平井かずみ×在本彌生 人もまた花なり
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平井かずみさん「人と植物のつながりを、もっと取り戻せるような花を」

フラワースタイリスト・平井かずみさんの新連載「世界の花めぐり」が始まります。
平井さんは、花の教室やスタイリング、雑誌での連載や本の出版など、いつも自由自在に花と関わっている姿が印象的。今回の連載では、これまでの花とのつきあい方から少しだけ離れ、旅好きな平井さんが気になっているあの国のあの花のこと、それにまつわる習慣や文化をよく知る達人たちを訪ね、お話を伺い、世界中の花との愉(たの)しみをふだんの暮らしに取り入れることができるよう、平井さん流にそのエッセンスを伝えていきます。

旅の記憶は、そのまま、植物の記憶

平井かずみさん「人と植物のつながりを、もっと取り戻せるような花を」

撮影 平井かずみ

都内にある平井さんのアトリエには、国内外を問わず、平井さんに選ばれて遠くからやってきた植物や木、そして石が、静かに並んでいる。部屋の壁にはさりげなく干し花が飾られ、その横にはわらでできた北欧のヒンメリが揺れている。テーブルの上には大きなあじさいが一輪とお皿の上には、平井さんがオーストリアのチロル地方ではまったという鉱石店で選び抜いた、様々な大きさや形のきらきらとした石が輝いている。

「人も花も一緒だな、と思って。花をどこに飾ったらいいかって聞かれたら、自分が心地いい場所に飾ってねって言います。人が心地いい場所は花も飾られてて心地いいから。そう考えるとわかりやすいし、でも本当に一緒だと思うんです、純粋に、生き物として」

そんな平井さんがとくに“元気のもと”にしているのが、旅だ。年に数回、予定が合う友達と、時には1人で、思い切って休みを取って、そのとき縁がある国や町へと出かけていく。

「旅に出ると絶対何かに出会うんですよ。何かと出会って、誰かと出会う」

平井かずみさん「人と植物のつながりを、もっと取り戻せるような花を」

その土地ならではの文化や習慣と花との関わりを知ることが好きなのだという。今年はオーストリア・チロル地方とドイツ・ベルリンに行った。

チロル地方に行ったときは、メイポールという春を告げるお祭りに遭遇した。

「町とか村の教会の脇や広場のようなところに、すごく太い木の棒が立ってるんですよ。そこにリースみたいな花が結びつけてある。ドイツ語しか話さない食堂のおじさんに、あれはいったい何だって聞くと、おじさんもまわりの英語が話せる人に聞いて、結局そこにいた人たち全員を巻き込んで、メイポールとは春の訪れを祝い、その年の豊作を祈願するものだとわかりました」

その町では1年に1回、柱を必ず立てるという。「男の人たちがその年の木を森の中に見つけに行って、女の人たちが花を飾る。それを地域ごとに競い合うらしくて、せっかく取った木を奪われないよう、近隣の村の人には内緒で作るんですって」

平井かずみさん「人と植物のつながりを、もっと取り戻せるような花を」

撮影 平井かずみ

ベルリンで出会ったのは、ヨモギの花のつぼみや芽を刈り取って、ひもで束ねてスティックみたいにしたもの。収穫祭の時に焚(た)くのだという。「日本にも、植物を束ねて燃やしたりとか、香りを楽しんだりする習慣がある。そうやって旅先で、日本と共通するものを感じるのも好きです」と、平井さん。最近では、街のお店めぐりよりも、森の中を歩きたくて国立公園に行ったり、郊外の町へと向かうことが多いそうだ。

旅先では、Wi-Fiもガイドブックもあまり手にせず、言葉にできない感覚を頼りに知らない町や森の中を歩き、植物や石に出会って、言葉にならない感覚を持ち帰る。「その、言葉に置き換えられない感覚から、文化や習慣がうまれていくんだろうなぁと思うんです」

平井かずみさん「人と植物のつながりを、もっと取り戻せるような花を」

撮影 平井かずみ

平井さんが仕事として花と関わるようになったのは20年以上前にさかのぼる。勤めていたインテリアショップに花を生けるところから始まり、気づけば花の教室を開き、雑誌で連載を持ち、本を出版し……最近では虎ノ門ヒルズのクリスマスをはじめとする季節のスタイリングやイベントなど、全国を飛び回りながら様々な形で花と関わっている。今月からはNHK「趣味どきっ!」での講座「花と暮らす」も始まった。とても忙しい毎日に見えるが、ご本人は「こんなに楽しくていいのかな、って」と、にっこり。

