名付け親はベッケンバウアー。コーヒーもサッカーもチーム編成が要 「パッパニーニョ」

葉山町一色のカフェ「パッパニーニョ」は、閑静な住宅街に溶け込むように存在している。
店主の二宮寛さん(82)のこだわりは、世界中から選りすぐったコーヒー豆にある。原産地を見ると、イエメン、キューバのほかにブラジル、コロンビア……と、サッカー強豪国の名前も。そこから、かつてサッカーの日本代表選手、そして監督を務めた二宮さんの経歴がほの見える。
そもそも店名の「パッパニーニョ」の名付け親は、サッカー界で”皇帝”と呼ばれたドイツのフランツ・ベッケンバウアー。パッパニーニョの意味は、「お父さんといたずらっ子」というが、それはまさにベッケンバウアーによる二宮さん評なのだろう。店内の写真立てには、二宮さんの師匠でドイツサッカーの基盤を築いたヘネス・バイスバイラー、サッカー界の”王様”ペレ、当代のスター、クリスティアーノ・ロナウドらとともに、岡田武史氏、西野朗氏らサッカー日本代表を率いた歴代監督らの姿がある。いずれも二宮さんが選手、監督時代に親交を結んだスターたちで、コーヒー好きだけでなく、サッカーファンにもたまらない場所になっている。
店の代名詞となっているコーヒー「パッパニーニョ」は、先に挙げたサッカー強豪国の産地のブレンド。ベッケンバウアーにちなんだ「カイザー」は、パプアニューギニア、タンザニア、インドネシア、ブラジルのブレンドで、いずれも原産国の最高級のコーヒー豆を選び、いいところを最大限に引き出して、それぞれの欠点を補充した組み合わせになっている。
「今、世の中ではシングルオリジンのコーヒーも人気ですが、ブレンドは組み合わせが無限大だからこそ、どこかで強い決断が必要になります。その意味で、作り手の力量が非常に問われるものなんですね。それぞれの個性を強調しながら、全体をレベル高く調和させる点で、サッカーとコーヒー事業は、関係が大ありです。今も昔も、チーム編成と同じことを僕はしているんです」
繊細さ、大胆さを発揮しながら二宮さんが淹れてくれるコーヒーは、店で出す食事にもよく合う。そのラインナップは、5人の女性スタッフが工夫を重ねてつくるもので、奇をてらわず、オーソドックスでありながら、質・量ともに十分な満足を与えてくれる。
たとえば午前10時から午後1時までのブランチは、トーストに目玉焼き、ハム・ソーセージ、卵料理、スープ、プチデザートを添えたヨーロッパ風。食材は葉山をはじめ三浦半島や神奈川県のおいしい地場産。食前に味の濃い牛乳が脚付きのグラスで供されるところが何とも優雅だ。
コーヒーゼリーやココアフラッペ、ムースなど、パッパニーニョならではのデザートも、エレガントな器に入っていて、店側の余裕に心がほどけていく。
19年前、四半世紀にわたる企業のヨーロッパ駐在の任を終え、ビジネスマンとしての第一線を退いた時、サッカー界からは名誉職の声がけをさまざまにもらったという。しかし、二宮さんはそれらを受けることはなかった。
「人間にとっていちばん難しいことは、ポジションを後進に明け渡すこと。過去の実績にとどまればとどまるほど、全体の進歩をさまたげることになります。退いたら後は、爽やかな風を吹かせていかないと」
パッパニーニョでコーヒーを頼むと、二宮さんがガラガラとワゴンを引いてテーブルにやってくる。ワゴンの上のセットには、たっぷりとした量のコーヒー豆。1杯のおいしさを最大限に抽出するために、お湯は中心部だけに注ぎ、じゅうぶんに蒸らして灰汁(あく)が引きあがったら、その時点で惜しげもなくドリッパーをはずす。
その潔さ、もてなしの哲学の先に、豊かな葉山時間が待っている。
葉山珈琲パッパニーニョ
神奈川県三浦郡葉山町一色1940
https://www.instagram.com/hayamapappanino/
>>フォトギャラリーはこちら ※写真をクリックすると、くわしくご覧いただけます。