再び「12万円で世界を歩く」ロシア・サハリン編5

再び「12万円で世界を歩く」の番外編。12万円の総予算で海外に1週間暮らす、ロシア・サハリン編の5回目です。前回は、下川裕治さんがユジノサハリンスクで借りたアパートでの生活をつぶさに紹介。今回は、極寒の街へ散歩に繰り出し、博物館、動物園、市場をまわります。
(写真:阿部稔哉)
ユジノサハリンスクの街歩き
晴れた日は散歩──。サハリンのユジノサハリンスクの気候は変わりやすい。晴れと雪空が繰り返される。朝、背伸びをしたくなるような青空に、散歩を思い立つ。しかしそれは暖かい部屋から窓越しに屋外を眺めたときの浅慮? 外に出るとマイナス15度近い寒気が待っていた。やがて雪まで舞いはじめた。しかしユジノサハリンスクの人たちは、寒さをものともしていなかった。街には笑い声が響いていた。
総費用12万円で、サハリンのユジノサハリンスクに暮らす。5回目はユジノサハリンスク歩きです。
今回の旅のデータ
ユジノサハリンスクの街は、碁盤の目とまでいかないが、まっすぐの道が多く、迷うことはない。背の高いビルも少ないので視界も利く。寒さをどう防ぐかだけを考えればいい感じだ。道に沿って、カフェや食堂が点在している。そこで体を温めて、また歩くといった散歩になる。市内にはバスも走っているが、路線がわかりづらい。サハリン州郷土博物館、動物園の入場料はともに200ルーブル、約342円。
長編動画
街歩きを動画でも。雪空の下のユジノサハリンスクの風景も一緒に。最後の方で市場にも。買い物? いえ、冷えた体を温めるため。
短編動画
駅前の路上ミュージシャン、雪遊びの子供たち。日がかげると一気に冷え込むが、誰もその寒さなど気にもしない。その雰囲気を味わってください。
ユジノサハリンスクの街歩き「旅のフォト物語」
Scene01
借りたアパートの前の道に沿って公園がつくられていた。ベンチが置かれ、子供たち用の遊具も。そこを歩いていると、ケージのなかに本が。しばらく見ていると、近所の人々が本を手にとっていた。どうも読み終わった本をここに置いてリサイクル。きっとここはいい街……。そう思えてくる。
Scene02
まずサハリン州郷土博物館へ。日本が建てた博物館で、いまも博物館として使われている。コンクリートの建物の上に日本風の瓦屋根を載せている。1930年代、日本ではやった帝冠様式だという。ユジノサハリンスク滞在2日目にも訪ねていたが、今回は建物の周りの展示を見て、館内にも入ってみた。
Scene03
建物の周囲は屋外博物館。ここは無料で見ることができる。ギリヤークとも呼ばれる先住民ニヴヒの家や流刑民住居の復元。日本時代の碑のほか、日本軍の小型戦車も展示されている。日本人には屋外展示のほうが興味深い? ただし寒いですが。庭園にもなっていて、木々の雪囲い作業の最中だった。
Scene04
館内は暖かくてほっとした。学校の課外授業も行われていて、にぎやかだった。表示はすべてロシア語。石器時代、先住民の歴史、ロシアになってからの展示が多く、日本領土だった時代の展示は少ない。この写真は1945年、サハリンに入ったロシア兵が、日本風の建物の前で交通整理をしている風景。
Scene05
ガガーリン記念文化公園の北側にあるサハリン動物園にも行ってみた。冬季は休園かもと思っていたが。来園する大人が意外と多い。皆、暇? 目玉はアムールトラ。シベリアの東部に生息している。やはり本場で見ると、臨場感が違います。クマのコーナーもあったが、冬眠中といわれた。本当?
Scene06
動物園から雪の道を歩き、ユジノサハリンスク市街へ。途中のカフェで250ルーブル、約428円の少し高いハンバーガーの昼食。さらに歩いてメイン通りに。銀行や量販店、スマホショップ、市場なども集まっている。ここを通る路線バスも多い。ビルもカラフルで、モスクワの繁華街を思い出す。
Scene07
メイン通りから細い道を入ったところに市場があった。30分も屋外を歩くと、指や足先が痛くなってくる。買うものもなかったが、体を温めようと市場を一周。ここは雑貨屋コーナー。小さな店がぎっしり連なり、並んでいるものはどの店もほとんど同じ。もう少し工夫をしても……と考えてしまう。
Scene08
気温はマイナス10度を下まわっているのに、路上ミュージシャンは手袋もはめずにギターを弾く。その元気さに歩く人が小銭を置いていく。その歌声は短編動画で。この後、酔っ払いが近づき、「頑張ってるな。1杯飲め」とばかりにウォッカの瓶を差し出す。ミュージシャンの彼、少し困ってました。
Scene09
訪ねたのは11月末から12月初旬。3週間もすればクリスマス。ユジノサハリンスク駅前の広場では、クレーン車まで出してツリーの飾りつけがはじまっていた。きっとこれから電飾もつけられるはず。レーニン像よりはるかに高いクリスマスツリー。いまのロシアらしいワンショット?
Scene10
カラフルな鞍(くら)を載せた馬が客を待っていた。その様子は短編動画でも。この背に乗って、駅前広場を一周するのだろうか。マイナス10度でも、馬に乗るのがサハリンの人たち。ユジノサハリンスクの街歩きをしていると、妙に気分が軽くなってくる。不思議な感覚だった。
Scene11
街ではしばしば日本の中古車を目にする。トヨタがいちばん人気だ。理由は中古車でも故障が少ないこととか。「厳冬期の夜、家もないような道を走っていて、車が故障すると、命にかかわるからね」。シベリアでトヨタの中古車を販売する男性が説明してくれたことがある。彼は小樽に10年暮らしたという。
Scene12
ユジノサハリンスク駅の待合室で暖をとる。北部のノグリキまでの列車が1日1~2本。近郊の街へ向かう列車は1日3~4本。列車はこれしかないというのに、待合室の椅子を埋める人は意外と多い。おそらく半分以上は、買い物の途中、ここで体を温めているような気がした。
Scene13
ユジノサハリンスク駅の脇に、昔、サハリンを走っていた列車が展示されていた。日本のD51型蒸気機関車、ソ連時代の武骨な列車……と眺めていくと、懐かしい車両も展示されていた。日本のディーゼル気動車だった。おそらく北海道から渡ったのだろう。サハリンの鉄道からは日本が漂ってきた。
Scene14
街歩きも終盤。アパートへの帰り道。僕らが毎日のように渡る歩道橋に、いつも2人か3人のホームレスがいた。夜もここで眠るのだろう。着ぶくれして、だるまのような体を、階段に横たえていた。しかし朝と夕方、近くのカフェや食堂の人が食事を持ってきていた。だから冬でもサハリンにいるのかもしれない。
Scene15
アパートに近い公園に戻ってきた。寒い日でも、ベビーカーに赤ちゃんを乗せて外出する女性をよく目にした。赤ちゃんの顔まですっぽりと毛布で覆っている。ベビーカーには車輪とそりがついている。雪道はそり、雪が解けたら車輪。水陸両用ならぬ、雪陸両用ベビーカー。これってロシア人のアイデアだろうか。
【次号予告】次回は宮沢賢治が訪ねたオホーツク海に面した浜へ。
※取材期間:2019年11月30日~12月2日
※価格等はすべて取材時のものです。