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「マジカルな気配が漂うリアル」にひかれる cero・髙城晶平が選ぶ愛の5曲

こんな時代だからこそ、愛を聴きませんか、語りませんか──。実力派アーティストが“愛”にまつわる楽曲を紹介する連載「THE ONE I LOVE」。

今回は、自身のソロプロジェクトShohei Takagi Parallela Botanica(ショウヘイタカギパラレラボタニカ)として、待望の1stソロアルバム『Triptych』を完成させたばかりの髙城晶平(cero)がセレクトした5曲を紹介する。

三つの才能が集い、異形のサウンドを作り上げるceroというシステムが進化していくにつれ、自分本来の色に立ち返る必要があったという髙城。初のソロ作は自らの軸足を再確認するような、極めてプライベートな印象を与える作品となった。そんな彼にとって、ラブソングとは一体どんな意味を持つものなのだろうか。

<セレクト曲>
1 Jenny Scheinman「Twilight Time」
2 Sam Gendel「Love Theme from Spartacus」
3 スガシカオ「アーケード」
4 坂本慎太郎「君はそう決めた」
5 Shohei Takagi Parallela Botanica「ミッドナイト・ランデヴー」

「マジカルな気配が漂うリアル」にひかれる cero・髙城晶平が選ぶ愛の5曲

■Jenny Scheinman「Twilight Time」

原曲はソウル・クラシックで、これはそのカバーですね。今回作った僕のソロアルバムにかなりインスピレーションを与えた曲です。構造としては真っ当なハチロク(6/8拍子)のバラードなんですけど、彼女の録音はすごく荒々しくて、美しい曲のはずなのにどこか不気味に響くというか。たとえばゾンビ映画なんかのスプラッターなシーンとかで、突然ものすごく美しい曲が流れてきて異様な恐怖感を生む演出があったりするじゃないですか。異化効果みたいな。そういう不思議な魅力を持つ曲だと思います。僕が今回やりたかったことにすごく近いですね。

ラブソングとしてはすごくストレートな、「愛し合う2人を隔てるものは何もない、さあチークタイムだ」みたいな(笑)。現代ではなかなか聴けない、おおらかな時代のラブソングだと思います。

ちなみにこのジェニー・シェインマンという人のことは、ビル・フリゼールっていうジャズギタリストとよく仕事をしているバイオリニストとして知りました。ソロで歌モノも数枚出していて、この曲もその中のひとつですね。最初は「歌も歌うんだ?」くらいの感じだったんですけど、聴いてみたらめちゃくちゃうまい(笑)。ほかにもジョン・ゾーン周りのアバンギャルドな方面にも参加したりしていて、すごく幅広い人です。

■Sam Gendel「Love Theme from Spartacus」

これも曲自体はものすごく有名な、映画『スパルタカス』(スタンリー・キューブリック監督/1960年)の曲ですね。いろんな人がカバーしてきている名曲ですけど、この切り口は今までなかったんじゃないかな。超・脱構築っていうか、余計なものを省きに省きまくったミニマルな解釈が面白いなと。原曲の持つ牧歌的な美しさや情感を限りなく排除して、「愛のテーマ」ではあるんだけど、もはやアンドロイドの愛みたいになっている(笑)。

ただ、これは原曲も一筋縄ではいかない曲だなと思っていて。「愛のテーマ」というタイトルのわりに、すごく空気感がビターじゃないですか。もっと「人を愛するのは素晴らしいことだ」みたいな感じのハッピーな曲であればこのタイトルになるのもわかるんですけど、これは愛情の裏側にある複雑な感情までもが表現されている印象があって。「人と人とが出会って恋をして家族になって」みたいなことよりも、もっと大きな「人類の歴史における愛の功罪」のようなものが描かれている感じがしますね。宇宙的な。

 

■スガシカオ「アーケード」

実は僕、スガシカオさんの音楽ってほとんど聴いてこなかったんですよ。世代的には、それこそ「夜空ノムコウ」が小学生の頃だったりでドンピシャなのかなと思うんですけど。クールなファンクに乗せて諦念(ていねん)を歌うっていうアダルトな手法が、ちょっと子どもには高度すぎたのかも(笑)。でも最近になって、これまで聴いてこなかったものをサブスクとかで聴きあさったりしてるんです。aikoさんとか。その中でこのスガさんの「アーケード」に出会って、完全にやられてしまいました。

真夜中のアーケードで夜な夜な会っている2人の様子が描かれた曲ですが、その2人の関係性も語られないし、何をしているのかの説明もない。けど、どこか後ろめたい空気が歌全体に漂っていて、そこがたまらないなと(笑)。誰にも知られちゃいけない何かを抱えているような雰囲気を感じるんですよね。許されざる愛の渦中にある人がこれを聴いたら、「私たちのことを歌ってる!」って思うんじゃないかなあ。

