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いしわたり淳治×高橋久美子 「もっと下手に歌ったほうがカッコいいのに……」作詞家2人の苦悩と美学

「わぁー! 淳治さん!」「うわー、久美子だ(笑)」。

久しぶりの再開で上がる感嘆の声。いしわたり淳治さんと高橋久美子さんは、昨年解散したロックバンド「チャットモンチー」の初期プロデューサーと、ドラマーという間柄。現在はそれぞれの道を歩み、いしわたりさんは作詞家のトップランナーに、高橋さんは作家、作詞家、ラジオDJなど多岐にわたって活躍しています。

今回はおふたりに、チャットモンチーのデビュー当時の話や、それぞれの創作方法、「カッコいい」と思うこと、表現者として大切にしている姿勢などを語っていただきました。盛りだくさんの内容を&Mと&wに分けて掲載しています。&wの記事もぜひご覧ください。

◆プロフィール

いしわたり淳治
1997年、ロックバンドSUPERCARのメンバーとしてデビュー。2005年、バンド解散後は、作詞家としてSuperfly、SMAPなどに歌詞を提供するほか、チャットモンチー、9mm Parabellum Bullet、GLIM SPANKYなどをプロデュース。さまざまな音楽ジャンルを横断しながら通算600曲以上の楽曲を手掛ける。&Mでは言葉批評コラム「いしわたり淳治のWORD HUNT」を連載中。


高橋久美子
1982年、愛媛県生まれ。2005年チャットモンチーのドラマーとしてデビュー。「シャングリラ」「風吹けば恋」他多くの歌詞も担当。2012年より作家、作詞家として活動。原田知世、大原櫻子ら様々なアーティストに歌詞提供する。著書にエッセイ集「いっぴき」、絵本「赤い金魚と赤いとうがらし」など。翻訳絵本「おかあさんはね」で、ようちえん絵本大賞受賞。12月に新しく詩画集を出版予定。

ゼロからバンドを始める3人と同じ目線で夢を見ようと思った

いしわたり淳治×高橋久美子

いしわたり 今、何歳になったの?

高橋 37です。

いしわたり 37になったの!? すごいなあ、最初に出会ったのは大学の部室だったのに。

高橋 だいぶ前ですよね。懐かしい。淳治さんは?

いしわたり 42歳。出会ったのは2005年だから、もう14年前だ。前にやっていたSUPERCARというバンドが解散して、チャットモンチーのプロデュースをすることになって、そこで初めて会った。

高橋 あの頃はいろんなことが楽しかったですね。まず、淳治さんとかレコード会社の社長とか、いろんな人が鳴教(鳴門教育大学)の軽音楽部の部室におる違和感がすごかった(笑)。徳島の喫茶店で話すとかやったらわかるけど、部室におるから。ドキドキしながらやってました。でも、淳治さんもプロデュース業は初めてやったんですよね。

いしわたり そうだね。最初は何をしていいかわかんなくって、大変でした。

高橋 プロデューサーって、今までやっていたことと地続きだけど、そこに先生的な要素が加わるわけじゃないですか。それは、今思うと、すごいことだなって。

いしわたり あの頃はなるべくバンドのメンバーと同じ目線で夢を見ようと意識してた。自分が見てきた景色を、もう一度ゼロからの人たちと一緒に見ようとするわけだから。「知ってるよ」みたいな感じは絶対ナシだなって思ってた。そうしないと、夢を見ている人に失礼かなって。

高橋 一緒にもがいていた感じはかなりありましたね。

いしわたり 必死だったよね。まだ駆け出しの頃に3人が「Mステに出たい」って言ってたのを覚えてる? 神社の鳥居に向かって石を投げて、上に乗っかったら叶(かな)う、みたいなおまじないがあって。

高橋 そうや、うちの実家の山の神社でやりましたね。

いしわたり それを聞いて、新鮮だなって思ったんです。Mステ出演は自分のバンドではできなかったことだし、新しい夢としてとらえられたんだよね。

高橋 淳治さんって当時からすごい人でしたよ。今、作詞家を始めて、若い女の子たちと一緒に仕事するようになって、改めてそう思います。特にありがたかったのは、淳治さんが手あかが残るもの、“土臭いもの”を好んでくれたこと。

