京都の紅葉の新名所。天地を錦に染める「瑠璃光院」のリフレクション紅葉

今回は、八瀬方面に向かう叡山電車の終着駅・八瀬比叡山口駅から、徒歩5分ほどの山麓(さんろく)にたたずむ「瑠璃光院(るりこういん)」へ。近年、SNSで話題を集め、瞬く間に京都の紅葉の新名所となったこちらの山寺。その秘密は、書院2階で出合える“ある光景”にありました。(TOP写真=画像提供:瑠璃光院)
鏡写しの“リフレクション紅葉”をひと目見たくて

山荘のような慎ましい山門。囲碁本因坊戦の対戦場となったことでも知られ、2005年より春と秋に一般公開されるようになった(画像提供:瑠璃光院)
錦に染まる高野川沿いの紅葉を眺めながら山道を歩くと、ほどなくして山荘のような趣きの石段と山門が現れます。「瑠璃光院」は、幕末〜明治にかけて活躍した公卿であり政治家、三条実美(さんじょうさねとみ)ゆかりの庵(いおり)で、大正末〜昭和初期にかけて現在の姿に改築された寺。京数寄屋造りの名手と称えられた中村外二が棟梁を務め、八瀬の山々を借景とした庭の作庭は、京都の名庭師・佐野藤右衛門(さのとうえもん)一統が手がけました。

しっとりとぬれた苔(こけ)や水の流れ、池を静かに行き来するニシキゴイなど、一歩足を踏み入れると別世界のような情景に迎えられる(画像提供:瑠璃光院)
山門をくぐって迎えられるすみずみまで美意識の行き届いた庭、俗世を離れ、別世界へと誘われるようなアプローチ、境内と自然が境界なく一体化しているような環境は、どこか茶室を彷彿とさせます。順路にならい書院の2階へ上がると、そこに息をのむような美しい光景が広がります。
窓一面に広がる瑠璃の庭と八瀬の山々の紅葉。書院の窓枠に額縁のように切り取られたその景色は反転し、上下鏡写しに色彩の海を作り出します。このリフレクションこそ、瑠璃光院の人気の秘密。窓の外の景色を映し出しているのは、磨きあげられた黒塗りの写経机。立った状態から少しずつ視点を下げると、ある地点で机の一角と縁側の一角が重なり、鏡映しのように天地が一続きになったような壮麗な光景を描き出します。

欄干や窓枠に縁取られた額縁のような眺めも美しい(画像提供:瑠璃光院)
この夢のような景色をこの目で確かめたい、視界を包み込むような色彩を写真に収めたい、と春と秋のみ公開される特別拝観には、多くの参拝客が詰め掛けます。
秋の深まりごとに表情を変える、八瀬の自然を味わう

書院2階から「瑠璃の庭」を見下ろした風景。苔の緑とカエデの色とのコントラストが鮮やか(画像提供:瑠璃光院)
2階では、受付の際にいただいた「写経セット」で写経の体験をすることができます。写経は初めて、という人でもお手本にならいつつボールペンで書き写すので簡単。書き終えた経文は1階に奉納することができます。また、八瀬の山々を望む窓からの眺望もお忘れなく。赤色、だいだい色、黄色とさまざまな色が交じり合う風景は、リフレクションの紅葉とはまた違った大らかな趣きがあります。

すみずみまで手入れの行き届いた境内で時を過ごすと、心身ともに浄化されるような心持ちに(画像提供:瑠璃光院)
1階に降りると、鏡写しの部屋の真下に位置する一室から「瑠璃の庭」を眺めることができます。“瑠璃色に輝く浄土の世界”を表現したこの庭は、春から初夏にかけてはみずみずしい緑が視界一面を覆いますが、秋は苔の緑と鮮やかに色づいた木々との調和が、美しさを奏でます。磨かれた縁側の床に映る色も、あますことなく味わってみてください。

色づき始めから散りもみじまで、深まる秋ごとの表情を楽しみたい(画像提供:瑠璃光院)
ピーク時には朝から拝観待ちの行列ができるほど、話題を集める瑠璃光院。自然の多様な色彩が混ざりあう色づき始めや、わびさびの美に心打たれる散りもみじも風情があり、少し時期をずらすのも良いでしょう。また、叡山電車に乗って市街地から八瀬の渓谷へと、徐々に車窓の景色が移りゆく旅路も心躍ります。旅する過程や待ち受ける景色を心の糧に、1度は見ておきたい絶景を訪ねてはいかがでしょう。
BOOK
バックナンバー
- “焼きたて”を頬張る幸せ。「どらやき亥ノメ」のほかほかどらやき
- 大地の記憶を宿すワインと料理の物語。京都のレストラン「DUPREE」
- 秋の夜長に心地よい明かりを、京都のビンテージ照明専門店「Aruse」
- 焼き菓子をゆっくり味わう時間の提案。新生「歩粉」、京都の歩み
- 暮らしに寄り添う本も、人生を変える本も。京都「マヤルカ古書店」