この曲に限らずスガさんの詞って、1曲の中に起承転結があってすごく物語っぽいですよね。僕の曲で言うと「Orphans」とかと共通する作り方を結構される方なのだなと思っています。説明をあまりしすぎず「舞台装置を提示して、きっかけになる何かが一つあれば、あとは勝手に物語が動き出す」みたいな描き方って僕もよくするんですけど、そういう意味ではおこがましくも「ちょっと似てるな」と(笑)。お会いしたことはないんですけど、勝手にシンパシーを感じています。

 

■坂本慎太郎「君はそう決めた」

以前イベントでご一緒したときに生で聴いて、いたく感動した曲です。親目線で見た子どもの行動を淡々と描写している歌だと思うんですけど、子どもへの愛情を歌うのってある種危険なことじゃないですか。紋切り型になりやすいというか、「子どもとは素晴らしいものである」という表現にそうそうオルタナティブは存在しないですから(笑)。そういう意味で、この曲は唯一そういうものとして響くなと思ったんです。

詞としては「宿題を しながら」みたいなワードがさらっと使われているだけで、はっきり子どものことだとは言ってないんですよ。ところが、「君は戸をあけて 突然外に 出た」というフレーズが急に出てきて、ここには思い当たるふしがあったんです。僕が中学生の頃にテスト勉強で初めて徹夜をして、夜が朝になる瞬間に「ちょっと外に出てみようかな」ってこっそり家を出てみたことがあったんですけど、そのときのドアを閉めるバタンっていう音を、実は親は聞いていたんじゃないかなって。そういう、“初めて”を今まさに経験している子をただ見ている親の目線が歌われてるんだと思ったら、急に感慨深くなったというか。これはそういうラブソングだろうと思いますね。

表現手法として、やっぱり僕はマジックリアリズム(神話や幻想などの非日常・非現実的なできごとを緻密なリアリズムで表現する技法)みたいなものが好きなんですよ。ファンタジーではなく、あくまでリアルに軸足があるもの。そこにあるリアルを描写することでマジックが起こりそうな気配を感じさせるものが好きだし、そういうものを作りたいんだと思います。

 

■Shohei Takagi Parallela Botanica「ミッドナイト・ランデヴー」

今回のアルバムの中では、これが一番ラブソング的かなと。ただ、言うなればこれはメタ的なラブソングです。劇中劇みたいな、“音楽内音楽”というか。すごく歌メロらしい歌メロがハッキリとあるし、リズムもコード進行もものすごく歌モノ然としていて。歌詞にしてもスガさんの「アーケード」と似たような内容を歌っていますし、聴くための音楽というよりは歌うための音楽に近いものになっていると思います。歌謡曲、つまり“歌を謡う曲”的な。

ラブソングって、実体験を元に歌詞を書く人も多いと思いますが、僕は自分に主軸を置いては絶対に書けないなと思っています。照れもあるし、過去にさほど劇的な何かがあったわけでもないし(笑)。そうすると、何か別のペルソナを借りてやる必要があるんですね。たとえばこの曲なんかは、もう自分の子どもにアイデンティティーが移りつつある。「我が子がティーンエージャーになったときにこういうことがあるかもしれない」って考えると胸が熱くなるし、「その場に居合わせたい」みたいな気持ちをよりどころにして書いているところが多分にあると感じています。そういう意味でもメタ的ですよね。

そもそも「ラブソングを作りたいのか?」と言われると、難しいところなんです。ラブソングって、私小説的に曲を書く人か、あるいは完全に職人として作る人か、そのどちらかにしか作る資格がないんじゃないかと思っていて。僕がそのどっちなのかっていうのは微妙なところなんですよ。ラブソングと対峙(たいじ)するには、まだちょっと自分の立ち位置があいまいだと感じています。ただ、もしかしたら“自分が歌う”というところから解き放たれたら書ける可能性はあるかもな、とも思っていて、たとえば「アイドルさんに楽曲提供します」みたいなことになれば、もうドバドバ出てくるかもしれない(笑)。

(企画制作/たしざん、取材・文/ナカニシキュウ)

 

■髙城晶平セレクト「THE ONE I LOVE」プレイリスト

 

■Shohei Takagi Parallela Botanica『Triptych』

 

■Profile
髙城晶平
2004年に結成されたバンド・ceroのフロントマン。バンドとしては11年にカクバリズムより1stアルバム「WORLD RECORD」を発表し、独自の世界観と高い音楽性で注目を集める。以来4枚のオリジナルアルバムをリリースしているほか、16年にはSPACE SHOWER MUSIC AWARDSにてBEST ALTERNATIVE ARTISTを受賞。20年4月、Shohei Takagi Parallela Botanica名義で初のソロアルバム『Triptych』を発表した。

【関連リンク】
Shohei Takagi Parallela Botanica / 1st album “Triptych” 特設サイト
https://kakubarhythm.com/special/triptych/#/

高城晶平(髙城 晶平) (@takagikun) · Twitter
https://twitter.com/takagikun

cero公式サイト
https://cero-web.jp/

cero_info (@cero_info) · Twitter
https://twitter.com/cero_info

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