“焼きたて”を頬張る幸せ。「どらやき亥ノメ」のほかほかどらやき

ふんわりほかほか、“焼きたて”のどらやきを頬張ったことがありますか? 今回訪ねたのは、北野天満宮近くで2018年にオープンした「どらやき亥ノメ(いのめ)」。注文を受けてから焼き上げ、その場であんを挟むできたてほやほやのどらやきには、かぶりついた瞬間、誰しもを笑顔にする魔法があります。
目の前で焼きあがる、すべすべのどらやきに歓声

コックピットのような小さな厨房で、店主の大塚さんが1枚1枚手焼きする
鉄板の上に、たまご色の液がまあるく落とされ、ふんわりとふくらんでいく。店主の大塚英晃さんが頃合いを見てぽん、とひっくり返すと、現れたるはきつね色、すべすべのどらやき生地の肌。カウンターからその様子を眺める人々は思わず「わぁ」と歓声をあげます。

注文が入ってから焼きはじめ、店内は甘く香ばしい匂いでいっぱいに

こんがりと焼けたきつね色がおいしさの印
たっぷりのあんをおなかに詰められ、ほかほかのままお皿にのったどらやきの福々しいこと! まずはひと口、大口を開けてかぶりつけば、小麦と卵の風味がしみじみ伝わる素朴な生地とみずみずしい小豆の優しい甘みに、うっとりと酔いしれてしまいます。食べ進めるにつれお好みで、別添えのバターやクリームチーズ、ラムレーズン、焼き塩と合わせ、味の変化を楽しんで。温かいほうじ茶やコーヒーと一緒にいただけば、心も体も温まります。

「どらやきセット」(880円・税込み)。ドリンクは写真の有機ほうじ煎茶のほか、どらやきに合う風味を厳選したコーヒー、和紅茶、煎茶、抹茶から選べる
「シンプルな材料で、甘さを控えて、噛むほどに生地の風味がじんわりと伝わる、そんなどらやきを作りたかったんです」。そう話す大塚さんは、料亭や和菓子店などで経験を積み、“作りたて”のおいしさを届けることを大切にしてきた料理人であり和菓子職人。独立する前に京都・桂の和菓子の名店「中村軒」に携わった経験が基礎となり、小さな店舗でも作りたてを提供できるどらやきを看板商品に選びました。

ほわほわと湯気を立てる焼きたての生地に、北海道産の小豆をコトコト煮込んだ自慢のあんを挟む
「今は洋菓子の方が日常のおやつで、和菓子の方が非日常的じゃないですか。でもどらやきなら、お茶席や行事に関係なく、子どもからお年寄りまで親しみやすいおやつにしてもらえるかなと思って」と大塚さんは話します。
手みやげには、味わい多彩な個性派どらやき
通りに面した小窓からは、持ち帰り用のどらやきを購入することもできます。店内でいただく焼きたてのどらやきよりもひと回り小ぶりで、片手でパクパクと食べやすいサイズ。定番のあずきをはじめ、黒糖ラムレーズン、くるみ、抹茶、季節替わりで栗やサツマイモなど、個性豊かなあんがそろいます。手みやげとして翌日まで日持ちするようイートイン用とは生地の配合を変えつつも、甘みを最小限に、シンプルな原材料で、無添加で作るという姿勢は変わりません。

カウンターは5席のみの小さな店ながら、北野天満宮を訪れた観光客から地元の人々にまで愛される
「京都は和菓子の文化が根付いているので、『餅や団子は日持ちしないもの』と思ってくれてる感じがします。ご旅行のお客さんのニーズを考えると悩ましいところですが、日持ちしにくいからこそのおいしさや、ササッと和菓子を買って帰る京都の食文化の一部を味わってもらえたら」

持ち帰りは小窓から声をかけて。季節限定の味を楽しみに「あの味まだある?」と店をのぞくリピーターも多い
カウンターでどらやきを待つ間、店いっぱいに漂う甘い香りとほかほかの湯気に、誰もが幸せそうな笑みを浮かべます。その間にも、小窓からは次々と手みやげのどらやきを求める人が声をかけていきます。「厨房(ちゅうぼう)で働いていたころと違って、目の前でおいしそうな笑顔を見られたり、お話する機会があるのが何よりの楽しみです」と大塚さんは言います。

ラムレーズンやクリームチーズなど、新鮮な組み合わせながらあんことの相性の良さをうかがわせる味がそろう(税込み210円〜)
作ってくれた人と、手みやげを届けてくれた人と、なるべく早くその幸せを分け合いたいと思う。“お早めにお召し上がりください”の和菓子をいただくことは、幸せな時間をシェアする合言葉に違いありません。
BOOK
バックナンバー
- 大地の記憶を宿すワインと料理の物語。京都のレストラン「DUPREE」
- 秋の夜長に心地よい明かりを、京都のビンテージ照明専門店「Aruse」
- 焼き菓子をゆっくり味わう時間の提案。新生「歩粉」、京都の歩み
- 暮らしに寄り添う本も、人生を変える本も。京都「マヤルカ古書店」
- 京都の新しいマーケット「平安蚤の市」が自由で多様でおもしろい