でも、忙しく花と向きあい続ける毎日の中で、考えるようになったことがある。それは、人と植物のつながり。

「人が植物からもらっているものってどんなものかなって、日々考えるんです。人と植物ってすごく密接に古来から関わってきていて、どちらかというと、植物に人が生かされている。花の生け方とか技みたいなところではなく、植物と人がどう関わってきて、何をもらっているのかっていう。そういう植物との本来のつきあい方を、思い出したいというような気持ちになります」

平井かずみさん「人と植物のつながりを、もっと取り戻せるような花を」

昔の人たちは、植物にいろんなものが宿っていることを、敏感に感じ取って、それぞれのもつ意味をちゃんと読み解いて、念じたり祈ったりしていた。それが儀式になったり、身につけることで、邪気を祓(はら)ってくれたり、あるいは実物ではなくても、植物の柄を身にまとうことで守られると信じていた。

「花を生けるのも同じ。自分のためはもちろん、誰かのために生けるとか、それも祈りだったり、お礼だったり、いつも心がこもっていて、生きることと密接に結びついている。たぶん世界中にそういうことがたくさんあって、本来の、人と植物とのつきあいの始まりだと思うから、それをこの連載で知って、伝えていけたら。生まれたときから心の中、頭の中にはあって知っているんだけど、いろんなことを吸収していくたびに忘れてきたことをもう1回、思い出せるのではないかなぁ、思い出せたらいいなぁって。人だけでしょう? 心で花の美しさを感じられるのって」

平井かずみさん「人と植物のつながりを、もっと取り戻せるような花を」

よく晴れた朝、平井さんを訪ねると、すでにたくさんの花がテーブルに並んでいた。

松に杉、ヒバ、ヤブコウジ(十両)……。平井さんがいつも花を仕入れている、栃木県・那須の花農家、池田夫妻の農園から届いたばかりの花だ。「さまざまな種類の植物を露地栽培で、雨に打たれて風に吹かれて花の自然に任せて育った植物たちだから、とても元気が良くて、表情が豊かなんです。昨日、那須は初雪だったんですって。東京はこんなにあったかいのにねえ」と、花を眺めてうれしそうな平井さん。

自然の恵みを、自ら本当に楽しそうに、ごく自然に自分の暮らしに取り入れている。そこから平井さんの花が生まれてくることが、よくわかる。

平井かずみさん「人と植物のつながりを、もっと取り戻せるような花を」

「世界の花めぐり」では、平井かずみさんがいろいろな国の花の達人に、その国の人々と花との関わり、暮らしの中の花、習慣についてインタビュー。そのインタビューのお話を基に、平井さんが暮らしに取り入れることができるように花を生けます。

撮影は、写真家の在本彌生さん。世界中の国を訪ね歩いて写真を撮り続けています。旅先では必ず花市場を個人的に訪れているそうです。

さあ、これからどこの国のどんなお花が出てくるか、平井さんがそれをどう生けてくださるのか、在本さんがどう撮ってくださるのか。次回、花めぐりの旅は「日本」のお祝いの花生けから始まります。どうぞお楽しみに!

平井かずみさん「人と植物のつながりを、もっと取り戻せるような花を」

(構成・&w編集部/撮影・在本彌生)

平井かずみ(ひらい・かずみ)

平井かずみさん「人と植物のつながりを、もっと取り戻せるような花を」

フラワースタイリスト。ikanika主宰。草花がより身近に感じられるような「日常花」の提案をしている。東京を拠点に「花の会」や「リース教室」を全国各地で開催。雑誌や広告などでのスタイリングのほか、ラジオやテレビに出演。著書『フラワースタイリングブック』『ブーケとリース』『あなたの暮らしに似合う花』ほか多数。http://ikanika.com

PROFILE

  • 平井かずみさん「人と植物のつながりを、もっと取り戻せるような花を」

    在本彌生(ありもと・やよい)

    写真家。東京生まれ。大学卒業後外資系航空会社で乗務員として勤務、乗客の勧めで写真を撮り始める。複数のワークショップに参加、2003年に初個展「綯い交ぜ」開催、2006年よりフリーランスフォトグラファーとして本格的に活動を開始、雑誌、書籍、展覧会で作品を発表している。衣食住にまつわる文化背景の中にある美を写真に収めるべく世界を奔走している。写真集「MAGICAL TRANSIT DAYS」(アートビートパブリッシャーズ)「わたしの獣たち」(青幻舎)「熊を彫る人」(小学館)

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