いしわたり淳治×高橋久美子

いしわたり 当時、ガールズバンドって大人が集めて作ったようなものが多かったんです。でも、チャットモンチーは部室で靴下をはいて演奏しているような仲良し3人組が普通に音楽をやってるところに価値があった。そういうバンドのはしりだった。だから、アレンジャーを入れたり、きれいなお洋服を着せたりせず、なるべく3人の音楽がそのまま世の中に紹介されることを目指したんですね。手作り感みたいなところをすごく意識して残した。

高橋 そこを削られるんじゃないかという不安が、最初は私たちのほうにもあったんです。でも、そうじゃなかった。私たちの思いをスタッフみんなが受け止めてくれる姿勢がありました。

作詞家は基本的に“自称”の仕事

いしわたり 今はお互い作詞家をやっているけれど、会ったことのある作詞家って、他にいる?

高橋 岩里裕穂さんとは何度かお会いしたりトークセッションにも呼んでいただいたりしました。他の方とはそこまで深い関わりはないかも。作詞家同士が会う機会がまずないですもんね。

いしわたり 現場が一緒にならないからね。ライブ会場で一緒になったりするのかもしれないけれど。

高橋 でも、誰も名乗らんし(笑)。

いしわたり 作詞家って、ライセンスがないからね。なろうと思ってなるものじゃない。

高橋 私も作詞家になろうと思って作詞を始めたわけじゃなくて。依頼が来て、それで始めたので。

いしわたり そうだよね。身分証もないから、何かがあって職務質問されたときは「自称作詞家」になっちゃう(笑)。

いしわたり淳治×高橋久美子

高橋 ちょっと怖い気持ちになる時ありますもん。1年後、2年後に自分がどうなってるかなんて、考えられない。

いしわたり 不思議な世界だよね。2週間先の予定が平気で真っ白だったりするから。そんなことをずっと繰り返してる。だから、とにかく場数を踏むしかない。

高橋 そこは昔も今も全然変わっていないですね。

いしわたり 歌詞を書いた曲を歌入れする時って、レコーディングに立ち会う?

高橋 立ち会いたいなって思うときは立ち会います。

いしわたり 立ち会いたい時と、そうじゃない時の差は?

高橋 なんだろう……歌が入ったときに自分が思ってたのとニュアンスが違うと感じる時があるんです。「もうちょっとこうやって歌ってもらったらよかったな」とか。この言葉、そんなに伸ばさなくてもよかったかも、とか。そういうのがあって、立ち会うときもでてきました。

いしわたり わかるわかる。頭の中で鳴ってる音と、ちょっと違うんだよね。

高橋 そうそう。きれいに歌いすぎとるな、もうちょっと雑に歌ってもらえてたらとか、もっと下手くそに歌ったほうがカッコよかったのでは、とか思うことがあって。言葉って捉え方でニュアンス変わってきますもんね。でも、何度も聴いていたらこれもいいなあって馴染(なじ)んでくるんですけどね(笑)。

いしわたり 下手なほうがカッコいいって時も、あるもんね。カッコいいってなんだろうって考え出すと、カッコつけるのが一番カッコ悪いことなんじゃないかっていう気もしてきたりして。

高橋 あ、それ私も同じこと思ってます。カッコ悪いとされていることを正々堂々とできるほうがカッコいいと思う。

いしわたり そもそも「あの人カッコつけてるよね」って悪口でしかないもんね。つまり、カッコつけるのがカッコ悪いっていうことは、みんな気付いてる。だけどやっちゃう。

高橋 カッコつけるのって、誰かのまねをしてカッコいいふりをしていることだという気がします。

いしわたり 身の丈より大きく見せようっていうことだよね。本当の自分を小さく見積もっているから、そのまんまじゃ恥ずかしい。だから借り物の自分で着膨れしてる。

高橋 たとえば、自分の知らないことをちゃんと「知らない」と言えるのって、カッコいいですよね。年を重ねるほど「知らない」とか「わからない」って言いづらくなっていくじゃないですか。でも、学びたいっていう意欲が強かったら気にせず言える。近所に、そういう人がいるんです。「僕は知らないこと勉強したいんだ」って素直に言って何でも質問してくれる。その姿勢がすごくカッコいいなあと。

いしわたり へえー、その人はどんな人なの?

