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LONG LIFE DESIGN
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ながくつづく雑談 普通なんだけどちょっとカッコいい51%を目指す

今回も、「ながくつづく」にまつわる話を書きました。ほんのちょっとだけデザインを感じられるものが、いいデザインの塩梅だと思っています。そんな話と、先日、金沢にお寿司を食べに行った時に気づいた「名店」にある「様子」の話です。いい店には主役、脇役がいる、という話。最後はロングライフデザインを考える時に読んで欲しいオススメ本について。それではしばし、おつきあいください。

ながくつづく雑談 普通なんだけどちょっとカッコいい51%を目指す

韓国チェジュ島に建設中の「d 韓国チェジュ店」にて、島で採取される石で店のマークを彫ってもらって喜ぶ筆者って感じですかね

51%を目指したい

流行に流されず、意識ある人により作られ、売られ、使い続けられている――。“ロングライフデザイン”を言葉にすると、こう言えるかなと思っています。
「いいデザイン」の話です。普通の商品を「1%だけデザインで格好良くする」。普通が50%だとすると、デザイン家電は80%がデザインが際立っていて、そこまで行くと居心地が悪くなる。デザインが主張しすぎて、道具としての良さや、ずっと長く使い続けようと思えなくなる。つまり、「有名デザイナーの作ったものを手に入れた」という満足感しかない。
しかし、普通の50%だったり、その少し下の47%くらいになると、魅力がなくなり、もしかしたらダサく見えたりする。その商品をつくるにあたって何を意識したのかも見えなくなる。何も感じられないデザインは、飽きたら捨てられる可能性が高くなる。

僕の店「D&DEPARTMENT」で2年に一度、企画している「LONG LIFE DESIGN展」の図録では、写真でそのことを表そうとして大変苦労しました。写真がキレイすぎると嘘くさくなり、普通すぎても魅力がないもののように伝わってしまう。80%の綺麗(きれい)さではなく、40%の格好悪さでもない。「51%」を目指す。普通なんだけれど、ちょっと格好良い。このチューニングが難しいから、とても苦労します。
でも、そこにリアリティとクリエーションが同居して、よい居心地が生まれた時、「ほっこりしながらも、格好良い」となる。そういう写真を撮るのは本当に難しいのです。

広告などのコピーにも同じことが言えます。コピーライターの後藤さんに、これからdのコピーをお願いしようとするキックオフ的な打ち合わせの席で、この話になりました。「広告コピーのようなコピーの時代は終わった」という話です。
相変わらず「伝えたいのは、未来です」的な、コピーライターが得意なトーンはもう、さっきのデザインでいうと80%の胸焼けするもので、業務用でありすぎます。でも40%では素人くさい。ほんの少し、1%だけ多くデザインされていることで、トレンドに流されず、息の長いものになる。
例えば、「そうだ 京都、行こう。」は50.5%。「恋を何年、休んでますか?」は、60%。そう思うと、「伊勢丹」の眞木準さんのコピーは絶妙で、ファッション臭を効かそうとすれば80%くらいがいいとしたら、60%くらいのところに落ち着かせて、流行の渦を作りながらも普遍的であるというポジションを強く意識していたように思う。

dはこれからも51%のデザインでありたい。それはサービスも接客も。そして、内装もオリジナルアイテムのデザインも、50%の普通に1%を足すことは、かなり難しい。

店に来るお客さんに「いらっしゃいませ」と言うのは、ある意味「店員」として簡単である。お客さんと店員の垣根もなくして、とはいえ、お客さんより1パーセント店寄りの立ち位置で、「こんにちは」を1%店寄りにした意味としての「いらっしゃいませ」が言えたらいい。

「100%店員」、「100%お客さん」という時代が終わる。お客さんと店員がそれぞれに1パーセントずつ食い込んで、賓主互換(ひんしゅごかん:禅の言葉で、亭主とお客、お客と亭主が時に入れ替わること)になった方が、良いものが生まれる。ここには相互に認め合い、共有し合うビジョンが必要で、相当難しい。でも、新しいサービスや商品を生み出すためにも、ここの関係の壁の破壊は必須と思う。

dはこれからますます51%を目指したい。

工芸品

普通のものに1%だけ、デザインが強く入ると、ものは急に緊張感を持つ。意外にも、たくさんのものを見ていると、すぐにそれが見えてくる。韓国チェジュ島で作られている工芸品に少しだけデザインが足されたものたち

名店はスタジアムのよう

今という時代を生きていくには、ある程度、時代を読まないとなかなか生活や商売をしていくのが苦しいですよね。時代を読むことは、もちろん昔からあることですが、テクノロジーの発達で、それが劇的に変わってしまう。
それが日々起こっている訳ですから、商売人はもちろん、生活者も時代の流れを読まないといけない。当然、時代の流れを意識して、情報から、人から距離を置くという田舎暮らしも一つの選択肢になる。「便利」な時代から「安心」の時代へ。そして、「実感」の時代になっていくとき、やっぱり「人」なんだよなぁと、つくづく思います。

