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『Fukushima50』出演の吉岡里帆が抱く福島への思い 「みなさんの声を少しでも表現できれば」

映画『Fukushima50』(フクシマフィフティ)に、佐藤浩市さん演じる福島第一原子力発電所の当直長、伊崎利夫の娘役で出演しています。この写真は、その撮影の合間に避難所のセットで出演者のみなさんと撮ったものです。

実際にあった大変な事故を扱う映画に出るということで、オファーがあった段階からとても緊張感がありましたが、同時に「出演のお話をいただいたからには全(まっと)うしなければ」と心が引き締まる思いもありました。

『Fukushima50』出演の吉岡里帆が抱く福島への思い 「みなさんの声を少しでも表現できれば」

 

揺らぐはずのないものがなくなってしまう事故への恐怖

映画に入る前、別のお仕事で、震災前に福島の富岡町に住んでいた女性のお話を聞く機会がありました。その方の家は帰還困難区域の中にあって、今は東京で暮らしていらっしゃいますが、聞かせて下さったお話は生々しく、リアルな当時を知る人の言葉として心に響きました。

今回の映画は「家族」も大きなテーマの一つ。ですから、その方のように故郷を失った方々の想(おも)いを家族のシーンの中で代弁できればと思いながら撮影に臨みましたし、福島のみなさんの声を、自分の役柄を通してほんの少しでも表現できればと思いながら演じました。

監督からも、父親が危険な場所にいるという現実の怖さをキャラクターに乗せて演じてほしいと言われていたので、撮影の合間には自分の家族のことをよく思い出していました。劇中、満足に荷物をまとめられないままに避難所へ逃げなければいけなくなり、津嘉山正種さんが演じるおじいちゃんが、家族の写真を大事そうに抱えるシーンがあります。実は監督の要望で、ここでは実際の私の子供の頃の写真を使いました。だから、父親が撮ってくれた写真が演技の途中でふと目に入ることがあったんです。

写真って、その時に確かに誰かと一緒にいた、その「証(あかし)」のようなものですよね。そんな揺らぐはずがないものがなくなってしまうことへの恐怖を、演技をしながら感じました。

吉岡里帆

 

撮影を通じて感じた被災地とのつながり

私がロケに参加したのは撮影の後半からでしたが、現場に初めて入った時に、出演者のみなさんがこの映画が持つ重い使命を背負って演技をされている雰囲気を強く感じました。浩市さんも疲れていることは一目瞭然で、思わず「お体は大丈夫ですか?」って聞いてしまったぐらいです。

他のお仕事でお会いした時の浩市さんは、いつも若々しくてデニムをカッコよく着こなしちゃう、そんなイメージ。でも今回は不安や苦しさと葛藤しているような雰囲気を感じて、完全に役柄とシンクロされているんだなと思いました。

現場も、監督を筆頭に、とにかく嘘があってはいけない、真実を描こうという緊張感があったと思います。私が出ていた避難所のシーンも、「本当にこうだったんだろうな」と思えるぐらいに作り込んでありました。浩市さんたちがいる制御室の緊迫のシーンとはまた違う不安が充満して、その不安で時間が止まっているような空気を現場で感じました。

吉岡里帆

避難所のセットになっている体育館には、ストーブが一つ置いてありました。とにかく寒いので、みんな自然にそのストーブのまわりに集まってきます。そうしてしばらくすると、誰からともなく何気ない会話が始まって、そうするとちょっと寒さが和らぐんですよね。当時、避難所でどういう会話がされていたか、もちろん私はわかりませんが、きっとそんなふうに、あえて何気ない会話をしようとする時間があったんじゃないかなと感じました。

東日本大震災が起きた時、私は関西にいたので、東北の方々の当時の気持ちがわかるなんて簡単には言えないですし、今まで知らなかったことがたくさんあって恥ずかしい気持ちです。でも、この映画に出演させていただいたことや、富岡町の方との出会いを経て東北のニュースをより注意して観(み)るようになりましたし、福島の復興についてももっと知ろうという意識がとても高まりました。今ではもう他人事とは思えないというか、つながりを感じています。

役者として目指す「作品に浸透する演技」

これまで演技する時は、自分の役がしっかり見る人に伝わるようにしなければいけないと思ってやってきました。でも特に今回は事故の現場で尽力されたみなさんの話でもあるので、少し遠い場所で、微(かす)かに存在するような立ち位置がいいのかなと考えながら演じました。

役者のお仕事は、大勢の方が長い時間をかけて土台を作り、演技ができる場所を整え、すべてが完成したところで最後に入らせていただく仕事なので、作品に関わるみなさんが作って下さったその土台や想いを大事にしなければいけないし、自分もその中に馴染(なじ)む努力、作品に浸透する努力をしていきたいと思っています。

シリアスな中にも、大きな希望が描かれた今回の映画のように、わたしも演じることで誰かの力になれたらうれしいですし、そんな作品にこれからも挑戦していきたいと思います。

(聞き手・髙橋晃浩 写真・小山昭人)

吉岡里帆

よしおか・りほ 1993年、京都府生まれ。2013年デビュー。NHK連続テレビ小説『あさが来た』、『ゆとりですがなにか』(日本テレビ)、『カルテット』(TBS)、『きみが心に棲みついた』(TBS)、『時効警察はじめました』(テレビ朝日)などのドラマの他、映画やテレビCMなどに多数出演。2018年には『カルテット』などでエランドール賞新人賞、2020年には『パラレルワールド・ラブストーリー』『見えない目撃者』で第43回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。

映画「Fukushima50」ビジュアル

吉岡さんが出演する映画『Fukushima50』(フクシマフィフティ)は3月6日より全国ロードショー

■『Fukushima50』公式サイト https://www.fukushima50.jp/

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