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女流棋士・香川愛生が語る将棋の魅力と、オンラインサロンでやりたいこと

女流棋士の香川愛生女流三段は、日々の対局と研究の傍ら、eスポーツイベントに出演したり、ゲーム雑誌で連載を持ったり、コスプレを披露したりと、幅広いジャンルで活動している。今年4月に開設したYouTubeチャンネルの登録者数は4万6千人にのぼる。将棋愛好家以外のファンも多く、知名度が高い女流棋士の一人だ。

その香川さんが2020年1月、将棋の普及を目的にオンラインサロンを開設する。人工知能(AI)と棋士の勝負が注目を集め、タイトル戦の対局配信もすっかり定着したとはいえ、千年以上の歴史を持つ将棋は、伝統が重んじられる世界。その文化と、デジタルで参加者とつながる仕組みのオンラインサロンをどのように融合させようとしているのか。香川さんに、オンラインサロン開設で目指すものを聞いた。

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「好き」を継続するには「場」が必要

――とても多趣味なことで知られる香川さんですが、ゲームや映画などの活動も将棋を広めるためとうかがいました。これから運営されるオンラインサロンも将棋の普及を目的としているそうですね。開設の経緯を教えてください。

実は子供時代の経験が深く関わっています。私は9歳で将棋を始めて、学校が終わったら毎日道場に通い、土日も朝から晩まで将棋づけ。とにかく将棋が好きで好きで仕方ありませんでした。その魅力をたくさんの人に知ってほしいと思って、あれこれとやってみたんですが、“重たい愛”って、相手に引かれてしまうんですよね(笑)。

当時はそれに気づかず、自分の好きな気持ちを真っ向からぶつけていました。せっかく将棋部をつくったのに、来てくれた初心者の男子をボコボコに負かしてしまったり(笑)。みんなさーっと引いていきましたね。香川とやっても勝てないなって。

女流棋士・香川愛生が語る将棋の魅力と、オンラインサロンでやりたいこと

そうした反省を生かして普及の方法を考えるようになったのが大学生の頃です。国民栄誉賞を受賞される羽生善治先生のような偉大なかたがたが活躍されるなか、私なりに将棋への思いを形にするにはどうすればいいか、毎日のように悩んでいました。

そんな思いを抱えながら大学でコミュニケーション学を学んだり、SNSやYouTubeなどで発信したりしていくうちに、同じことを伝えるのでもさまざまなやり方があると学びました。だんだん一本やりの愛情表現にこだわらないようになってきて、ひとりひとりの感性やライフスタイルに合わせた将棋の楽しみ方を見つけていただく、そのお手伝いがしたいと思うようになったんです。

高校くらいまでは心の余裕がなくて、生活のほとんどが将棋でしたが、身近な人に共感できるようになりたくて、少しずつ趣味の時間を作るようにしていました。ゲームとか、映画とか。やがて趣味関連のオファーが増えて驚きましたが、直接将棋を指すことがなくても、自分の活動を通じて将棋界の外のかたが興味を持ってくれることを期待して積極的に受けるようにしました。アニメや漫画も好きですが、最近は将棋を題材にする作品も増えましたので、一般のかたとそんな話で盛り上がれるのもうれしいですね。

自分なりのやり方で将棋に関心を持っていただく活動は、今後も根気よく取り組んでいくつもりです。ただ、将棋に深く関わってもらう場も作りたい気持ちがだんだん膨らんでいました。そんなタイミングで、朝日新聞さまから将棋のオンラインサロンを開設したいというお話を伺いました。プロ棋士では初の試みというのが光栄であり、不安でもありましたが、自分の思いがかたちにできるかもとお引き受けするに至りました。

――具体的にはどういったサロンになるのでしょうか。

サロンに入って、「(もっと)将棋が好きになった!」と思ってもらえる場所にしていきたいです。ただ、現代は将棋ファンのニーズは広いので、多様な楽しみ方を大切にしなくてはなりません。

たとえばここ数年で、将棋を指さずに観戦を楽しむ「観(み)る将」が増えてきました。また、一口に観る将と言っても、主な対局を一通り見るかたから、好きな棋士がいるかた、対局の休憩で食べる「将棋めし」が気になるかたなど、嗜好(しこう)は様々。中にはルールをご存じではないかたもいるほどです。

サロンでは棋力向上、つまり強くなりたいかた向けには指導対局(実際に将棋を指しながらの指導)や大会を企画します。一方で見るのが好き、というかた向けのイベントや動画配信も考えています。

将棋の話はもちろんですが、専門的な話だけではなく、先ほどお話ししたようなプロとしての思いをお伝えできる場にもなるとよいなと思います。バラバラに楽しむというより、それぞれの魅力を感じていただく機会になればと。

