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原田泰造×コトブキツカサの「深掘り映画トーク」
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ポン・ジュノ監督の表現力に熟練キャストの演技 口コミ高評価も納得の『パラサイト』の魅力を語る

ネプチューンの原田泰造さんと、映画パーソナリティーのコトブキツカサさん。映画好きなオトナのお二人が、新作や印象の残る名作について自由に語る対談企画。今回は昨年のカンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞し、2月10日(日本時間)に授賞式があるアカデミー賞に6部門でノミネートされた話題の『パラサイト 半地下の家族』について語ります。

【編集部より】極力ネタばれを避けていますが、若干ストーリーに触れている部分があります。これから作品を鑑賞される方はご注意ください。

 (ストーリー)全員失業中で貧困にあえぎ、臭気漂う「半地下住宅」で暮らすキム一家。大学受験に失敗したキム家の長男ギウは、ひょんなことから丘の上の豪邸で暮らすパク一家の娘の家庭教師の仕事を得る。ギウは自分だけでなく家族を呼び寄せて、少しずつパク家に寄生(パラサイト)するプランを実行する……。

 

映画『パラサイト』

ⓒ 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

原田 『パラサイト』は、僕のまわりでもずっと話題になっていた作品。公開がはじまったらみんな観(み)にいってたね。

コトブキ 観た人の口コミ効果もすごいですね。公開されてから、上映する劇場の数も倍になったくらいですから。カンヌを獲ったり、ほかの賞レースも騒がせてるということで、注目度がグンと増しましたけど、泰造さんも僕も韓国映画が大好きで、ポン・ジュノ監督、ソン・ガンホ主演とくれば、何もいわれなくても絶対観るタイプの作品じゃないですか。

原田 絶対観る(笑)。でも、本当に評判がいいから、見る前にハードル上げすぎたらよくないなと思うくらいだった。それもあって、前半はコメディ要素が強いなって思ったね。

コトブキ ポスターとかのビジュアルだと、もっと不気味なイメージを受けますよね。でも、ポン・ジュノって本来はコメディの人ですよ。長編第1作目の『ほえる犬は噛まない』から、コメディというかブラックな笑いが多かったですから。

原田泰造、コトブキツカサ

原田 監督がハリウッド進出してから韓国に戻ってきた作品ということで、原点に戻ったようなタッチになったのかもしれないね。でも、冒頭から韓国映画の底力を感じたのは「美術」。あの半地下の家のディテールはすごかったよね。

コトブキ リアルを超えた生々しさでしたね。室内だけじゃなく、あの家のまわりの町ごと全部セットで作ったそうです。丘の上の、金持ちの家のほうも。この作品には、高低差が格差のモチーフとして出てきますよね。階段とか、坂とか。そういえば、一緒にアカデミーにノミネートされた『ジョーカー』も、階段が印象的につかわれてましたね。

原田 テーマとしては似ているもんね。あと、これもアカデミーにノミネートされてる『ジョジョ・ラビット』も似てると思った。部屋のなかの誰かとか、最後のほうの展開とか。

コトブキ 今回のアカデミーにノミネートされてる作品は、芸術性と娯楽性がどちらも高いものばかりですよね。ただ『パラサイト』は、その娯楽性のほうでちょっとひっかかってるという人もいるんですよ。ミステリー風味で緻密に計算されていますけど、展開が突飛じゃないですか。ファンタジーとまではいかないけど、寓話性が高いというか。

※【ネタバレ注意! ここからストーリーについて言及しています】

原田 タイトルから、ソン・ガンホたちの家族がパラサイトしていく話なのかと思っていたら、驚きの展開があったね。あの階段を降りていくときのドキドキ感はまさに映画的な興奮だった。

コトブキ 予想外な展開で観客の気持ちを揺さぶってくるから、落ち着かないですよね。突発的なバイオレンス描写もあったりして。

ポン・ジュノ監督の表現力に熟練キャストの演技 口コミ高評価も納得の『パラサイト』の魅力を語る

ⓒ 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

原田 エロスも突発的じゃない? あの金持ち夫婦のシーンも妙にいやらしかったよね。なにが見えてるってわけじゃないんだけど、揺さぶられた。

コトブキ あれは生理的に揺さぶられますね(笑)。ポン・ジュノは『母なる証明』でも、行為をしてる近くでお母さんが身を潜めてるみたいなシーンがあったので、多分あのシチュエーションが好きなんでしょうね。

原田 そういう意味では、ポン・ジュノは階段から誰かを突き落とすのも好きだし、飛び蹴りも絶対入れてくる(笑)。

コトブキ あとは「ジャージャー麺(めん)」ですね。あれが出てくると、ポン・ジュノというよりも、韓国映画だなって思います。

原田 韓国映画の食事シーンはどれも印象的だよね。今回はソン・ガンホたち一家が家主がいない間にぜいたくする場面もよかった。

コトブキ ソン・ガンホの演技はいつもすごいんですけど、今回は本当に素晴らしかったです。

原田泰造、コトブキツカサ

原田 抑えた演技だけど、説得力がすごい。俺が俺がって前に出てくることはないのに、主演としての存在感があって、何気ない仕草や表情が強烈なんだよね。

コトブキ ソン・ガンホは、現場で自由に、自然体で演じているように見受けられますよね。でも、聞いた話によると、ソン・ガンホは映画が決まったらアパートにこもってひたすら稽古(けいこ)するらしいんですよ。それで完全にセリフを入れて、演技プランも完全に作って、現場に臨むけど、本番ではそれを崩して演技するそうです。

原田 いやぁ~! それはすごいな。

コトブキ これ聞いたときには、さすがだな、と。僕も最近ちょっとだけ役者をやらせてもらうことがあるんですけど、この話を聞いてひたすら稽古しました。1行しかセリフがなかったんですけど、それを何百回も繰り返して。だって、ソン・ガンホがやってるんだから!

