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パリの外国ごはん
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テンション上がりっぱなし。湯気の立つアフガニスタン“ノマド”料理/Koutchi

連載「パリの外国ごはん」では三つのシリーズを順番に、2週に1回配信しています。
この《パリの外国ごはん》は、暮らしながらパリを旅する外国料理レストラン探訪記。フードライター・川村明子さんの文と写真、料理家・室田万央里さんのイラストでお届けします。
次回《パリの外国ごはん そのあとで。》は、室田さんが店の一皿から受けたインスピレーションをもとに、オリジナル料理を考案。レシピをご紹介します。
川村さんが心に残るレストランを再訪する《パリの外国ごはん ふたたび。》もあわせてお楽しみください。

テンション上がりっぱなし。湯気の立つアフガニスタン“ノマド”料理/Koutchi
テンション上がりっぱなし。湯気の立つアフガニスタン“ノマド”料理/Koutchi
テンション上がりっぱなし。湯気の立つアフガニスタン“ノマド”料理/Koutchi

寒くなると思い浮かべるものは、やはり湯気だ。この連載でごはんを食べに行くことが、もはや定期会合のようになっている私たちは、今回もまた「なに食べに行こっか」と案を出し合った。最初に挙がったのは、ベトナム料理(万央里ちゃん)とモロッコ(私)だったのだが、2人とも、どこかしっくり来ていない感じだった。

「実はずっとノートに名前と住所だけ控えているお店があってね。アフガニスタン料理なの。お店を見に行ったことも、通りかかったことさえないのだけど、なにで見つけたのだったのかなぁ? それも覚えていないのに、ずっとノートの1ページにその店の名前だけ大事にとってあるんだよねぇ」と万央里ちゃんに伝えると、「アフガニスタン!」といきなりテンションの上がった反応が返ってきた。

「インドを旅行した友だちが、デリーで食べたアフガニスタン料理がすっごくおいしくて、“アッコちゃんパリでおいしいアフガン料理の店見つけて!”って言われたことがあったから、その時何かで見つけたのかも。おいしいんだって、アフガニスタン料理」とさらに加えたら、「いいねぇ、スタン。パキスタン、ウズベキスタン……スタンがつくところの料理は惹(ひ)かれるね」とすでに万央里ちゃんは心をつかまれたようだった。確かに、スタンで終わる国名の地には、湯気の立つ料理がありそうだ。それで、通りかかったことさえない、名前だけ控えていたその店に、行くこととなった。

テンション上がりっぱなし。湯気の立つアフガニスタン“ノマド”料理/Koutchi
配色に異国を感じる内装

場所は5区。アラブ世界研究所とパリ第6大学からほど近く、学生向けに良心的な価格の店が並ぶエリアに、その店、Kootchiはあった。中に入ると、思いのほか、にぎわっている。テーブルはほぼ全部、埋まっていた。

先に着いていた万央里ちゃんが「私、ここの前、何度か通ったことあった」と言った。それでも気づかなかったことにうなずける、知らなければ入ってみようとはなかなか思わない、ひっそりした空気が漂っていた。冬だからなのかもしれないけれど、店内の陰影が濃い。一見で入るには、相当の好奇心が必要な気がする。

店内でひとり、サービスをしていたムッシュがメニューを持ってきた。開きながら手渡されたそのページには手書きのメモが差し込んであり、それが“今日の料理”だという。その小さな用紙を見ると、ピーマン、ひき肉、玉ねぎ、トマトソース、バスマティ米と書かれていた。

テンション上がりっぱなし。湯気の立つアフガニスタン“ノマド”料理/Koutchi
メモの挟まったメニュー

ただ、一つだけ解読できない単語があった。ピーマンの後に続き、ひき肉の前にあることから「これ、もしかしたら、ファルス(=詰めた)かな」と万央里ちゃんが言った。そうかもしれない。もう少し考えたかったけれど、そこでとどまっているわけにはいかなかった。さっと目を走らせただけでも、メニューには、スープとサラダ以外は分からない料理名だらけで、フランス語の説明を読まないことには始まらなかったからだ。そして私たちは、2人そろって、端折(はしょ)ることなく全部読みたいのだ。私たちのメニューを読むときの集中力は結構なものだと思う。