オンラインサロンでは、悩みや心細さのようなものにも寄り添っていきたいんです。この局面でどう指せばよかったのか。子供にはどう教えたらいいのか。憧れのあの先生に会うにはどうしたら……。楽しみ方が多い分、悩みや疑問も多岐にわたりますし、喜ばしいことばかりでもないと思います。そういう様々な声に寄り添って、将棋に対する悩みや目標などに向き合うお手伝いは、責任を持って取り組んでいきたいです。

また、私から発信するだけでなく、サロンに参加するかたがた同士がコミュニケーションを取れる雰囲気にしていきたいです。月に1回は、オフラインでメンバーが集まる機会を作りたいですし、Facebook上でも積極的にやりとりをしてもらえるような活発なコミュニティーを目指したいですね。

――オンラインの将棋道場のようなものをイメージしていましたが、コミュニティーの要素が強いサロンになりそうですね。

将棋は刹那(せつな)的な娯楽ではなく、長く続ければ続けるほどその魅力が増していくものです。いま将棋に関心を持っているかたには、将棋を好きになってほしい。もう好きだよというかたには、これからもずっとそうであっていただきたい。そのお手伝いをしたいんです。

そのためには、将棋と関わりの持てる「場」が必要で。普通は場所って提供するだけですけど、オンラインサロンはメンバーの皆さんと一緒に作っていけるのがだいご味ですよね。

――香川さんがずっと将棋が好きでいられたのも「場」があったからですか?

もちろんです。将棋の上達に必要なのは、場所、先生、友人です。子どもの場合は家族の理解も大事ですね。

私は、将棋を好きでい続けられる条件が揃(そろ)いすぎと言っていいほどの環境で育ちました。近所に将棋好きが集まっていて、バスで一本の距離に将棋道場があって、家の真下には地域で一番強いおじいちゃんが住んでいた。もちろん全て偶然です。

上達が目的でなければ必ずしも先生はいらないのかもしれませんが、場と友人が必要なのに変わりはありません。私は子供でしたし、自分で選ぶまでもない環境下だったのですが、現代では(将棋に触れられる場を)比較して選べるとよりよいと思っています。

いまは道場以外にも、将棋カフェ、将棋バーといったカジュアルに楽しめる場も増えてきました。私のオンラインサロンも、そうした中のひとつの選択肢になるとうれしいです。

表情を見ても棋士の気持ちはわからない

――そもそも、将棋のどこに魅力を感じて、多くの人に深く興味を持ってもらいたいと考えているのでしょうか。

それはもう数え切れないくらいあって、ひとつというわけには……。ただ一番大きいのは、将棋が与えてくれた人とのつながりかもしれません。私は子供の時から短気で短絡的で、ささいなことですぐにケンカしたり、パッと切り捨てたりする性格でした。もし将棋と出会っていなかったら、人や物事に長い時間をかけて向き合ったり、深くつながったりするようなことはできていなかったと思います。

将棋は、とても密な会話ができるツールです。人柄も出ちゃいますから、初対面だとドキドキしちゃったり(笑)。何度も対戦していてお互いを知り尽くしているような間柄だと、一手にどんな気持ちや考えが込められているのかが読み取れてきます。相手が見せた新たな一面にハッとしたり、相手の考えを上回る快感を味わったりして、最後には感想戦で振り返る。とても充実したコミュニケーションだと思います。

女流棋士・香川愛生が語る将棋の魅力と、オンラインサロンでやりたいこと

――対局中は、互いに心の中で激しい“やり取り”をしているわけですね。棋士の皆さんはあまり感情を表に出さないし、対局の中継を見ていても、表情からは心の内がわからないことが多いです。

ややこしいですよね、優勢のほうがため息ついたりして(笑)。解説者も形勢をはっきり言わない傾向もあるでしょうか。「これは怪しいですよ」とか、「どうなっているんでしょうか」とかね。「はっきりしてよ!」とやきもきするかたもいるかもしれませんが(笑)。断言してしまうと無粋なきらいもあるので、含みを持たせた言い回しをしますよね。

――日本らしい文化ですね。ただ、最近では、画面上にコンピューターのソフトによる形勢判断が数字で表示される中継も始まり、それによって素人でも形勢がわかるようになりました。あの形勢判断について、棋士の皆さんはどう思っているのでしょうか。

状況の理解を助ける指標が増えたことは、喜ばしいことですよね。対局者としては、自信満々に指しているけど(画面上に)マイナス千点とか表示されていたらはずかしいなとか、思わないではないですが(笑)。ただ、人間同士の勝負ですからね。たとえソフトがマイナス千点、2千点をつけていても、一手でひっくりかえるのが将棋の面白いというか、こわいところなので。

――ネット中継もすっかり定着し、これからオンラインサロンも始まります。将棋とネットの親和性についてはどうお考えですか。

親和性は高いと思っています。かつては縁台将棋といって、ひとつの盤をわらわら囲んでああでもないこうでもないと言っていたわけですよね。ニコニコ生放送を皮切りに、現代ではそうした文化がネット上に甦(よみがえ)っているようで、面白いな、と。