高橋 50代のご近所の友達です。ウチはお庭でいろんな野菜を育てたりしているんですけど、私、愛媛で農業をやっているからまあまあ詳しいんです。だからシソとかブドウの苗を株分けして、育て方を教えてあげる。そうしたら、次に会う時には、ちゃんと報告してくれる。他にもいろんなことに興味を持って知ろうとしてて。

高橋久美子さん

いしわたり いい関係だね。他にもいろいろ教えたの?

高橋 その人はワインについても「僕、全然わからんから教えて」って最初は言うてたんです。それで、一緒に家で飲んで、次に会う時に「おいしかったから同じようなものを買ってみた」とか言ってくれる。特にその年代の男の人って、ワインのことわからないとかなかなか言いづらかったりするんじゃないかなって。でも、その人は新しく知る喜びの方が大きいんですね。夫とも「年を重ねてもああなりたいね」って話してます。

いしわたり 「できるようになったよ」って言っているさまがカッコいいよね。たとえば、久しぶりに実家に帰ったときに家族に「タップダンス始めたんだよ」とか言われたら、ちょっとうれしかったりするかもしれない。そういうサプライズ、味わったことないな。

高橋 それはめちゃめちゃカッコいいと思う。そういえば、こないだ徳島の山間部で講演と朗読会をしたんですよ。そうしたら、おじいちゃんおばあちゃんが200人くらい来てくれたんです。それで、みんなに楽器を配って「朗読を聞きながら、好きなところで鳴らしてください」ってお願いしたんやけど、最初はみんなやったことないから戸惑ってて。

いしわたり それは誰もやったことないよ。朗読を聞きながら楽器を鳴らすって、初めて聞いた。

いしわたり淳治×高橋久美子

高橋 でも、みんな、学びたい楽しみたいって気持ちのある方で。最初は「どうしよう」って思いましたが、一生懸命に話したら、だんだん、みんなシェーカーとかを自由に鳴らしはじめて。その中で朗読すると、すごく面白くて。だんだん盛り上がってくるんです。最後にはおじいちゃんおばあちゃんも「めっちゃ面白かった! こんな会、初めてや!」って言ってくれた。年配の方がそんな風に新しいことを受け入れて感動している姿は、すごくカッコよかったな。

いしわたり なるほどね。人ってさ、一つでも自分が何か成し遂げたという実感があれば、他のこともすんなり人に聞けたりするよね。

高橋 ああ、それは間違いないですね。

いしわたり そういう揺るぎない自信があればいいけど、そういうものが何もない人は不安になってカッコつけちゃうのかもしれない。だから何か一つ見つけることが大事だよね。

高橋 そうだと思う。でも、自信を持つのって、なかなかできないことじゃないですか。この年になってイチから何かを極めるっていうのも難しい。

いしわたり でもさ、他者から見て成功していようがいまいがどっちでもよくて。自分の中で「これを極めたんだ」っていう自信が持てればそれでいいわけだから。何かを始めるのに遅いっていうことはないと思うよ。

高橋 たしかにそうですよね。自分が自分を認めてあげること。

いしわたり やっぱり、ほとんどの人は絶対価値じゃなく相対価値で自分を見ちゃうから。そうだと自信を持ちにくいだけだと思うんだよね。

高橋 たしかにそうだなあ。他は全部ダメでも、何か一つ自信を持てばいい。それは私も思います。

(構成/柴那典 撮影/江森康之)

◆◇◆

▼二人のお話の続きは&wで公開中! 
いしわたり淳治×高橋久美子 作詞家2人のターニングポイント「J-POPの正体がわかってきたとき」「失敗も味わえないよ」

〈高橋久美子さん 新刊情報〉

12月中旬に詩画集「今夜 凶暴だから わたし(仮)」をちいさいミシマ社から出版予定。
詩:高橋久美子 絵・紙版画:濱愛子 価格は未定
様々な女性の視点から書かれた高橋さんの鋭い言葉と、個性的な風合いを持つ濱さんの紙版画が寄り添い呼吸する。今を生きる全てのあなたへ。

〈高橋久美子さん イベント情報〉

11/2「朝活!高橋久美子の作詞教室」
11/4 食と農業のイベント「東京米友達」
11/8 Kaco✕高橋久美子の「音楽✕朗読ライブ、アイノメ」

その他イベント情報は公式HPをご覧ください。
・公式HPはこちら
・公式Twitterはこちら

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