“今日の料理”のメモが挟まれたページには、ランチのセットメニューが書かれていたのだが、なんと9.20ユーロとある。これは、前菜+メイン+デザートの値段。学生街と言えど、破格ではないだろうか。私が前日に食べた、あるビストロのサンドイッチはテイクアウトで11.50ユーロだった。カフェで食べるサラダ・ニソワーズだって15ユーロする。

ページをめくると、そこに並ぶのは12.50ユーロのセットだった。いずれのコースも昼だけの提供で、メインはどれもごはん(バスマティ米)が付いてくるようだ。ソース多めのおかずにごはん、まさに“食堂”なプレートをイメージした。

迷いに迷った揚げ句、12.50ユーロのページから、ナスのグリルの前菜と米料理のメインを選び、アラカルトから前菜とメインを各1品ずつ頼むことにした。それと、doghというアフガニスタンの飲み物も。

ナスのグリルを選んだのは、料理の注釈に“遊牧民の干しチーズ”という言葉があったからだ。万央里ちゃんは大いに興味を引かれていた。果たして、そのチーズは真っ白で、ソースのように料理の上にかけられていた。見た目からはナスの料理とはわからないが、食べてみるとちゃんとナスだ。

テンション上がりっぱなし。湯気の立つアフガニスタン“ノマド”料理/Koutchi
ナスがトマトソースに溶け込んだ前菜

トマトベースのソースに、ナスが溶け込んでいる。スパイスの香りもしっかりして、コリアンダーとクミン、ほかにも色々入っていそうだった。ニンニクも結構効いている。意外にもチーズはクセがなく、ヨーグルトと言われたらすんなり納得するだろう。辛味はなくて塩味はとてもマイルド。だからかよりニンニクの強さが際立つ印象だ。

もう一つ楽しみにしていた前菜は、アフガン風ガレットである。極薄でパリッと焼かれたガレットの具は、ポロネギだ。使われているのは主に緑の部分。それで、ぎゅっと味が濃い。添えられたソースは、甘みの少ない酸っぱいピクルス液にハーブを混ぜているような、キンとした酸味があった。つけると別物になり面白いけれど、極薄お焼きのような感じで、何もつけない状態が私は好みだった。

テンション上がりっぱなし。湯気の立つアフガニスタン“ノマド”料理/Koutchi
ポロネギ入りの極薄ガレット

そこにdoghが運ばれてきた。クルドサンドイッチ店で売っているヨーグルトドリンクをイメージして飲んだら、それよりもずっと軽くて飲みやすい。キュウリがとてもたくさん入っているのだろうか、あとはミント。油っ気もニンニクもスッキリ流してくれる。

テンション上がりっぱなし。湯気の立つアフガニスタン“ノマド”料理/Koutchi
きゅうりとミント入りで軽く塩味のヨーグルトドリンクdogh
テンション上がりっぱなし。湯気の立つアフガニスタン“ノマド”料理/Koutchi
メインがそろった

お待ちかねのメインもまた、意外な姿で登場し、私たちのテンションは上がったままだった。米料理はピラフだったようだ。レーズン、アーモンドスライスに刻んだピスタチオ、千切りのニンジンがふんだんに散らされている。フォークを差し込んだら、お米にすっぽり埋もれていた、角切りにした仔牛肉が顔を出した。このお肉がふっくらとした仕上がりで、ふわっと軽い口当たりのバスマティ米にぴったりだ。でも、全体の味を決めていたのは甘みとほんの少し酸味のあるレーズンだろう。ニンジンの絶妙な歯ごたえある火の通り加減も、ポイントだ。