SNSでも、将棋界のニュース、タイトル戦の結果がトレンド入りしたり。YouTubeでもプロのチャンネル進出が増えてきました。将棋界は時代に合わせて変容することができているように思いますし、その必要があると考えている人が多いように感じています。

棋譜を評価してもらうのが一番の喜び

――この数年、藤井聡太七段の活躍などもあって棋士に注目が集まっています。ただ、棋士の日常や内面はなかなか想像がつきません。将棋以外の活動も多い香川さんは、日頃どのように時間をやりくりしているのでしょうか。

日々、時間との戦いですね(笑)。もともと何をやるにしても最善を尽くしたくて仕方ない性格なんですよね。たとえば、千文字くらいのコラムの執筆に1カ月くらいかけていたこともありました。書いては寝かしてまた直して、というのを延々とやって。

でもいまは必ずしも時間をかけることがいいことではないと思って、持ち時間を設定するようにしています。限られた時間の中で、自分のこだわりをうまくコントロールしつつ最善を尽くす。それができなければ、新しいことに挑戦する余裕は生まれません。時間はあるものでももらうものでもなくて、捻出するものだと考えています。

女流棋士・香川愛生が語る将棋の魅力と、オンラインサロンでやりたいこと

――短期集中でいろいろなことに取り組む時間を確保している?

そうですね。2年前くらいからは映画に費やす時間も大きく増えました。

映画が嫌いな人は少ないと思うんですが、見たいという気持ちはあるのに映画館に足が向かない人も多いんですよ。そういう人をどうしたら映画館に連れていけるんだろう?というのがこの数年の私の関心事のひとつなんですが、結局、将棋とやっていることが変わらないですね(笑)。今では映画館で100本、ネットで視聴できる作品も合わせると年間200本以上の映画を見ています。その時間はものすごく集中していますね。

―――ゲームはいかがですか。いろいろな作品を、時間をかけてじっくりプレーされている印象です。

『マジック:ザ・ギャザリング』のようなゲームの場合は、ルールを覚えつつ、最初は自分が一番楽しめる方法を探します。それからいかに効率よく上達できるかを早い段階から思い描くようにしていますね。ゲームに限らず、物事に取り組むときはまずは目標を立てて、そこへのロードマップは必ず作ります。ダラッとやると廃人になってしまうので(笑)。

――その集中力や徹底したスタンスは将棋によって培われたものですか?

そうですね。かなり伸びたと思います。もともと夢中になると周りが見えなくなる気質でしたから、将棋がかみ合ったのかもしれません。

――タイトル戦などで棋士のみなさんが何時間も集中しながら戦っている姿は、魂を削っているような感じがします。

文字通り命がけって感じですよね。本業のことでいうと、私もタイトル戦の舞台にまた立ちたいと強く思っています。ただ、なんの犠牲もなく立てるようなところではないですから。

身も心もしんどくて、これまで何度も将棋を辞めたいと思ったことがありますが、いちばんの支えは棋譜を見てくださるかたがたですね。特に最近は中継も増えましたから、終局して間もなく「かっこよかった」「感動しました」と連絡をくださるかたもいて。あぁ、本当にキツいけど、戦って良かったと心の底から思いますし、そう思える自分は勝負師らしいとかみ締めることもできています。

魂って目には見えないじゃないですか。説明するのも難しいですし。でもプロの真剣勝負を見ていると、やっぱりそれらしいものが感じられると思うんです。トップ棋士の先生はもちろん、私の棋譜からそうした何かを感じてもらうことができたら、それほど励みになることはないですよね。見ていただくのが一番の支えなので、これからも全力で戦い続けたいです。

――オンラインサロンは、その将棋の価値や深さを広めていく場になりますね。

価値や魅力って誰かが一方的に決めるものではなくて、それを感じたり、理解してくれたりする人がいて初めて生まれてくるものです。将棋が千年以上続いているのはすごいですが、それはこの価値を信じる力の大きさとも言えると思うんです。だから、サロンでは将棋ファンのかたがたのパワーをお借りしたい。将棋の魅力を全力で感じられるような、最高の場所を作り上げていきたいです。

(聞き手・&M編集部 久土地亮、文・下元陽、写真・林紗記)

 

女流棋士・香川愛生が語る将棋の魅力と、オンラインサロンでやりたいこと

香川 愛生(かがわ まなお)
1993年4月16日生まれ。日本将棋連盟女流棋士。立命館大学文学部卒。9歳で将棋に出会い、3年後には「女流アマ名人戦」で最年少優勝しアマチュア女性の日本一に。中学3年生・15歳でプロデビュー。大学在学中にタイトル「女流王将」に初挑戦、初獲得し、翌年も防衛。受賞歴は最多対局賞、女流棋士賞など。多数のメディア出演のほか、代表を務める株式会社AKALIでは総合企画・プロデュースにも取り組む。著書は「職業、女流棋士」。
Twitter : https://twitter.com/MNO_shogi
Youtube : https://www.youtube.com/channel/UCDsB5oS-K8To0NAz4iWVNKQ

 

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