で一番になるのは難しいじゃないですか。

高橋 たしかにそうですよね。

いしわたり それに、価値観が多様化しているから、たとえ一番になったとしても一番になった実感がない時代になっている。だから、金メダルを1個よりも銅メダルを3個ぐらい持っていると「これとこれとこれをできる人はこの人しかいない」というスペシャリストになれる。そういうところで、文章も書くし、作詞もするし、朗読もするし、人形浄瑠璃もするし、ドラムも叩けるという。それでワン・アンド・オンリーになってる。

高橋 淳治さんもそうですよね。いろんなメダルを持ってる。

いしわたり 自分の場合は、作詞もするし、プロデュースもするし、そんなところかな。あとは喋(しゃべ)ったり、文章を書いたりするのもあると思うけど。

高橋 淳治さんの場合は、バンドもプロデュースも作詞も全部つながっていますよね。私たちにとっては、バンド側の気持ちがちゃんとわかるプロデューサーとして一緒に戦ってくれた感じがするので。

いしわたり たしかに、特にチャットモンチーの時は一緒に戦った感じがするね。僕も初めてだったし、ここで結果出さなきゃ次がないって思ってたから。あれもひとつのターニングポイントだったけど、その後にもいろんなターニングポイントがあったな。

高橋 どんな時があったんですか?

いしわたり 大きかったのは、だんだんJ-POPの正体がわかってくるようになった時。それまで作詞家としてなかなか結果が出なくて、「自分はJ-POPというものを書けるんだろうか?」って疑問を持つようになっていて。どこか心の中で毛嫌いしているんじゃないかって。でも、ある時、化粧品関係のCMの曲を書いた時に「こんな感じかな」と思って投げたものがことごとくダメ出しされて返ってきた。10回や20回のレベルで直させられた。もちろんそのたびに腹は立っていたし「なんで!?」って思っていたけれど、そこまで追い込まれると、ちょっと見える景色が変わってきた。

いしわたり淳治×高橋久美子 作詞家2人のターニングポイント「J-POPの正体がわかってきたとき」「失敗も味わえないよ」

高橋 そこまでやり直しをさせられることって、めったにないですもんね。めげずにずっと応え続けるのもすごい。

いしわたり で、その後に東日本大震災があったんです。震災後の半年間くらいって、エンターテインメントの仕事が止まったんだよね。だから、その時に昔の歌謡曲から今のJ-POPまでをじっくり聴いた。作り手じゃなく純粋な聴き手として音楽に向き合ったのは、それこそ高校生以来のことで。そうしたら、どんどん自分の考えが変わっていくのが自分でわかった。振り返ったら、この期間が一番のターニングポイントだった。

高橋 淳治さんはそれでどう変わったんですか?

いしわたり 震災のナイーブな時期だったせいかもしれないけれど、「世の中にとっていい曲がいいな」って思ったんだよね。「いい世の中になるように音楽をやりたい」と思った。自分が有名になりたいというよりも、曲が誰かの生活のBGMとして機能してくれて、その人の暮らしがちょっと楽しくなってくれればうれしい。「今この世の中で鳴っていて欲しい音楽」みたいな感覚で考えるようになった。もしかしたら、それが自分にとってのJ-POP感なのかも。

高橋 なるほど。たしかにJ-POPの役割って、そういうものですね。

いしわたり たとえば、殺伐としたエッジの効いた表現もあるけど、そういうものってヘッドホンでしか聴けないから。そうじゃなくて、リビングルームで家族で聴けるもの、世代を超えて聴けるものがJ-POPなんじゃないかなって。

高橋 そこに行きついたんですね。

いしわたり 久美子はどう?

いしわたり淳治×高橋久美子 作詞家2人のターニングポイント「J-POPの正体がわかってきたとき」「失敗も味わえないよ」

高橋 もちろんチャットモンチーを脱退してひとりになったタイミングもそうですけど、私もターニングポイントはありますね。2013年に、音楽家の高木正勝さんと「読書のフェス」で一緒になったことがあったんです。私は高木正勝さんのピアノと自分の朗読でセッションをしてみたかったんですけれど、事前に連絡がつかなかったから結局セッションをしない予定になっていて。そうしたら、本番でお会いした高木さんが「高橋さん、やってみる?」っていきなり言ってきたんです。「いえ、練習もしていないし、無理だと思います」って言ったら「でも、やらないと失敗も味わえないよ」って言われて。その言葉に感動して、「わかりました」って言って、全部アドリブでやったんです。

いしわたり それで、何かの扉が開いた感じがあった?

高橋 そうですね。最初はぐしゃぐしゃだったんですけど、ステージの上でお互いにイメージを共有しあっていくと、だんだんハマっていった。そうして、最後には高木さんが歌いだしたんですよ。「君も歌って」って言われて「え? 私も歌うの?」って心臓バクバクでしたけど、私も歌い始めた。きっと、あの時に断っていたら今の自分とは全然違う自分だったんだろうなって思います。「失敗も味わえないよ」っていう言葉がものすごく印象的で。だから、そこがターニングポイントです。

いしわたり そこから考え方が変わったりした?

高橋 いろんなことが、寛大になったというか、広くなったと思います。今までは「音楽はギターとベースとドラムで、こういう風に成り立っている」とか「歌詞はこういうもの」みたいな固定観念にとらわれていたのが、ほどけていったというか。解放していけた。でも怖くないんだなと。ちゃんと思ったことや考えたことを相手とコミュニケーションとりながら生きていくことができていれば、変化してもまっすぐ歩いていけるような気がしたんですよね。それは、作詞とか音楽だけじゃなく、全部のことにつながっているような気がします。

(構成/柴 那典 撮影/江森康之)

いしわたり淳治×高橋久美子 作詞家2人のターニングポイント「J-POPの正体がわかってきたとき」「失敗も味わえないよ」
いしわたり淳治×高橋久美子 作詞家2人のターニングポイント「J-POPの正体がわかってきたとき」「失敗も味わえないよ」

「カッコよさ」と聞いて2人が思い浮かべることとは――。対談ではお互いが考える「カッコよさ」と仕事へのこだわりをじっくりと語り合います。

インフォメーション

〈高橋久美子さん 新刊情報〉
12月中旬に詩画集「今夜 凶暴だから わたし(仮)」をちいさいミシマ社から出版予定。
詩:高橋久美子 絵・紙版画:濱愛子 価格は未定
様々な女性の視点から書かれた高橋さんの鋭い言葉と、個性的な風合いを持つ濱さんの紙版画が寄り添い呼吸する。今を生きる全てのあなたへ。

〈高橋久美子さん イベント情報〉
11/2「朝活!高橋久美子の作詞教室」
11/4 食と農業のイベント「東京米友達」
11/8 Kaco✕高橋久美子の「音楽✕朗読ライブ、アイノメ」

その他イベント情報は公式HPをご覧ください。
・公式HPはこちら
・公式Twitterはこちら

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