テンション上がりっぱなし。湯気の立つアフガニスタン“ノマド”料理/Koutchi
レーズンとアーモンド、ピスタチオいっぱいのピラフ。中を探ったらお肉が出てきた

これには、ナスの前菜とおそらくベースは同じ味のソースが添えられてきたのだが、かけると、別物になった。ただ、しっかりした味のために、ふわっとしたピラフの風味を消してしまう。私は、断然ソース無し派だった。子供の頃、「お弁当、混ぜごはんだけでいいよ」というくらい母の混ぜごはんが好きだったのだが、このピラフは、それを思い浮かべるくらいに、これだけを食べ続けたいひと皿だった。

そして、アラカルトから選んだラビオリ。蒸したラビオリの具は、これもまたポロネギの緑の部分とアサツキで、上にミートソース、そのまた上からニンニク入りヨーグルトソースがかかっており、ミントもふんだんに散らしてある。ラビオリの皮はわりと薄めで、モチっとしているけど同時につるっとしていた。肉を中に一緒に詰めず、上からソースでかけることで、ラビオリ自体が軽いからか、全体的な印象も軽やかに感じた。ポロネギの緑の部分ということも大きい気がする。

テンション上がりっぱなし。湯気の立つアフガニスタン“ノマド”料理/Koutchi
ひき肉はソースとして上にかけられているラビオリ

セットメニューにはデザートが付いていて、ミルクプリンのようなものが出された。「これさ、昔、プラスチックの容器に入ってた硬いかき氷の味に似てる。わかる?」と万央里ちゃんに聞かれ「あ~わかるよ。あの凸凹のお花形みたいな容器のやつね」というと「そうそう、それ!」とうれしそうだった。彼女はこのデザートも好みだったみたいだ。

テンション上がりっぱなし。湯気の立つアフガニスタン“ノマド”料理/Koutchi
懐かしい甘みのフラン

最後にカルダモン風味の紅茶を飲んで、ムッシュと少し話した。営業中は、1人厨房(ちゅうぼう)に雇っている人がいるけれど、料理はムッシュが作っているという。この店を始めて25年。もともとアフガニスタンでは銀行員だったらしい。もう長いこと難しい情勢にある祖国を出て、パリに来てから、生きる術としてレストランを始めた。料理は子供の頃、お母さんを手伝っていて覚えたそうだ。

帰ってから、写真に撮ったメニューを改めてじっくり見ていたら、あることに気づいた。店名が、看板とメニューとで、つづりが違う。どっちが正しいのだろう? それを確かめたくて、あと、ナスの前菜ももう一度食べたくて、再訪することにした。

テンション上がりっぱなし。湯気の立つアフガニスタン“ノマド”料理/Koutchi
牛肉の肉だんご、コフタ

この日は、セットメニューにして、ナスの前菜と、肉団子のソースがけにごはんが添えられたものを頼んだ。この店の料理は、スパイスは使っていても辛くなくて強くもなくて、やはりどの料理も味が優しい。意外なところで、ごはん(白米)だけは塩味が効いていた。その食感から、ゆでたのであろうことが察せられたが、料理よりもごはんの方がずっと塩味がしっかりしていた。とはいえ、料理が優しい味だったから、合わせて食べると、ちょうどいい塩梅(あんばい)だった。

すっかり顔見知りになって、食後ムッシュと話した。早速、店名のことを尋ねると「あぁ看板は、頼んだ人が間違えたんだよ」という。それをそのままにするのもまた大胆だなと思いつつ、「じゃあメニューにある、Koutchiが正しいのですか?」と聞いたら「そうだよ。あ、でもKootchiでも通じるよ」とフレキシブルな返事が来た。それで、そもそもKoutchiとはどういう意味なのか聞くと、「ノマド(遊牧民)だよ」と今度はきっぱり教えてくれた。

テンション上がりっぱなし。湯気の立つアフガニスタン“ノマド”料理/Koutchi
テンション上がりっぱなし。湯気の立つアフガニスタン“ノマド”料理/Koutchi

Koutchi

40 Rue du Cardinal Lemoine, 75005 Paris

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