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評論家・丸屋九兵衛が愛する“非常識”スニーカー「DADA・スプリーズ」 爆笑と脱帽が同居する一足

今や、スニーカーは私たちの生活に欠かすことの出来ない“生活必需品”。どんな人にも愛着のある一足があり、そこには多くのこだわり、思い出、物語が詰まっているはず。本コラムでは、様々なスニーカー好きたちが「MY KICKS(=私の1足)」をテーマに語り尽くす。

丸屋九兵衛(まるや・きゅうべえ)さん
オタクカルチャーから学術的分野までをカバーし、幅広い知識を誇る「万物評論家」。音楽情報サイト『bmr』の主を務めるかたわら、ヒップホップ、ソウル、ファンクについての著作を多数刊行している。SF通としても知られ、『S-Fマガジン』にてスター・トレックについての連載を持つ。月に一度のペースで都内各所で開催しているトークライブは毎回盛況。

西海岸のラッパーが履いていた謎のスニーカー

2004年に発売されたDADAのバスケットシューズ「SPREES」。実は一風変わったギミックが仕込まれている

2004年に発売されたDADAのバスケットシューズ「SPREES」。実は一風変わったギミックが仕込まれている

ヒップホップを中心に幅広い分野で評論活動を続ける丸屋さんは、幼少期から母親に「人と同じことをするな」と繰り返し言われて育った。その結果、育まれた個性的な美意識はスニーカーのセレクトにも反映され、少年時代からインパクトの強いカラーリングで人気を集めた英国のスニーカーブランド「SPX」やNBA選手のゼイヴィア・マクダニエルのバスケットシューズを作っていた「XANTHUS(ザンザス)」など、“決して主流とは言えないメーカー”のスニーカーを愛用してきたのだとか。そんな丸屋さんの心を現在に至るまで捉えて離さないのが、アメリカのブランド「DADA(ダダ)」のバスケットシューズ「SPREES」だ。そもそも丸屋さんが「DADA」と出会ったのは2000年ごろのことだったという。

「80年代後半から90年代半ばまで人気を集めていた西海岸ヒップホップですが、東海岸との抗争や暴力事件をきっかけに人気が低迷します。しかし99年の秋から冬にかけてドクター・ドレー、スヌープ・ドッグ、ウォーレンGをはじめとする西海岸ヒップホップのアーティストが次々に名盤を発表したことで人気が復活しました。そんな中、ラッパーたちの足元に目を向けると、彼らは見たことのないスニーカーを履いていました。それがDADAでした」(丸屋さん)

DADAのアイテムの中でも癖の強いものをピックアップ

DADAのアイテムの中でも癖の強いものをピックアップ

まずはこの耳慣れないブランドの歴史をたどっていこう。そもそもDADAは1995年、ニューヨーク市クイーンズ区において、アフリカ系青年ドウェイン・ルイスとマイク・チェリーの手でキャップとTシャツのメーカーとして立ち上げられた。その後、1998年に同じくアフリカ系のCEOのラヴェッタ・ウィリスとヘッドデザイナーのランツ・シンプソンによって「DADA FOOTWEAR」がスタート。アメリカに本居を構える大手スニーカーショップ「フットロッカー」で販売がスタートされたことで大ブレークする。東海岸発祥のブランドであるにもかかわらず、西海岸のヒップホップ・シーンで活躍するアフリカ系アーティストに広く受け入れられたのは、同胞であるアフリカ系の若者たちが会社を運営していたこと、そして何よりもヒップホップ・カルチャーを背景としたブランドであることが要因となっているのだろう。

「ナイキやアディダスは、スポーツのためにシューズを作っていますが、DADAは、ニューヨークのストリートウェアブランドとして生まれているため、ヒップホップの要素が中心にあります。私が最初に買った定番モデル『ショットコーラー』などは、名前からして『襲撃を指示する人』つまり『ギャングのボス』です。 普通のブランドだったら絶対につけない名前ですよね(笑)」(丸屋さん)

「ショットコーラー」はダダにとって、ナイキにおける「エアフォースⅠ」、アディダスにおける「スーパースター」のようなブランドを象徴する定番モデル

「ショットコーラー」はDADAにとって、ナイキにおける「エアフォースⅠ」、アディダスにおける「スーパースター」のようなブランドを象徴する定番モデル

DADAを買い集めていく中で“とんでもない”一足と出会った。

今回持ってきたのは、復刻されたものではなくオリジナルモデル

今回持ってきたのは、復刻されたものではなくオリジナルモデル

「クローム(メッキ)を多様しているのは、きらびやかなものを好むヒップホップカルチャーを背景にしているからでしょう」と丸屋さん

「クローム(メッキ)を多用しているのは、きらびやかなものを好むヒップホップカルチャーを背景にしているからでしょう」と丸屋さん

「DADAのスニーカーは、ナイキのエアやリーボックのポンプのような複雑な機構こそ搭載されていないものの、決して履き心地は悪くなかった」と丸屋さんは振り返る。またストリート発のブランドとしては珍しく、NBAで活躍していたプロバスケットボール選手クリス・ウェバーのシグネチャーモデル「C DUBBZ」を2002年に発売していたことも、NBAファンだった丸屋さんにとって魅力的だった。こうしてDADAのスニーカーに魅了されていった丸屋さんは、2004年に運命の一足との出会いを果たす。ゴールデンステート・ウォリアーズ、ニューヨーク・ニックス、ミネソタ・ティンバーウルヴズでプレーしていたNBA選手ラトレル・スプリーウェルのシグネチャーモデル「SPREES」だ。

