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本を連れて行きたくなるお店
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誰かの視点で街を歩くと、見慣れた場所にも発見が 雨宮まみ、鈴木敏夫、枝優花ほか『わたしの好きな街 独断と偏愛の東京』

カフェや居酒屋で、ふと目にとまる、ひとり本を読んでいる人。あの人はどんな本を読んでいるんだろうか。なぜその本を選んだのだろうか……。本とお酒を愛する編集者で鰻(うなぎ)オタクの笹山美波さんは、本の中の物語が現実世界とつながるような、そんなお店に連れて行ってくれます

春の新生活に向け、3月末まで引っ越しのシーズンがつづく。荷造りの準備をしている人もいれば、物件を住宅情報サイトで探している最中の人もいるだろう。

物件を探して、なじみのない土地を訪れる。広さや間取り、通勤時間などの希望条件が合っていても、その街のことをよく知らないと実際に暮らすイメージがわきづらく、引っ越しの足かせになることも。

そんな時に頼りになるのが、その街に住んでいた人の意見だ。2016年に亡くなったライターの雨宮まみさんや、スタジオジブリの鈴木敏夫さん、俳優の美村里江さんなど20人のクリエーターらが、思い入れのある東京の街を紹介するエッセー集『わたしの好きな街 独断と偏愛の東京』を読んで参考にするのもいいだろう。

エッセーを通じて、リアルな東京暮らしを知る

『わたしの好きな街』は、リクルート住まいカンパニーが運営するオウンドメディア「SUUMOタウン」に掲載された東京にまつわるエッセーをまとめたもの。「実際にその街に住んで感じたこと、考えたことを主観的に、そのまま語ってもらうこと」をコンセプトにしているので、書き手の思い出とともに街のリアルな姿を知ることができる。

表紙を描いたのはイラストレーターのたなかみさきさん
表紙を描いたのはイラストレーターのたなかみさきさん

この中で、雨宮まみさんが語るのは、彼女が独立を機に25歳の時から10年住んだ西新宿について。この街を選んだのは、業界の飲み会がよく開かれる新宿まで行きやすく、安い物件を探したから。高層ビルが林立するエリアから少し離れた、古い住宅が並ぶ区画にあるアパートの1階に住んでいたそうだ。

普段は日の当たらない部屋で「安いギャラ」の仕事をし、夜の仕事をする人も多く住む街で粛々(しゅくしゅく)と暮らす。時々、気分転換に高級なお店でウィンドーショッピングをしたり、ホテルのラウンジへ出かけて背伸びしたりした。お金はなくても夢は見られる西新宿の街の構造が、彼女のハングリー精神をかきたてた。

表舞台で活躍していたクリエーターが、陰で重ねた努力や、抱えていた思いを想像するとドラマを感じる。ただのオフィス街だと思っていた西新宿だが、カルチャーも楽しめそうな場所に映るようになった。

学生であふれ返る、高田馬場のロータリーの真実

早稲田大学出身の26歳の映画監督・枝優花さんが取り上げたのは高田馬場。高田馬場近くの中高で学生時代を過ごした私にとって特別興味深かったので紹介したい。

彼女のエッセーには、学生時代に通った飲食店に古本屋、映画館、そして酔った学生であふれ返る駅前の「ゴミロータリー」の思い出話がつづられている。

十数年前と今も変わらぬ景色に安心する。高田馬場駅前の商業ビル「BIGBOX」は建築家の黒川紀章氏が手掛けたことで有名
十数年前と今も変わらぬ景色に安心する。高田馬場駅前の商業ビル「BIGBOX」は建築家の黒川紀章氏が手掛けたことで有名

ロータリーで騒がしくしている大学生たちは、外野には若くて楽しそうで、うらやましく見える。中高生だった私にとっては、自由を謳歌(おうか)する憧れの対象だったほどだ。けれども、いざ自分が大学生になってみると、お金もないのに毎日飲み会に参加しむちゃをする、ひどい状態の学生の集まりにしか思えなくなったから面白い。

大学生に戻ったつもりで高田馬場を街歩き

枝さんが語る高田馬場は、どれもこれも初めて聞くエピソードばかり。通い慣れたはずの街の知らない部分に興味がわいて、久しぶりに高田馬場を訪れた。

まずは腹ごしらえに、枝さんが通っていた高田馬場の喫茶店「ロマン」へ。1969年に創業して以来、近隣の学生や勤め人に愛され続けているお店だ。中高生時代は寄り道が禁止されていたこともあり、高田馬場の喫茶店には初めて入る。

店前の食品サンプルに、棚にびっしりと詰まった漫画、優しい日の光が差し込む座席。懐かしい雰囲気に心安らぐ
店前の食品サンプルに、棚にびっしりと詰まった漫画、優しい日の光が差し込む座席。懐かしい雰囲気に心安らぐ

名物メニューは、店名を冠した「スパゲッティーロマン」。ナポリタンの中央に生卵を載せたもの。簡単なアレンジに見えるが、ひと口食べれば納得の味。トマトの酸味に、卵のコクがマッチして口に運ぶ手が止まらない。ランチには無料でおみそ汁がついてくる。少し妙な組み合わせだが、昭和生まれの私には安心するセット。しみじみおいしい。

タバスコと粉チーズをかければおいしさアップ、懐かしい味(760円)
タバスコと粉チーズをかければおいしさアップ、懐かしい味
プラス250円でセットになるブレンドコーヒー。すっきりとしていて飲みやすい
プラス250円でセットになるブレンドコーヒー。すっきりとしていて飲みやすい

昼どきをすぎると学生らしき人たちだけがお店に残った。みんな、それぞれ何かの作業をしている。2月だから、論文や就活の準備だろうか。食後にセットで注文したブレンドコーヒーを飲みながら、心の中でエールを送る。

ロマンを堪能した後は、早稲田通りの古本屋街まで散歩する。当てもなく歩きながら、店先に置かれた1冊100円均一の棚から掘り出し物を探していると、大学生に戻ったような錯覚を覚えた。最近、本といえばネットで買うようになっていたので、こうした体験が新鮮に感じるほどだった。

教えてもらって初めて知る、通い慣れた街の魅力

枝さんのエッセーをきっかけに、なじみの街だったはずの高田馬場を訪れると、思いがけない発見や体験が待っていた。

「大人になると知らないことが無くなってくる」とよく言われる。けれども、誰かの視点を借りると、既知のものにも新たな魅力を見いだせることがある。

まだまだ知らない街の魅力を見つけるために、いろいろな人の言葉を見つけたい。

ロマン

東京都新宿区高田馬場2-18-11 稲門ビル M2F
03-3209-5230
営業時間
11:30~21:30
無休

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