先日、金沢に行ったとき、お昼に、予約の取りにくいお寿司屋さんに連れて行ってもらいました。まず、目立ったのは「人の配置」というか、店内のレイアウト。「人」への考え、意識が現れていました。東京の名店「シンスケ」もそうです。客席は全て店主のいる位置を向いている。それはまるでスタジアムのようで、よくよく考えると、名店には、スタジアム形式になっているところが多い。誰が主役で誰が脇役かわかる。その多くはカウンターになっています。もちろん、店主がいつも主役という話ではなく、相互に役を交代で行うような一種のライブ感がある。
たまにカウンター形式なのに、主役がわからない店がある。そういう店は、ただの“カウンターの店”ということになります。名店のようにドキドキワクワクがないのです。

「おいしい」とは食材や仕込みの“仕事”が半分で、残りの「おいしい」とは、人から伝わってくるシズルだと思います。店主の意識が、店内のレイアウトや壁に飾られているものなどに伝播して、細かな景色を作っていく。
ということは、その店主がほぼ全てであり、その店主の技、振る舞い、客に投げかける言葉の一つ一つが、「おいしい」の大半を作っている。ということは、そのひとがいなくなったら、どうなってしまうんだろう。五感を満たされて初めて本当においしいと言えるとしたら、やっぱり「店主」の存在って本当に大きいと思う。

その金沢のお寿司屋さんのカウンターでは、主人を中心に両脇に2人ずつがそれぞれ、キビキビと仕事をしていました。そして、どう見ても彼が右腕だろう、という職人さんがいて、あとで主人に変わって中心で握っていた人は、きっと息子さんで……。“右腕”の彼の主人への気づかいや手際は、それはそれは、こちらも気持ちがいい程で、主人への尊敬の気持ちがそうさせているのだろうと、それを見る客の我々も微笑ましくて応援したくなる。一方的に上司だ、社長だ、とすることはいくらでも出来るけれど、部下の上司への立ち振る舞いで、それが本当に健やかだと客側が感じられることほど、素敵なことはないなと思う。そこには部下を「育てる」という愛と意識があり、育ててもらっているという感謝がある。
人を慕うということは、素晴らしい情景を作り出す。その寿司屋さんには、こうしたことを思い考えさせてくれる深い情景がありました。もう一度行きたい。そして、「本当においしい」を五感でまた、味わいたい。そして、自分もそういられたらいいなと、思う。まだまだ努力が必要です。

ロングライフデザインを学べる本

ながくつづく雑談 普通なんだけどちょっとカッコいい51%を目指す

『東洋的な見方』(鈴木大拙著・角川ソフィア文庫)

僕にとっては本当に難しい本でした。時間がかかりましたが、なんとか読破しました。駅伝のランナーになった気分で読み進んでいきました。途中、どうにもわからない部分もありましたが、宗教的な用語がいっぱいで後続ランナーにぶっちぎられた感じの最後尾ランナーの気分で耐えました。 

さて、一言で言うとタイトル通り「世の中には西洋的見方と、東洋的見方がある」という本です。これは岐阜にある「ギャルリももぐさ」の安藤雅信さんから「読め」とアドバイスされて読んだ本です。
d&dをやりたいと申し込んでくる人がヨーロッパ圏におらず、アジア圏に多いのも、ここだと思いました。全体的に大拙節での「禅」解説と並行しています。禅も結局「東洋的」なわけですから。ひとまず、文中からご紹介します。

「飢えて食い、渇して飲み、困じ来たって眠り、醒めてまた働く、日日是好日で結構この上なしだが、ここに一つ「押さえ」どころを持っていないと、人間ではない。価値の自覚ということがある」(『東洋的な見方』より)

「価値の自覚」ですよ。そんなこと、意識したことないですよね。「価値の自覚」……。
「知性の特徴は、何でも、まず二つに分けて、それから考え出すのである」(同)

これもすみません。そういえばそうですね。

「抽象の極限と思われるものを、日常生活そのものの上に具現するのである。これを、禅と言ってよい」(同)

わかりません!! わからないけれど、うっすらわかるかもしれない。そういうのが僕は好きです。
 
また、剣道に禅が大いに関係し、東洋人はこれを理解するとも書いてあります。戦う時は「自分を忘れろ」という考えが東洋的だと。西洋人には、この手の話は「何を言っているかさっぱりわからない」となるようです。だからこそ、西洋人の一部の人がここにはまってしまうわけでしょうね。

「東洋は母性愛を理想とし、西洋は父性愛が好いという風になっている」(同)

観音さまは母ですねー。キリストの神(ゴッド)はヒゲの生えたおじいさんとして描かれますね。そこを「マリア」が補っている感じでしょうか。宗教が親しまれるためには、マリアや観音さまは必要なキャラですね。

「東洋民族の意識、心理、思想、文化の根源には、この母を守るということがある。母である、父ではない。これを忘れてはならぬ」(同)

欧米人の考え方の根源には「父」があるようです。父は義、母は愛。こういうの、じっくり日常の中で意識することはないですね。しかし、私たち日本人のDNAの中に刻まれていそうです。

と、いうことで、この本、辛いですが、お勧めします。
ロングライフデザイン的にいうと、ものを作り出す人間にも、東洋的、西洋的思考がある。そして、その根底には「禅」のようなものがある。だから、極論ですが、そういう意識が混ざっているようなものは、どうも、長く使いたいとか思うのでしょうね。しかし、僕にはとっても難しい本でした。

そう言われるまで、この本に出会うまで、自分のものの見方が「東洋的」だなんて、思いもしませんでした。しかも、読んで掘り下げていくと(なんとなく) いろんなことに紐づいていて、世の中にはこういうことってあるんだなぁということを知ることができて面白いです。

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