「このモデルはDADAとしては珍しくポンプ機構が搭載されているのですが、リーボックのようにフィット感を高めるわけでもなく、クッション性を上げるわけでもない(笑)。かかとに体重をかけるとポンプに空気が送り込まれ、サイドに付いている円形のパーツがクルクル回るんです。 “こうきたか”という脱力と脱帽が同時に込み上げてきましたね」(丸屋さん)

踵(かかと)を踏み込むと分厚いヒールに内蔵されたポンプが作動し、サイドのウィールがスムーズに回転する

踵(かかと)を踏み込むと分厚いヒールに内蔵されたポンプが作動し、サイドのウィールがスムーズに回転する

「SPREES」のデザインにはラトレル・スプリーウェルの個人的な「趣味」が反映されている。ストリートカルチャーの世界においては、乗っている車はもちろん、高級ホイールを使っていることがステータスとされ、とりわけ西海岸ヒップホップの世界ではその傾向が強い。西海岸のチームであるゴールデンステート・ウォリアーズに籍を置いていたスプリーウェルもまた、プライベートでの車好きが高じて自身でホイール・ショップ「スプリーウェル・レーシング・ストア」を経営するほどだったという。そう「SPREES」の側面で輝く円形のメッキパーツは、当時流行していた車が止まった後も回り続ける“スピンホイール”を模しているのだ。

タンのシューレースガードには、DADAの象徴である王冠とバスケットボールのゴールネットを組み合わせたロゴを配置

タンのシューレースガードには、DADAの象徴である王冠とバスケットボールのゴールネットを組み合わせたロゴを配置

つま先部分には「DADA」の文字が光る

つま先部分には「DADA」の文字が光る

一見バカバカしいアイデアを形にすることの大切さ

ゼロ年代の流行を反映した角ばったシルエットが印象的。「NBA選手のシグネチャー・モデルなのに履き心地はイマイチ(笑)」と丸屋さん

ゼロ年代の流行を反映した角ばったシルエットが印象的。「NBA選手のシグネチャー・モデルなのに履き心地はイマイチ(笑)」と丸屋さん

丸屋さんは饒舌(じょうぜつ)に、そして時に吹き出しながら「DADA」について語る。しかし決してそこには見下しの視点はない。丸屋さんはファンクの帝王ジェームス・ブラウンのライブでの経験を引き合いに「“笑える”と“カッコイイ”は両立する」と話す。

「JBのライブを観(み)に行った時、カッコイイなとは思いつつも、いわゆる“マントショー(※)”のくだりでは笑いをこらえていました。“笑ったら失礼なんじゃないか”と思ったからです。ところが横にいたアフリカ系女性を見ると爆笑している。しかも彼女は“なぜ笑うのを我慢してるの?”と不思議そうな顔で私に問いかけてきた。笑えることとカッコイイことは両立することに気付かされましたね。思えば私が愛するヒップホップも、バンドの代わりにレコードを使うこと、レコードをこすって演奏するスクラッチ、楽曲を遅回しにするスクリューなど、常識人から笑われるようなアイデアを形にして、継続することで認めさせてきた。SPREESもそうした常識を打ち破ろうという精神を内包しているのだと思います」(丸屋さん)

※ソウルのゴッドファーザーことジェームス・ブラウンのパフォーマンス。ライブ中に力尽きたJBにマネジャーがマントをかけると復活するお約束の「見せ場」

その後、DADAはMP3プレーヤー内蔵モデルなどの珍作スニーカー企画を発表して注目を集めるも、現在は休眠状態。残念ながらここ数年は新作が発売されていないという。しかし道なき道を突き進む、そのアグレッシブなクリエーティビティーは、丸屋さんを始めとするマニアの心を捉えて離さない。現在、丸屋さんは自宅にストックしている「SPREES」や「ショットコーラー」を大切に履いている。DADAが再びニューモデルを発売し、スニーカーの常識の壁をもう一度打ち破るその日を待ちながら。

現在も“決して主流とは言えないメーカー”のスニーカーを愛用している丸屋さん。最近は中国のスニーカーブランドに注目しているのだそう

現在も“決して主流とは言えないメーカー”のスニーカーを愛用している丸屋さん。最近は中国のスニーカーブランドに注目しているのだそう

取材・文/吉田大
撮影/今井 裕治

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