原田 それは偉いね! 「ソン・ガンホがやってるんだから、俺がやらなくてどうする」ってことだね(笑)。

コトブキ 『殺人の追憶』でも、ラストはソン・ガンホのアップで終わるじゃないですか。あの表情で、あの映画を全部説明してるんですよね。

原田 真犯人の存在を感じさせているよね。

コトブキ 『殺人の追憶』は実話に基づいていて、あの映画が作られたときは犯人が捕まってなかった。だからポン・ジュノ監督はソン・ガンホにカメラを見つめさせて、スクリーンの向こう側にいる犯人にメッセージを送ったんですよ。

原田 「俺たちはお前をずっとみているぞ」という意味なんだね。

コトブキ その犯人が2~3年前に逮捕されたんですよ。監督は接見しに行こうか迷ってるって言ってましたよ。「お前はどういう気持ちだったんだ」と聞きたいんでしょう。

原田 犯人は映画を観てたの?

コトブキ それが観てるらしいんですよ。刑務所の中で。

原田 それは興味深いね。実際に犯人に届いてたってことだもんね。『パラサイト』のクライマックスでも、ソン・ガンホはいろいろ解釈できる表情をしていたよね。あのシーンは、ソン・ガンホの演技だからこそ考えさせられるし、成立したんだと思う。

ただ、わからなかった部分もある。動機になりそうなことは少しずつ提示されてるんだけど、意外な結末は、ちょっと唐突というか、あそこまでの行動に出るのかな? と思った。

コトブキ 確かに、意見が割れる所ですね。

原田 ソン・ガンホが演じているから行動に説得力はあるんだけど、ソン・ガンホだからそんなことしなくていいのにっていう気持ちもどっかにあったな。

コトブキ 泰造さん、ソン・ガンホのこと好きすぎですよ(笑)。

原田泰造、コトブキツカサ

原田 あれは韓国の人にはわかる展開なのかな? 文化の違いで、少し納得できなかった部分もあるのかなって思った。

コトブキ 泰造さんの言いたいことはよくわかります。終盤にある事件が起こって、ラストシーンにつながっていくじゃないですか。あの結末にしたかったから、その理由付けのためにあの行動を取らせたという可能性もありますよね。

原田 なるほど。あのエンディングのアイデアを先に思いついちゃったのかもね。で、そこにつなげる場面を後追いで作っていった。

コトブキ 逆算して作ったシチュエーションかもしれませんね。この作品には、ほかにも何カ所かそういう「この画を取りたい!」という考えが先行したっぽいシーンがあると思うんですよ。

原田 それがポン・ジュノらしいし、まさに映画ってそういうものだと思う。

コトブキ ただ、お父さんの行動を肯定的に捉えるならば、人間の感情の奥底は、他人が分からない部分にあるという言い方もできる。例えば「臭い」というのは、そのぐらいグサっとくるものだった。

原田 ああ、それはわかるね。

コトブキ 子どもの時とか、友達に対して「なんかお線香のにおいがするな」とか、無邪気に言っちゃうこととかあるじゃないですか。でも、言われたほうは一生覚えてるかもしれない。

原田 そういう「臭い」に対する感覚って人間なら誰でも持っているからこそ、この作品が世界中の人にも伝わって、共感されてるのかもしれないね。ポン・ジュノは、本当はこうなんだけどっていうのをはっきり説明しないで、お客さんに想像させるのがすごく上手いと思う。

コトブキ だから、鑑賞し終わった後でなんとも言えない余韻(よいん)が残るんですよね。

原田 あの裕福な家の子どもたちに何があったのかとか、それぞれの夫婦間の過去とかも、あんまり説明しないで終わっていく。これは演出上の我慢だと思うんだけど、それをサラっとやってるところもすごくいい。

コトブキ セリフで語らないで、部屋に置いてある本とか、それこそ臭いが漂ってくるようなディテールで説明してるんでしょうね。あの階段の質感とか、長さとか。

原田 そうそう、あの階段って長いんだよね。

コトブキ あの階段が暗くて長いからこそ、地下への誘惑が増すってことですよね。家政婦が、階段を前にして”一緒に降りますか?”って聞くセリフがあったんですよ。あれも深いですよね。なんだか「一緒に降りて、底辺の現実を見てみますか」と語っているようでした。

原田 見て見ぬ振りをしていたこと、直視してなかったものを目の前に並べていくような作品だよね。その並べ方や見せ方が独特だし、表現力がすさまじい。カンヌで賞を取ったのも納得だね。

(文・大谷弦、写真・野呂美帆)

ポン・ジュノ監督の表現力に熟練キャストの演技 口コミ高評価も納得の『パラサイト』の魅力を語る

<作品情報>

『パラサイト 半地下の家族』 英題:PARASITE/原題:GISAENGCHUNG
監督:ポン・ジュノ
出演:ソン・ガンホ、イ・ソンギュン、チョ・ヨジン、チェ・ウシク、パク・ソダム、イ・ジョンウン、チャン・ヘジン

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